「なまり亭」は好評らしい。時々、新聞のテレビ欄で、紹介文のところに登場する。“
Matthew's Bet Hit TV”の紹介なのに、「なまり亭」のことしか書いてなかったりする。
地元の新聞にコラムも載っていた。方言は今、「可愛い」ものらしい。
*1
先日のは、映画「
容疑者 室井慎次」の宣伝も兼ねて、秋田代表・
柳葉敏郎と福岡県代表・
田中麗奈。福岡だったのか。
冒頭の挨拶、「
秋田県出身の柳葉敏郎です」が既になまっている。
「あきたけん」を「
あきたけん」というアクセントで言うことと、「やなぎば」の各音の前に小さな「
ん」を入れて「
やんなんぎんば」とするのがポイント。昔、欽ドンで「山田だ」を「
やんまんだんだ」と言ってウケていたが、あれと同じ音声現象。「としろう」を「
としろう」としてもよい。
田中麗奈の方は、「
がば がんばるけん」と言ってガッツポーズ。む、可愛いかも。「
がば」は強調。
彼女の芝居って、最初の「
なっちゃん」しか知らなかったりする。「がんばっていきまっしょい」はちと関心あったのだが、タイミングが合わずに見ていない。そもそも秋田に来たかな。
若い女優で、演技はものすごく決まってるのだが、自分でしゃべるとごく普通の若い女性、ってのを見かける。上野 樹里あたりもまさにそんな感じ。彼女の場合、発声が全然、違う。
まずは、方言の文から共通語への即時翻訳。
ギバちゃん、いきなり固まる。
最も長時間、固まっていたのは、「
さっさぁ」であった。これは「しまった」というような間投詞で、「
さい」などと言ったりもする。最後に原文を通して読んだときのイントネーションもおかしかったから、それに気づかなかったのではないか。「
さっさぁ」って地域差あるのかな。刈和野
(かりわの) 近辺では言わない?
「
ばんげのまま」も「夕飯」であることにしばらく気づかなかったように見えた。どっちかってば「
ばんげんまんま」ではないだろうか。
誤答連発したのが「
っけ」。「言ったら」が秋田では「
言ったっけ」であるわけだが、これを「たら」に変換できない。「前に、この話したっけ?」という形そのものは共通語にあるから、それと混同したのかもしれない。
ゲーム終了後、例の「
しゃべればしゃべったってしゃべらいるし…」を披露。
これが、単に早口言葉としてだけでなく、なぜ方言文として面白いのかを考えてみた。全文を以下に挙げる。
これはつまり、秋田の (津軽でも使われる言い回しだが
*2)「
しゃべる」が、共通語にある「喋る」とは、相当に違う、ということだ。
端的に言えば、各行の最後に現れる「
しゃべる」は「喋る」に置き換えることができない。ほかの「
しゃべる」も、「喋る」にしたのでは、間違いとは言わないが、すわりが悪い。
「喋る」は自発的な行為にしか使えないのではないか。
大辞林や
大辞泉が「ものを言う」という語釈を与えているのがまさにそれで、上の秋田弁の方で各行の最後に現れる「
しゃべる」は、「と言われる」「と注意される」のほかに「と噂される」という解釈も可能なのである。
また、「喋る」は具体的な内容を目的語に取ることができない。「と」で受けられない。「お前はお喋りだ、と言ってやった」を「お前はお喋りだ、と喋ってやった」とは言えないわけ。
さて、田中麗奈。
彼女が固まったのは「
せからしか」。
原文は、友達の家に行こうとしたら小さい妹がついてこようとするので、「
せからしか」と言った、というもの。
「
せからしか」は、「うるさい」だけではなく、「うっとうしい」とか「邪魔だ」とかいうニュアンスもある。それを一語で表すことができる単語が見つけられなかったのだと思われる。
それにしてもソツのない解答であった。
ゲームは一休みで、方言アフレコ。
柳葉敏郎は「ビバリーヒルズコップ」、田中麗奈は「ゴースト〜ニューヨークの幻」。
デミ・ムーアが、男と結婚の話をしていて、男がため息をついたのに言う台詞を「
なん、そんため息」とあてたが、この「
なん」がいい。いや、なんつーか、言われてみたい、というか。
次が、方言インタビュー。応答はすべて方言で行われるが、インタビュアーの中に一人だけ赤い服を着た者がいる。その人に対してだけは、共通語で答えなければならない、というもの。瞬間的なコード スイッチングを要求されるテスト――いや、ゲームである。
あの人たち、本当に秋田衆か? ちょっと秋田弁がぎこちなかったぞ。「
あいしか (あらどうしましょう)」が出てきたのには笑ったが、二度目の「
あいしか」はちょっと不自然だった。あるいは、出身地域がバラバラだったとか。田中麗奈側のインタビュアーのノリがよかったところを見ると、どこかの劇団員が即席教育…にしては上手すぎるんだが。
今回、ほとんど出番のない金田一先生、刈和野の大綱引きの掛け声「
じょやーさの」を方言と見なして何度も鈴を鳴らす。
でも、これって共通語訳は不可能だと思うんだが。「
じょやーさの」は「
じょやーさの」であって、「せーの」でも「よいしょ」でもあるまい。インタビュアーの質問が「どういう掛け声ですか」なのだから、「
じょやーさの」以外の答えはありえない。
尤も、共通語でないと駄目、というゲームなのだから、あぁさいですか、と言うべきなのかもしれないが。
田中麗奈の方も、大分、苦労していた。共通語での答えが極端に短くなる。意図的に短くしたのではなくて、止まってしまった、という感じなのだろう。混乱の様子は、がめ煮の作り方を誰に教わったか、という問いに、福岡弁では、母と祖母と言っていたのに、共通語ではお父さんなどと答えてしまっていることに端的に現れている。
地域自慢。
田中麗奈の生徒会長の話は面白かった。「右向け右」に対して、生徒全員が「ヤァ!」って応えるらしいのだが、ものすごく抵抗あるな、俺。
柳葉敏郎が紹介していた「
オランダせんべい」。塩味の薄焼きせんべいだが、醤油味のは「鏡せんべい」という名前で売られている。
確かに、酒田米菓という山形の会社の製品だが、秋田では相当にポピュラーなお菓子。大体、山本リンダを CM に起用できるくらいなんだから、山形県内だけで商売が完結しているはずがない。
なお、秋田空港の売店でおみやげとして売られている。箱入りもある。
山形のお菓子って、これといい、
でん六といい、立派だ。
新潟には
ブルボンがあるな。北日本製菓って名前で覚えてたが変ったのか。
さて、最後の難関が、地元の知人への電話。向こうは方言で攻めてくるが、こっちの芸能人は共通語で答えなければならない。
ギバちゃんは、自分から話し掛けるときはいいが、質問に答えるときや聞き返すときは完全に秋田弁。予想通りの展開。
意外な展開になったのは田中麗奈の方。相談事ないか、という問いに、相手が本当に相談を持ちかけてくる。割とマジな内容だったので、完全に引き込まれていた。
終わった後、「共通語と普通の境界がわからなくなった」と言っていたが、その普通ってのは福岡弁のことだな。
彼女の造作の特徴は、あの切れ長の目だと思うんだが、素で笑うとたれて可愛くなるのな。「丑の日」を知らない、というのはびっくりしたが。
さて、娯楽としてどうだったか、と言うと。
あんまりソツなくこなされてしまうとつまらない。がんばったけど出ちゃいます、というラインが拮抗していないとね。まぁ、年齢差とか、個々人の言語環境なんかの問題ではあるのだが、これは娯楽だから。
そういう意味では、前に見た、切り替えが上手くいかずキレてしまう金子 昇と、最初から最後まで津軽弁で突っ走った新山 千春の回が面白かった。
最後に、スタッフの皆さんに。
「なまり亭」は、登場する芸能人におんぶに抱っこで行くことで最も面白くなる番組だと思います。
あんまり趣向を凝らしすぎると、逆に、凡庸な方言番組になっちゃうので、その辺はご注意を。ゴールデン タイムに移動するらしいし。