Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第454夜

ファイトだ、岡部



 NHK の朝ドラ「ファイト」の話。
 放送開始前は、主役の本仮屋ユイカは、確かに演技はしっかりしてるし、愛嬌はあるんだが、「ヒロイン」としての「外連 (けれん)」にかけるような気がしていた。はっきり言えば、ちょっと地味。
 でも、合ってるよな、このドラマの雰囲気に。色んな苦労が降りかかってくるドラマだから、これが絶世の美女だったりすると、どっちかっつーと 13 時台の民放のドラマになってしまう。
 スタート当初は、苦戦してたような話を聞いたが、最近の視聴率はどうなんだろう。朝ドラは途中からエンディングに歌が入ってくることが多いのに、「ファイト」は半分過ぎてもそうならないので、ひょっとしてまだ苦戦中か? と思っていたら、今週から、サイゴウジョンコの歌が流れている。そう来たか。

 気持ちが東京に行ってる人が多い、というのが面白い。
 優の母親、のりピーの友人である川原 亜矢子は東京で仕事をしていて、父親の緒方 直人が出稼ぎに行って、旅館の女将である由紀さおりが音大に入学して。下世話な話の好きな若女将の三原じゅん子も、行楽シーズンが過ぎたから遊びに行きたい、なんてことを言ってたな。それにしても、この夫婦がどこでどう知り合ったのか不思議だ。
 それというのも、高崎−東京は新幹線で一時間ちょっと。秋田から一時間というと、新幹線ではないが「こまち」で大曲につくあたり。仙台なんかよりはるかに近い。その位置に大都市があれば、そうなるのも当然か。

 オープニングで方言指導の人の名前が紹介されるが、方言話者をほとんどみかけない。
 最初の頃はいたかもしれない。確か、優と親友の里夏と岡部が体験学習みたいなので農家の手伝いをしていたが、その辺り。バネ工場の社員たちもそうだっけか。後は、田村 高廣の村上がちょっとそれっぽいかなぁ、というくらい。「まっつぐ」とか言っていた。
 尤も、この番組、出勤時刻に引っかかるし、土曜日だと朝は寝てるし昼はいないことが多いからおそらく半分くらいしか見てないとは思うんだが。
 こないだ、「まるんこ」というのが出てきた。
 会話の中ではなく、エンディングに映されるイラスト。檀が描いた家族の絵で、それを表現したもの。
「一緒」とかいうようなことだろう、って雰囲気はなんとなくわかるんだが、ググってみたところ、用例ほとんどなし。幼児語なのかもしれない。
 似たようなので、「まるっと」というのもあるな。去年だか一昨年だかの紅白歌合戦で、仲間由紀恵がほんのちょっとだけ出てきて言っていた。会場内の誰も聞いていなかったようだが。
 方言ほとんどないよね、という指摘は、あちこちのブログでも見られる。

 そのイラストを描いている、西原リエゾー先生だが、毒気を完璧に隠したイラストは見事である。その癖、添えられている言葉が「待っているのはわりととくい (優のイラストで)」とか鋭利なのが対照的。
 ホームページの紹介で、「上京ものがたり」などがあげられているが、「ちくろ幼稚園」とか清水義範との共著「面白くても理科」とかも書かなければ、西原理恵子を紹介したことにはならないぞ、NHK.

 群馬の言葉は、埼玉、多摩、神奈川と一緒に、西関東方言に分類される。
 昔の江戸の言葉の特徴が残っていると言われる。
 対する東関東方言は、茨城、栃木、千葉あたりだが、東京がすっぽり抜けていることに注意。東京と、その前身である江戸は、大量の移住によって新しく作られた都市であり、したがって、そこの言葉も新しく生まれた方言である。しかも、首都である京都、商都の大阪、徳川ゆかりの静岡、家康以前の中心地である名古屋の影響を受けているため、関東全域としてみると、そこにだけ西日本方言によくにた島がある、という状況。
 さらに、何度も書いているとおり、開幕の折、従来の江戸の住人は周囲に追い払われている、という事情もあり、関東本来の性質が西関東方言に残っている、ということになるわけである。ちなみに、東関東方言は、東北弁によく似ている。隣だから。
『都道府県別 全国方言小辞典(三省堂』に、群馬の落語家の話が書かれている。普段は訛っているのに、落語をやらせると、見事な江戸弁になる、というエピソードもこれを物語っている。
 この項を書いたのは、群馬県立女子大学の篠木れい子氏だが、この人、NHK の「ふるさと日本のことば」の、群馬の回で出演している。とすると、その落語家というのは、一緒に出演していた、立川 談四楼のことではあるまいか。

 こないだ、来年度の朝ドラのキャストが発表されていた。ずっと続いてきたオーディションをやめた、ということで話題になったらしいが、宮崎あおい というのを聞いてちょっと驚いた。
 彼女の出演作って、ちょっと独特の雰囲気の作品が多い。一番、普通っぽいのが「ケータイ刑事」じゃないか、って思われるくらいなのだが、その宮崎あおい が朝ドラという組み合わせは意外。演技は文句なしなので、それは心配ないとしても、朝ドラの主たる視聴者であるお母様方への受けはどうなのであろう。
 舞台は岡崎だそうで、宮崎あおい の方言が堪能できるに違いない。

 児玉 清のラブラブな旦那っぷりや、三原じゅん子のコミカル演技も楽しいが、ここで言い切ってしまうなら、あの番組の外縁を支えているのは、岡部 (三浦春馬)である。
 次々とシャレにならないトラブルが発生するシリーズなので、岡部が出てくるとほっとする。
 優に惚れてることはバレバレだというのに、当の優に「岡部は、(友達でも恋人でもなく) 岡部だよ」とあっけらかんと言われてしまう、不憫な奴。
 今週、ついコクったが…頑張れ、岡部。




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