Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第451夜

しまぞうり



 ちょっと勢いで地名に関する話。

しまぞうり」って単語がある。「島草履」と書く。
 沖縄の言葉で、「ビーチサンダル」のことである。
 なぜ、「ビーチサンダル」が「島草履」なのか。

 泡盛のことを「島酒」という。もっと短く「しま」とも言う。
 ほかに、「島らっきょう」「島ばなな」「島にんじん」、あるいは「島豆腐」というものもあるのだが、つまり、沖縄固有のものについて「島」という接頭辞をくっつけて表現するのだと考えられる。
 ビーチサンダルは沖縄固有のものではないが、そこから変化して、身近なものについても「島〜」と言うようになったのだろう。オキナワンスタイルでは、「安いありきたりのもの」というような解説がなされている (「小物その他」を参照)。
 類似の単語として、「島ゴム」「島ピン」などもある。普通の輪ゴム、普通のヘアピンのことだ。
 THE BOOM の「島歌」というタイトルも、「沖縄の歌なんだ!」という観点で理解するべきなのだろう。

 京都にも固有の野菜はあるが、「京野菜」と面白みのない呼び方である。

 島といえば、日本自体が島国なのだが、北海道・本州・四国・九州、とこれまた楽しさに欠ける。
 もっと細かく見たところで、東北・関東・中部・北陸・東海・関西で、よく見ると、まったく「固有」名詞っぽくない。
 地名ってそんなもんなのかもしれない。「アイスランド」はそのものずばり、「オーストリア」は「東の国*1」だし、「アメリカ」にいたっては人の名前だ。
 いっそ「蝦夷」とかの方がよっぽど深い意味を持っていそうな気になってくる。マイナスだけどな。

 神話と結びつくことは多い。「ヨーロッパ」の語源である「エウロパ」という女神がいることをご存知の人もいると思うが、四国の「伊予」も神様の名前である。

 イギリスの「ブリテン」だが、人の名前だとか、「騒々しい人々」という意味だとか、色々な説がある。
 ブリテン島はローマから侵略を受けているが、一部の人が現在のフランスに逃げ込んだ。そこについた地名が「ブルターニュ」である、というのは今回、初めて知った。
 人が大量に移住したときに、移住先に、元いた地域の名前を付ける、というのはよくある話である。たとえば北海道には、広島町 (現北広島市)、新十津川町がある。

 北海道では本州のことを「内地」と呼ぶことがあるが、これはどうやらもともとは軍の用語らしい。
 沖縄でも使われるようだが、この場合は九州や四国も含むのだろう。北海道の人が「内地」という場合は、除外はしないまでも、九州・四国は意識に入ってないと思われる。遠すぎて実感が持てないと思う。

 前に、秋田市周辺部では、秋田市の中心部のことを「市内」もしくは「まち」と呼ぶ、という話をした。
島ぞうり」とは逆の方向で、都会から伝わってきた何かに対して「まぢ〜」という名前がつけられているということはないか、と思って探したのだが見つからなかった。わずかに「市 (いち) に出かける」という意味の「まぢだぢ」が見つかっただけ。「むら〜」もない。
 方言形とは言いにくいと思うが、「田舎〜」という商品は割と多い。飾り気のない素朴 (場合によっては粗野) な食べ物など、例えば甘皮をむかずに荒く挽いて太めに切った「田舎そば」なんてのがそうだが、これなどは、普通はマイナス イメージで捉えられる「田舎」がプラス イメージで使われる数少ない例だろう。
「田舎汁粉」というのもあるが、これは「つぶし餡のお汁粉」ときちんと定義があるのだそうだ。

 伊豆大島で、本州のことを「くに」という場合があるそうだ。細かい説明がないので事情は不明だが、かなり興味深い表現ではある (→「What,s 伊豆大島?」)。

 というわけで、ある固有のものを指す一般的な属性が、固有名詞にとって代わる、というような事例を検討してみた。あんまりなかったが。
「みやこおどり」なんてのも思いついたのだが、「みやこ」ってのはその国に一つしかないものだから、微妙に外れているような気もする。
「山〜」「里〜」なんてのは丁寧に捜せばあるかもしれない。今後の課題としたい。




*1
 ドイツ語で書くとわかりやすい。“Oestreich”の“oest”は英語の“east”、“reich”が「国」。
 なお、「オーストラリア」は、ラテン語の「南の土地」から来ている。 (
)





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