Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第429夜

なまり亭



 またテレビ。
 昔はテレビっ子だったと思うが、おそらく会社員になった頃から見なくなっている。やっぱり一日 10 時間程度を問答無用で拘束されると、どこかにしわ寄せが行くわけで。
 一時、本当に朝のニュース (どっちかと言えば天気予報) しか見ない、という時期が続いてたのだが、3 年前にケーブルテレビに加入したらチャンネルがドカっと増えて、見たい番組もバカっと増えたため大変なことになったが、今は小康状態。でも、録ったビデオは漸増傾向である。

 さて、今回の番組は“Matthew's Bet Hit TV.”うわ、なんとも不似合いな。俺は藤井隆のどこが面白いのかよくわからんので、浅香唯が出てるってんでなければ見ない番組である。
 最初は、見たらすぐに消す、ってつもりだったのだが、これがここのページにバッチリな企画だったのでメモを取りながらゆっくりと見た。
 コーナーの名前は「なまり亭」。田舎者のタレントを引っ張ってきて、方言を絡めて話をさせる、というもの。ゲストは、宮崎代表・浅香唯と、鹿児島代表・国生さゆり
 まず、地元方言で挨拶をさせる。
 浅香唯の方は、「てげ」。これは「とても、非常に」。「てげてげ」と繰り返すと、「適当に。気楽に」というような意味になる。「てーげー」あたりになると沖縄方面の語で、同じく「気楽に」。どれも「大概」なんだろう。
 国生さゆりは、自分の名前を「こっしょう」と言っていた。これは鹿児島弁の特徴で、キクチツギグチヅビブの音が「」になる。「靴」も「釘」も「首」も「クッ」 (『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(学研、1998、ISBN4-05-300299-0)』、『都道府県別 全国方言小辞典(三省堂、2002、ISBN4-385-13694-7)』)。
 第一声の「おじゃったもんせ」は、想像がつくと思うが、「いらっしゃいませ」「おいでください」という意味。彼女はゲストなので、これは間違い。おそらく、方言たっぷりの挨拶をしようと思って出てしまったのだと思われる。全体の雰囲気が方言になってない場面で無理に方言で話そうとするとこうなることはある。

 なまり禁止タイム。ここからゲーム。
 まず、方言形で書かれたダイアログを、その場で標準語形に置き換えていく。方言色が出たら減点で、そこで食べている (「亭」というくらいだから) 料理に \1000 づつ加算されていく、というもの。
 なお、審判は、金田一 秀穂氏。
 どっちも大苦戦。
 これ、番組では「同時通訳」と言っていたが、翻訳と同じような作業である。やってみるとわかるが、翻訳した結果できた文は、どうしても原文の構造が残ってしまう。英語だと、関係代名詞なんかあると、「〜するところの〜」となってしまいがちなのだ。それを避けるには、意味を理解した上で、構造は捨てて、日本語で表現しなおす、ということをしなければならない。
 浅香唯は、先攻の国生さゆりの様子を見ていて雰囲気をつかんだらしく、あれほどひどくはない、と言っていたものの、やはり苦戦。
 宮崎市は、何度も書いているように無アクセント地帯である。定まったアクセントがなく、「橋」と「箸」をアクセントで表現し分ける、ということをしないため、日本人が‘L’と‘R’を発音し分けられないのと同じで、人によってはアクセントの違いをまったく認識できないこともある。
 一型アクセントと紹介されてましたが、それは諸県ですよね。唯ちゃんは日向の宮崎市です、金田一センセ。まぁ、編集のミスかもしれないが。
 なので、実は非常に辛いわけだ。
 さらに、彼女自身の性格で、翻訳と発話が調子に乗ってくると、書かれている宮崎弁をそのまま読んでしまう、ということもあって、大減点。

 どちらも、そのゲームが終わったあと、もともとの方言形を滑らかに発音してみせた。そこで拍手が入る (SE だろうと思うが)。これがよくわからん。日本人に、日本語がお上手ですねぇ、すごいですねぇ、と言ってるようなものだぞ。
 方言は、ピュアな感じがする、と進行役のアナウンサー (だと思う)。こういう寝ぼけた発言をするってことは東京者か?
 高橋 克実が、「(国生さゆりに) 鹿児島弁でしゃべられるとたまらない (色っぽくてドキドキする)」と言っていた。鹿児島というと西郷 隆盛 (高橋 克実自身がそういう扮装をしている) だろうが、それは結局、限定的なイメージにしか過ぎない、ということだ。

 次のゲームは、知人に電話をして、向こうは方言で、こっちの二人は標準語で話す、というもの。これも、方言色が出れば減点。
 これはさらに難しい。
 環境そのものが方言になってしまうので、それに抗うのは至難の業である。
 浅香唯の相手は実家の父親なのだが、「何か話しにくいね」と言っていた。まさにその通り。父親と共通語で話したことなんかない、ということだったが、そこへ急に別の言語を持ち込んだらコミュニケーションが阻害されないはずはない。

 通算では、浅香唯の大敗。
 これは、電話の最後の方でキレてしまって共通語への翻訳を放棄したためである。やはり性格だな。

 俺か。
 腹かかえて笑ってましたとも。





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