秋の夜長、読書にいそしんでいる方も多いと思う。
スポーツの方は、楽しみにしていた
象潟町の自転車イベントが台風で流れてしまい、なんとなく残尿感のあるシーズンオフ突入となった。
食欲の方も相当に旺盛で、さっき食ったばっかりだろおい、という毎日である。会社勤めだから、腹減ったからって何か食えるわけではないのだが、休日なんかは空腹感との戦いである。
その反動で夜は呑みながら旺盛に食ってるので、就寝前の読書ができなくなってしまった。秋だというのに読書量減少中である。
子供が本を読まない、なんて言われて久しいが、その理由は単純、大人が読まないからである。親が本を読んでいるところを見たことも、子供の頃に読んでもらった記憶もない人間が本を読むようになるわけがあるまい。それを棚に上げて若者を非難するのは筋違いどころか責任転嫁である。
今回のお題は、本来なら誰もが通る道であったはずのシャーロック・ホームズ。
言うまでもなく舞台は霧の都、ロンドン。
イギリスというのは階級社会である。その一つの尺度として言葉がある。
言葉が大事なのはアメリカあたりも本来は同じなのだが、昨今は、英語が汚くとも大統領になれるようである。
イギリスの「標準語」と言ったら、まずは「クイーンズ イングリッシュ」を思い浮かべる。女王陛下の英語である。
厳密には、これは「標準語」ではない。だって王室の言葉だから。ただし、有力な規範ではあって、これをきちんと話せることがステータスにはなる。日本の「標準語」とは重さが違う。
“Received Pronunciation”という語がある。“RP”と省略される。日本語では「容認発音」などと呼ばれるが、誰が“receive”するのかというと、上流階級である。上流階級が受け入れる発音、ということ。これが「標準語」に近い。
で、この辺りがきちんと使いこなせないと相手にされない。相手に寄るだろうし、極東の田舎から行った人間に対しては寛容になることもあるかもしれないが、まず、一般的にはそう。
シャーロック・ホームズの話には、「〜訛りの英語」という表現が何度も出てくる。
そのことで相手を軽蔑するような精神はホームズにもワトソンにもない。これは、ホームズお得意の、細かな様子から相手のことを把握してしまう観察術によるものと、もう一つ。
さっきの話に戻る。その人がどういう英語を話すか、ということが、イギリスにおいては非常に重要な問題だ、ということである。
これには、特に現代の観点からは、ステロタイプの問題がある。「その訛りからすると、お前は秋田衆だな。酒に強いんだろう」てなあれだ。
今やそんなことを言うのは一部の田舎者だけである。ホームズ的な観察、服装がこうだからこういう仕事だろう、たとえば、眼鏡をかけているところを見れば目を酷使する仕事だろう、というような判断は、伊達メガネなんてものが普及しているとできなくなってしまう。現代の探偵は大変だ。
「アクセント」という単語はニュートラルなものである。ニュアンスの問題だから、いやそんなことは、という人もいるかもしれないが。
“accent”は違う。“WEBSTER'S NEW WORLD DICTIONARY SECOND COLEEGE EDITION”を引くと、6 番目の意味として、“a distinguishing regional or national manner of pronouncing”とある。ある地域や国の特徴を持った発音形態、すなわち、方言である。
英語でアクセントの話をする場合は気をつけなければならない。
視覚方言 (eye dialect)、という言葉がある。
これは、単語を、発音のそのままに綴るる手法のことで、たとえば、“enough”を“enuff”と書いたり、“about”を“'bout”と書いたりする。
前者の例で言えば、“gh”と綴るが発音は“f”だ、ということは、ある程度の知識がないとわからない。つまり、文字化した会話で“enuff”と書かれている人は、知識階級でない、ということが暗に示されている。
後者の例は、歌詞なんかでよくある。“about”の先頭の音は弱いので発音されないか、されたとしてもほとんど聞こえない。“because”が“cuz”なんてのもある。これは知識云々ではなく、ルールに対する姿勢が描写されている。別に反権力に限らず、くだけた会話である、という意味だったりもする。
日本人の歌でもこういうのをよく使ってるが、その辺、本来のニュアンスを理解した上で使っているのかどうかはちと怪しい。そもそもの英語もかなり怪しいが。
ロンドンの方言といえば、コックニー。
ロンドンの下町の言葉、と言われているが、正確には、そこに住んでいる労働者階級の言葉である。つまり、地域方言ではなく階級方言。聞くところによるとベッカム様の英語にもこういう特徴があるとかないとか。
最近、話題に上るのが“Estuary English (EE)”というもので、これはテムズ川の河口域で話される英語。文法は RP なのだが、発音にコックニー的特徴がある。これが、次第に勢力を拡大していて、将来の標準英語になるのではないか、と言われている。
コックニーと RP については、有名な映画「マイ・フェア・レディ」を見ると (聞くと) 実感できる。
これを紹介している記事を見ると、やたらとホームズの話が出てくるのだが、NHK でやったグラナダ TV のシリーズでホームズを演じたジェレミー・ブレット (故人) が出演しているらしい。
というわけで、方言とホームズがつながったところで、最後に紹介するのが、
秋田弁を話すホームズとワトソン。
ぎこちないのは、「推論」「炯眼」といった、かなり難しい言葉と、くだけた表現である方言をと同居させているからだろう。
これを友人同士の自然な秋田弁にするには、全体を解体して、かなりの意訳をしなければならない。
あるいは、難しい言葉を残すために、田舎の議会での言葉づかいのようにする、というのも手か。
タイトル
ホームズで時々出てくる、“The game is afoot, Watson”を秋田弁訳してみた。
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