Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第403夜

U ターンは二度来る



 俺の職場は大企業のコバンザメ会社で、外面だけはよくしたいらしく休みがやたらに多い。このお盆も 9 連休であった。かなりあちこちでうらやましがられたのたが、落ち着いて考えれば会社の休日は 5 日しかなくて、その前後に土日の休みが繋がっているだけである。
 尤も、前にいた会社では、5 月の飛び石連休を有給休暇でつなげようとしたら、ふてぇ野郎だってこっぴどく叱られた人もいたくらいなので、流石にこの田舎で 9 連休が標準的な状態だとまでは思わない。

 今年は 13 日が金曜日で、遠距離を帰省してくる人にとっては今ひとつつながりのよくない構成ではなかっただろうか。そこがコアタイムならぬコアデイなんだとすれば、それが終わった後は、都会に戻る日を含めて 2 日しかない。墓参りの翌日には機上の人となるわけだ。来年は土曜日だからもっと辛くなるのか。ただ、こっちの企業や店舗を見ていると、それを考慮したのか 16 日の月曜日までが休みというところも少なくない。

 ニュースを見ていて気づいたのだが、「U ターン」という言葉には二つの意味があるようだ。
 別の言い方をすれば、U ターンのピークは二度ある。つまり、人々が田舎に来るときと、その人たちが都会に戻るときの二度である。そのどちらも「U ターン」という言葉で表現されている。
 どっちを起点とするか、どっちの方向を「帰る」と表現するか、という問題なので、別に間違いではないのかもしれないが、コアデイである 13 日 (冬なら大晦日と元旦か) をはさんで、ある言葉の指す方向が 180 度逆になる、というのもなかなかすごい話である。

 ネットを「方言 AND 帰省」で検索すると、概ね、方言に対して肯定的なことを書いているページばかりがヒットする。帰省すると方言に戻る、帰省して方言を耳にするとほっとする、あるいは、帰省した奴が方言を使わなくなっているのがさびしかった、というのもある。
 これは方言というより愛郷心、あるいはホームグラウンドに戻ってきたことの安心感、解放感であろう。それは大事にしていただきたい。
 逆に、方言を使わなくなっている人のことも温かい目で見てやって欲しい。だって、彼もしくは彼女のホームグラウンドはそっちに移動しつつあるのだから、それはやむをえない。ひょっとしたら「汚い言葉を使ってる」とか言われてやむを得ず、なのかもしれないのだし。そこまで包んであげるのが「ふるさと」というものであろう。

 東京はよく、田舎者の坩堝、なんて言われる。三代、つまり 100 年近く続かないと東京者としては認められない、という恐ろしく排他性の高い地域になること自体が、田舎者の多さを物語っているわけだが、そういう意味では各地方言の宝庫という言い方ができる。
 この「帰省ラッシュ」の時期って、それが逆転するのかな、と思ったりする。つまり、秋田から青森と仙台と東京と大阪に引っ越してった奴が帰ってきて、まぁ総体は秋田弁に戻るにしても、言葉の端々に青森と仙台と東京と大阪の特徴が聞かれる、という状態になるのではあるまいか。そのことまで含めておおらかに楽しんで欲しい、と思うのである。「かっこつけやがって」とか言わないでいただきたい。

 長男の苦悩とでも言おうか、地元に留まった方にも苦労はある。
 そういう集まり、宴会を企画、セッティングするのは、地元に残った者だからである。当然のことだが、例外はほとんどあるまい。人数の取りまとめ、日程の調整、調整がつかずに二度に分けるなどなど、苦労は絶えない。帰ってくる方は、それが当然、などと思ってはならない。自発的に選んだ人も、満足している者もいるだろうが、周囲の状況が許さないのでやむを得ず、という人だっているに違いないのだから。思わず「すかしやがって」と言いたくなることもあろう、というものだ。

 なんかおセンチな文章になっているが、人が自分のもつ選択肢の中からどういう言葉を使うか、あるいは、それをどのように受け止めるのか、というのは結局、心の問題に帰する、ということである。
 ある掲示板で、デスマスが義務、というところがあった。トラブルを起こされたくない、という気持ち自体はわかるが、独白部分、つまり「何言ってんだ>俺」みたいなところにまでケチをつけるので、しばらく ROM になって見ていたが、どうにも言うことに納得できないので、結局、そこに出入りするのはやめた。
 形式にとらわれるとコミュニケーションが貧しくなるぞ。

 しかしまぁ、9 日の長の休みも終わるときは終わるものだ。あたりまえだが。
 免許の更新も含め、雑用が多かった。郵便局に荷物をとりに行ったら、その間にまた荷物が来たらしく、帰ったらまた不在連絡票が入っていて呆れた、なんてこともあった。
 映画も行ったし、自転車も乗ったし、ピアノのお稽古もレッスンもしたが、なんだか不完全燃焼の休み。
 ただ、酒はやたらと飲んだ。疲れてるのはそのせいか。




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