Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第393夜

蕎麦と饂飩



 確か春になるかならないかの頃だったと思う。秋田駅に、さぬきうどんの店ができた。
 俺は、もうはっきりとソバ派で、もし「ウドンは好きか嫌いか、どっちか選べ」と迫られたら、稲庭うどんを誇る秋田の県民でありながら、「嫌い」と答えると思われるのだが、別に迫られたりしてないので、ときどき入って見る。
 俺が行くのは平日夜の 19 時頃なのだが、その頃になるともう揚げ物がほとんど残っていない。竹輪の天ぷらと竹輪の磯辺揚げ、とかいう品揃え (「品不揃え」) で往生する。
 ひどいときには、ウドンが茹で上がるまでに 5 分かかります、なんて言われるので、そろそろ通う頻度を下げようかと思っているところである。

 利用者の大半は高校生である。
 彼らが秋田弁を使わなくなっている、というのは確かだ。全くなくなったわけではないのだが、「きれい」な言葉遣いである。内容は割とえげつなかったりするが。
「標準語」に対するプラス イメージは言うまでもないが、やっぱり、秋田弁に限らず方言というものに対するマイナス イメージをいろんな人が植え付けてきてしまっている、ということは間違いなくあると思うんである。
 ケンカで激昂したとき、相当に酔っ払ったときに使ってしまう、というのはやむをえないことではあるにしても、そのことで「恐い」「汚い」というイメージは確実につくし、その反対で、いささか自虐的な風味も加えつつ笑いものにされてしまったりする。
 その真中がない。彼らの先輩である壮年層が、ふつうに、平凡に使う、というケースがどんどん減っている。
 これでは、学校の授業で郷土のことを調べたときに「方言も大事にしていきたいと思います」と作文しておしまいになるのも無理からぬことであろう。

 くどいようだが、今の社会に問題があるんだとすれば、その責任の大半は、壮年層にある。
 選挙における 20 代の投票率が低い、ということを問題にするのはいいが、20 代の有権者数とそれ以外の有権者数とどちらが多いか、なんて計算するまでもあるまい。若い有権者がチャランポランだとしても、若くない有権者がちゃんとした投票行動を取っていれば、そのチャランポランは埋没してしまっているはずなんだが。
 方言を使わない高校生を問題にする前に、方言を使いたくない社会にしてしまったことを再検討するべきだろう。

 俺は、方言が完全に消滅することはない、と思っているので、彼らが標準語っぽい言葉遣いになったとしてもさほど気にしない。それは、「標準語っぽい」のであって、「標準語」ではないから。
 バリエーションが乏しくなるのはちとさびしくつまらないかもしれないが、若い世代はきっと新しい表現を生み出すであろう。それがたとえ「きしょい」のようなものであっても。

 さて、ウドンやソバと言えば、「きつね」。
 大阪で、「きつね」と言えば、「けつねうろん」のことである。これは解説しなくともいいだろう。
 じゃ、「たぬき」は。
 これは、関東で言う「きつねそば」のこと。
 更に京都に行くと、「あんかけ」のことになる、というからややこしい。
 関東で言う「たぬきそば」を食べたい場合はどうするか。これには 2 説あって、そもそも「天かす」はサービスである (「かす」だし)、独立したメニューにならない、というもの。確かに、件のさぬきうどん屋では、かつおぶしと並んで、好きなだけ取ってください、という大めの器に入れてある。
 もう 1 つは、「ハイカラそば」と言う、というもの。

 揚げ物の話が最初に出たので、「てんぷら」の話。
 関西 (というより西日本) では、これが「さつま揚げ」を指すことがある。つまり、おでんにてんぷらが入ってるわけだが、そもそもおでんのことは「関東炊き」と言ったりする (これは大阪)。
 本家の鹿児島では、「さつま揚げ」のことを「つけ揚げ」と言う。いや、鹿児島で「てんぷら」なんだ、という説もあって、実は混乱している。

 福島や新潟の一部では、そばを食ったら腹を温めろ、ということわざがあるそうだ (東急のページ)。
 ここは、いわゆる「水そば」を食べるところで、それで満腹になったら腹が冷えるから、ということらしい。
 暖かいものと言うとソバ湯があるが、聞いたところによれば、ソバ湯も飲む、という条件はつくものの、人間はソバだけで生きていけるのだそうだ。どこで聞いたか忘れたが。さすが救荒作物。
 茹でてあるわけだから、本来の栄養分はかなりがお湯の中に逃げてしまっている。逆に、お茶なんかは、何割かしか抽出されていないそうで、お茶の成分を効率的に摂取したいのであれば、粉茶とか、なにかにまぶすとかの形で、全体をとるようにするといいらしい。

 俺はやっぱりソバが好きだ。
 秋田に「路麺 (立ち食い)」、もっとできないかなぁ。




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