Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第377夜

Love Letter



 1995 年の映画。友人が誉めていたのだが、なんとなくその気になれずにいた。最近、この映画の音楽をやった REMEDIOS を改めて聞き始めていて、なんとなく関心が向き始めていたところ、ヴァレンタイン スペシャル、というようなことでテレビでやっていたので、オヤジには縁のないイベントだが、それは無視して、見た。

 一応、解説しておくが、REMEDIOS というのは、1984 年に「麗美」としてデビューしたシンガーである (実は、麗美個人のことなのか、ユニットの名前なのか今イチ不明)。堀川まゆみ というモデルがいたが、その妹だ。彼女のアルバムでも、堀川まゆみが詩を書いていたりする。最近は、MAYUMI という名で作曲家をしているそうだ。
 最初、松任谷 由実のアイドル系妹分、みたいな売り方をされていたが、3 年目くらいからアーティスティックな方向に舵を切る。デビュー アルバムにも、彼女自身の曲が入ってたし、あるべき方向に向いた、ということなのかもしれないが。
 で、シンガーとしての活動をいつのまにかやめて、引退しちゃったのかなぁ、と思っていたら、今では、REMEDIOS と名乗って映画やドラマの音楽をやっている、というではないか。
 この“Love Letter”はじめ『打ち上げ花火、下からみるか? 横からみるか?』“PiCNiC”など岩井 俊二監督との作業が多いようだが、ほかにテレビの「ふたり (一色紗英、奥菜恵)」、“Friends (深田 恭子)”、昨年暮れの「恋文 (渡部 篤郎)」なんかは耳に新しいところか。ヤマト運輸の CM もやっていて、そこでは歌声が聞ける。
 1984 年というと、俺は大学に入って東京暮らしを始めた年。「やっと民放 FM が聞ける!」と喜んでいた頃なのだが、そこでエアチェックしたのが、そのデビュー作“Reimy”である。
 なぜエアチェックしたのか。どこかで聞いた、とか、そういう予備知識はなかったと思われ、そもそものきっかけがわからない。運命? それは大げさか。

 いかん。麗美談義になってしまう。
“Love Letter”は、まぁ 10 年前の映画だから筋をばらしてしまうが、神戸から始まる。
 恋人である藤井 樹 (いつき) の三回忌で、中山 美穂演じる渡辺 博子は藤井 樹の中学校の卒業アルバムを目にする。そこで、彼が当時、小樽に住んでいたこと知った博子は、藤井 樹宛てに手紙を出す。
 その場所には今、国道が走っており、住所そのものがない。本人もそれは知っている。豊川 悦司の秋葉 茂にプロポーズされている博子が、感傷的になって取った行動だったのだが、どういうものか、返事がきてしまう。
 実は、そのすぐそばに藤井 樹という同姓同名の女性 (中山 美穂の二役) が住んでいたのだ。こうして、神戸と小樽との間で、奇妙なやり取りが始まり…というストーリー。

 映画そのものの感想は置いておく。方言。
 ところがところが、方言を使っているのは豊川 悦司とその周辺だけ。それも、ネットで感想文を拾い読みしてみたら、割と怪しい方言らしい。いや、聞いてて、ぎこちなさがあるな、とは思ったのだが。大阪出身らしいんだけどなぁ。
 ただ、そっち側はなんとなくわかる。藤井 樹の方は、小樽から引っ越して行ったらしく、転勤族だったかもしれない、ということも考えれば、標準語っぽい言葉遣いにはなることはありうる。母親の加賀まり子もそうだったし。
 中山 美穂の博子が、共通語だったのはどうか。ドラマの中で、秋葉に「困ったときだけ関西弁になる」と言われているところを見ると、関西の人間ではないのだろう。
 というわけで、これは解決。

 さて、小樽側。
 女の方の藤井 樹とその家族はきれいな全国共通語。北海道弁は一人もいない。
 実は、中山 美穂の藤井 樹と、男の、死んでしまった方の藤井 樹は中学のとき、同じクラスだった。手紙のやり取りが繰り返されるうち、その思い出が語られるのだが、それを、酒井 美紀と柏原 崇が演じている。その中学生たちも全国共通語。
 それはないやろ。

 小樽はどういうところか。行ったことないのであまりでかい口は叩かないことにするが、北海道の東部、函館を突端に抱く長い腕の付け根辺りの日本海側にある。
 で、漁港の町である。登場人物たちが住んでいる場所は港の近くではないようだが、漁港のあるところは言葉が荒っぽいと相場が決まっている。
 藤井 樹だけならまだしも、その両親まで全国共通語なのだから、ちょっと待たんかい、と思う。いや、まぁ、転勤族かもしれないんだけどな。同級生たちもか?

 ただ、俺は、こういうところに出てくる方言がリアルでなければならない、とは思っていない。それは、何度も書いてきた通りである。事実上、不可能だからだ。
 だが、ここまでオミットされるとなぁ。

 全体にいい雰囲気ではあるが、残念ながら、中山 美穂の方の樹が熱を出して倒れるシーケンスがなんだか唐突。確かに、博子が前に踏み出すシーンに繋がっていく事件ではあるのだが、今イチ、消化しきれない感じがある。
 途中まで、DVD 買おうかなぁ、なんて思いながら見てたのだが、そこでふっと覚めてしまった。

 勿論、音楽は申し分ない。映画見る前からサントラを持ってるのだが、その最後の曲、“A WINTER STORY”の楽譜もある。だが、このピアノ譜、駆け出しの俺には左が随分と辛いのであった。






"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第378夜「十代」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp