Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第373話

酒菜、酒菜、酒菜、酒菜を食べると、酒量、酒量、酒量、酒量が増えるよ



 俺が酒を飲み始めたのはおおよそ 10 年前である。
 ――と書くと、大変にミスリーディングだな。副詞句が抜けている。自分のアパートで飲むようになったのが、その頃なのである。それまでは、部屋で酒を飲む、ということはほとんどなかった。
 きっかけは、NHK の大河ドラマ、「炎 (ほむら) 立つ」。
 前から高橋 克彦氏の小説は読んでいて、この原作も放送開始前から読んでいた。東京にも飽きたから秋田に帰るか、と考えるようになったのもこれがきっかけ。
 なので、その番組を見るときは、ほかのケースとは違って、テレビの前に陣取ってじっくり、という体勢だった。どうせなら、ということでお供に缶ビール。これがスタート。
 これも、最初は 350ml が 1 本だったのが、やがて 500ml になり、瓶になり、それが 2 本、3 本。さすがに大瓶 3 本も飲むと酔っ払ってくるので、それ以上増えることは無かった。
 で、秋田に帰ってくる。部屋での飲酒の習慣は一旦、途絶えた。
 が、2000 年に復活した。しつこいようだが、スケバン刑事熱の再燃である。昔のビデオを引っ張り出してきて見ていた。やはりお供にビール。
 しばらくビールだったのだが、2002 頃から焼酎に変わる。なんだかビールでは悪酔いするようになったのだ。量が多いだけではないか、という話も無いではないが。
 聞くところによると、体に最もいい酒…体にいい酒なんてあるはずがない。最も負担の少ないのは、焼酎のお湯割りに梅、だそうである。
 聞いただけで納得性があるが、どうやら本当みたいだ。暮れからそういう呑み方になっているのだが、二日酔いしない。LAWSON で売ってる伊藤園のウコン ジュースを後に飲むと完璧である。どれだけ飲んでも翌朝すっきり。おかげで量が増えた。

 俚言かなぁ、と迷いながら書くが、秋田では「さけ」と言ったら日本酒のことを指す。辞書的定義では、ビールもウォッカも「酒」ではあろうが、「ビールも飽ぎだがら、酒にするがな」という言い方は問題なく通じる。飲み屋に行って「酒けねがな」と言ったら大抵は熱燗が出てくる。ただ、この手は、チェーンの居酒屋の若い店員では通用しないようである。
 こういう、ある一語が、一部と全体の両方を指す、という言い方、あるいは、形式的には総称だが意味は個別、という言い方は山ほどある。
「ごはん」なんてのがまさにそう。「ごはん食べに行こうよ」というのは、白米の炊いたのだけを食いに行こう、と誘っているのではない。
 上で使った「飲み屋」もしかり。飲むものは、酒に水にジュースに無理難題と色々あるが、「飲み屋」というのはアルコール飲料を主体に出す店のことである。ジュース スタンドのことではない。
 日本語として正しいので、「酒」と言われて「ビールですか?」と答えるのは、仮に冗談のつもりであっても、野暮という以外にない。

『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』を見ると、「酒」に関する俚言はないが、濁り酒に関する記述は多い。これは、正確に言うと密造酒のことであるが。
えんぺー」は「隠蔽」、「こも」は「菰 (こも)」を被せて隠したことから、「ふくろ」は「梟 (昼間、おおっぴらには飲めないから)」など。「床の下誉」なんて呼んだりする人もいる。
もっきり」は広い範囲で使われてるのかと思ったら東北くらいらしい。酒屋の店頭で 1 杯単位で飲ませることを言う。「盛り切り」である。
 この本を見てたら、「酒を飲めない人の代わりに飲む」という動詞があるらしいことが分った。「あえこ」と言うのだが、これは「酒の相手をして、相手に杯を渡して注ぐこと」という意味もある。「相こ」だそうだが、俺は聞いたことがない。

「酒の『さかな』」という。この「さかな」は「肴」と書くが、これが「酒菜」であることを知っている人は多いだろう。これと「魚」の関係やいかに。
 なんと「酒菜」が先。「酒菜」になることの多い動物を「さかな」と呼んだわけ。のんべぇだなぁ、日本人。

 秋田には「かど」という魚がいる。辞書を引いてもらうとわかる。「鰊」と書く。ニシンである。
 次の話は「塔婆守 (林 義雄)のホームページ」のやまとことばワンポイントレッスン06による。
 ちょっと方言に詳しい人なら、『浜荻』という本の名前は聞いたことがあるだろう。江戸末期に仙台藩の侍女が書いた方言本である。
 これに「かど」のことが書かれているのだが、それを干したものを「にしん」と呼んでいるそうだ。
 江戸中期の方言本 (乱暴な言い方だな) 『物類称呼』では、「かど」のことを「なまにしん」と呼んでいる始末。

 にしんの卵は「数の子」。数が多いから、なんて解釈が流通しているようだが、これは大辞林にもある。「かどの子」である。大体、魚の卵なんか数が多いに決まっている。
 ハタハタの卵はなぜか「ブリコ」。焼いて食うんだが、バリボリって音がする。

 焼酎ってさ、なんで「焼」なんだろう。知ってる人は教えてプリーズ。




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