引き続いて
bk1 で買った方言本の話。
『
小学生の新レインボー方言辞典』。
そういうのがある。小学生向けの方言辞典にどの程度の需要があるんだろう。小学校の図書室なんかに行くとあるのかな。
監修は金田一 春彦氏。
漢字が制限されているので、正直言って読みにくい。「地いき」なんて書いてある。
最初のところに、○○の方言といっても、○○のすべての地いきで話されているわけではありません、と書いてある。これは大事なことだ。
正しい日本語についてかまびすしく鬱陶しいことこの上ないのだが、正しい○○弁も同様。○○では△△と言います、なんてことを言うと、俺は聞いたことがない、と全否定してしまう人がいる。あなたが知らないだけかもしれないんですけどねぇ。
全般的に気を遣って書かれているが、たまに「
暑いをぬくいなんてちょっとかわってるね」なんてのが、挿絵のふきだしに出てくる。惜しい。
「
それ、メチャかっこいいじゃん」という例文がある。これも挿絵のふきだし。
「
じゃん」の項にあるもので、「
じゃん」が関東のもので、関西では「
やん」、と書いた直後なので、「
メチャ」には疑問。ただし、これはかなり関東に進出してきているので、それを踏まえたものなのだとすれば、それはそれで。
新方言だそうである。
挿絵で気になったのだが、振り向いたりしている絵が、首が 180 度回っているように見える。エクソシストか?
小学生向けなどと侮ることなかれ。標準語と共通語、ケセン語、『物類称呼』、新方言、専門家アクセントと、方言に関する話題が余すところなく取り上げられている。
索引にある語数は全部で 2,500、かなりの量だ。
例えば、俺が「あら」と思ったのは:
「盗む」という意味の「
ぎる」が北海道弁であること。
「転ぶ」という意味の「
こける」は「倒ける」と書くこと。
九州などで、「大きい」ことを「
ふとか」と言う、ということは知っていたが、「
ほそい」で「小さい」という意味になること。当然といえば当然の対称だが、「こまか」だと思っていた。「細いスイカ」とかあるわけだ。まぁ、「太い駅」ってのもあるわけだし。
「ちょっと」の意味の「ちと」が、平安時代にさかのぼる語だとは。「些と」と書く。確かに、古いにおいのする単語ではあるが、割と頻繁に使うような気がする。
津軽では、「表裏が逆」を「
かっちゃ」、「上下が逆」を「
かっぱ」と言うそうだが、「上下が逆」って? 検索エンジンで調べた範囲では、おわんをひっくり返した、というような例が見られたが、そういうことか?
「超」が静岡起源だったとは!
これについては笑い話があって、「超」は単なる強調の単語と化しているので、シュールレアリズムの「超現実主義」を「とっても現実的な考え方」と思ってる人がいるとか。
蛇をあらわす「
くちなわ」が忌み言葉だったとは! 書くと「朽ち縄」で、「へび」と口にしただけで災いが起こる、と考えられていたからだそうである。
英語で同じようなのに“bear”がある。これは本来「茶色いもの」という意味で、“brown”と同根らしいのだが、実は「クマ」そのものではなく、「クマ」の忌み言葉だったわけ。
「たきこみごはん」を指す、「
まぜくり」がなんか微笑ましい。「
あじめし (味飯)」「
ぐめし (具飯)」「
いろごはん」なんかも雰囲気だ。
「
まぜくり」を検索してみたら、安価かつ簡単、乱暴な丼の作り方を羅列したページがヒットした。
2ch 起源で、「漢
(おとこ) 丼」というそうだが、どれもこれもうまそうだ。熱いご飯というのはこんなに強力なものなのか。食欲の秋でもある、是非、「漢丼」で検索してみて欲しい。
読者カードが挟まっていて、点数をつけるとしたら 100 点満点で何点でしょうか、なんて書いてある。その欄が、「( )点!!」とエクスクラメーション マークがついているのはなぜ。面白いけどさ。
考えてみたら、「ぼくたちの地いきの方言をしらべよう!」なんて課題はどこの小学校でもやっていそうだ。こういう本にも需要はかなりあるのかもしれない。
Google に「小学生 方言」で検索してみたら 20,000 件もあった。
その子供たちが、「違う」ということを認められる人間に成長してくれればいいが。
というわけで、隠れたオススメ本である。入門篇としてもいいし、広い範囲を網羅している、という点でもいい。妙な方言ナショナリズム、センチメンタリズムに汚染されていないのもいい。