Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第355夜

ボケリンゴ



 bk1 を「方言」で検索したら鷺沢 萠氏の本がヒットした。『ウチにいないぞ、俺!』という。正確には、「サギサワ@オフィスめめ 方言バトル編」とサブタイトルがつく。これがヒットしたわけである。
 どういう本っていうと、鷺沢萠公式サイトの中の、日記の部分をまとめたものである。既に二冊出ているらしい。その内容を踏まえていると思しき文が散見される。
 感想を端的に書くと、「あんた、そういう人だったのか」である。面識はないが、これに限っては「あんた」という表現がぴったりだと思うので、そう書いておく。悪意はないつもりである。面白かったもの、この本。
 いや、なんつーか、サイト管理人のわたべ氏とマージャンやって飯食ってるばっか…「ばっかり」ではないが、こっちは発言の日付までは一々追わないので、「2 日開いてるな、仕事忙しかったのかな」などということには気づかないから、そういう印象になる。
 で、ホームページを見た人とのメールのやり取りの中で、たまたま方言ネタが炸裂した時期があった、というわけ。

 発端は、「手鏡」や「吸い飲み」を知らない人がいる、というもの。これは、氏にそういう作品があってそれを読んだことがない、ってことではなく、そういう単語を知らない人がいたので驚いた、という話題。ここから、ねーこの表現って知ってる? という方に話が流れる。
 方言っぽくなるのは、「りんごがボケる」という表現が出てから。これ、他の人から「ミソになる」などの表現も集まってくるのだが、意味が一向に解説されない。
 わかったのは、発言ベースで 3 日、文庫で 5p 過ぎてから。剥いたリンゴを放置しておいて瑞々しさが失われた状態、だそうである。
 Google で見てみたら、長野が多い。

 この表現、「リンゴがボケる」「リンゴがぼける」「りんごがボケる」「りんごがぼける」の 4 つを検索しなきゃならんので面倒くさい。ちなみに、最後のが一番多い。「林檎」はわずらわしいのでパス、「ボケル」は俺の感覚では容認不可の表記なので、これもパス。

 話を戻すが、山形の山形日紅という会社の、リンゴに関するページによれば、山形でも言うらしい。
帰ってきた北海道弁講座」のナ行以降のページには、リンゴの産地で使われる、とある。これが広く使われるようになった、というのが、意外に当たりかもしれない。

 話は、家庭内表現 (その家でしか通用しない表現) を経て、「鍵を支う (かう)」「うるかす」など「気づかない方言」へと展開、その後、ジャンケンの話題に移行する。
 何度か書いているように、ジャンケンの話題は奥が深すぎて敬遠しているのだが、こないだ「いかりやジャンケン」というのを見つけた。
 これは、「最初はグー」で始まる長ったらしい表現で、いろんなパターンがあるが、合成してみると
最初はグー
またまたグー
いかりや長介 頭がパー
正義は勝つ
ジャンケンポン
 てな感じ。
 これ、いかりや氏がどうこうというのではなくて、最初が「グー」だから、伸ばすに当たって「チョキ」と「パー」を出さなければならなくなって、そこで音が重なる「長介」を持ち出しのであろう。実際、「長介」のタイミングでチョキを出すそうだ。
「正義は勝つ」に「とは限らない」が続くバージョンもあって、なんでそこまで伸ばさなきゃいかんのだ、と思うのだが、これは子供の遊びだからだろう。鬼やグループ分けを決めるためのジャンケン自体が遊びなのだ。

 で、本の方は、愛知県内の線引きに移行する。続いて長野で、まぁ、ここが地域ごとにはっきり分かれている (遠まわしに書いてるが) ことは有名な話だが、京都もそうらしい。恐いから名前は書かないけど、「元は洛外」とかいう線の引き方もあるそうで。なんなんだか。お笑い系番組で、「京都で『こないだの戦争』というと『応仁の乱』」なんてよく聞くが、あれひょっとして本当なのかな。
 地域ネタはこの辺で収束する。

 ネットワーカーにはお勧めできる。鷺沢氏のファンでなくとも楽しめると思う。そうでない人にはどうだろう。話題はともかく、人の発言を「>」で引用する、このスタイルについてこれるだろうか。
 俺、実は鷺沢氏の本って読んだことない。あると思ってたのだが、別の人と勘違いしていた。最初の出会いが、『ウチにいないぞ、俺!』であったのは幸運なのか不運なのか。
「ウチにいないぞ」というのは、あちこち出かけていることを指しているのだが、まぁ作家だしそういうこともあろう、と思う。でも「俺」なんだよな。
 まぁ、取り急ぎ、文庫をもう何冊か買ってこようかと思っている。



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