Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第355夜

どんこ



 前に、具だくさんの味噌汁、という話をしたが、甚だ雑とは言いながら、これだって作るのになんぼかの時間は掛かるわけで、それに、材料を買うと、カゴのない MTB では持って帰れないような重さと嵩になってしまうので、うっかりすると週末に準備できなかったりする。平日はやらない。それができないから、作り置きができて温めるだけで食えるこいつを続けているわけで。
 で、いいものを見つけたのだが、乾燥野菜のパックがある。ほうれん草とか葱とかニンジンとか色々と入っていて、これを水で戻して、本来はお浸しにしたり、油揚げなんか足して炒めても旨そうだが、これを、戻した汁ごと一旦沸騰させて、出来合いの味噌汁を混ぜる、というのをやってみた。乾燥野菜にはもともと旨みが圧縮されているから、ちょっと薄めかな、という量でも十分にいける。いい手抜き料理を見つけてしまった。
 で、スーパーの棚では、その隣に色々と並んでいる。「乾物」というもので、ヒジキであったり、切干大根であったり、昆布だったりするのだが、妙なものを見つけた。
 これが、「どんこ」である。
 ものはシイタケだ。これは見ればわかる。
 品種か、加工方法か、商品名か。どういうわけか、俺はなにかの俚言形だろうと思った。だって、それっぽい音なんだもの。
 業者は東京だった。

 こういうときはネットである。
 が、あっさり見つかる。どうやら、種類の名前らしい。
 品種ではなく、傘の大きく開いていない、身の締まったものを「どんこ」、傘が開いたものを「こうしん」と言う。煮物には前者、炒め物には後者を使うわけだ。中間に、「こうこ」というのがあるそうな。
 なんと書くか。方言ではないことがわかったので、安心して国語辞典だが、「冬子」と書く。冬に取れるかららしい。「こうしん」は「香信」。「こうこ」は、「どんこ」と「こうしん」の中くらいだから「香子」なんだそうな。国分寺と立川の間にあるから国立、ってのと同じ。由利仁賀保の新市は、「秋山市」ってのはどうだ。本荘と遊佐の間だが、「遊荘」なんてのもいいではないか。尤も、象潟が合併協議会欠席中で、合併そのものがどうなるか不透明だが。
 秋に取れるのは「秋子」だとか。だんだん五木 寛之の小説みたいになってきたが、本当らしい。
 でも、本当に方言形じゃないのかな。「冬子」って書いて「どんこ」だよ?
 今回に限っては、全国で使われているのに、○○弁だ、ってページが見つからない。ダメか。

 キノコ・山菜は地域によって呼び方が大きく違う。そもそも山菜の類は、食うかどうかが地域によって違う。
 例えば、ツクシは食える、ということは知識として知っているが、食ったことはない。スギナも食えるらしいが。
 食うところとそうでないところとで、ネーミングも含めて取る態度に違いがあるだろう、ということは容易に想像がつく。

 九州や近畿の一部では、キノコのことを「くさびら」と言う地域がある。これは古語辞典にも載っている。
 北陸や中部あたりでは「こけ」と言うところもある。前にも書いたような気がするが、コケとキノコが同じものだと言うことに気づいていた先人はすごいと思う。

 舞台やホールが完成して最初の興行を「こけら落とし」というが、これは、工事が終わっておが屑などを払うことから言う。表面にある細かいものが「こけ」なんである。
 これを「柿」と書くのだが、本来、果物の「カキ」とは別の字である。「こけら」は、右が「市」ではなく、縦棒が上から下まで突き抜ける。

言語』に「からくり花鳥風月」という連載があって、9 月号ではキノコのことに触れていた。
 曰く、スーパーで売られているシメジはシメジではない (ヒラタケというものらしい)。ホンシメジに至っては、交配種で、色も形も味も違う。日本人は、本当においしいキノコを食べてはいない。
 そうかもしれない、という気はする。香りであったり歯ざわりであったり。味付けも濃い目のものが多いような気がする。キノコ本来の味は意外に知らないのかもしれない。

「舞茸」は、踊りだしてしまうほどのキノコだからこの名前があるのだが、踊りだす理由については、「美味しいから」と「高く売れるから」の 2 説がある。

 夏ごろに NTV の二時間ドラマ枠で「軽井沢ミステリー」というのをやっていた。毒性のある山菜をトリックに使ったエピソードだった。
 このシリーズって、高橋 由美子・菊地 麻衣子が主役で (多分)、これに、紺野 美沙子・丘みつ子がレギュラー、更に、このエピソードで言えば佐野 浅夫・西岡 徳馬、それ以前だと神山 繁・草笛 光子・小倉 久寛・あめくみちこ、古尾谷雅人・勝村 政信・ミッキーカーチス・北村総一郎、小野寺 昭・坂口 良子、とゲストがやたら豪華なんだけど、なぜ。
 もう一つの「なぜ」は、全員が共通語であること。
 フジテレビで、ネイティブの加藤 夏希が出演したらしい「秋田殺人事件」では、そこまでやらんでも、というくらい訛っていたらしいのだが。ビデオのセット忘れたのよ。

 初夏に山の中を自転車で走っていたら、直径 20cm を越えるキノコを目撃した。テラテラと光っていた。最初に目にしたときは、一体なんだろう、と思った。
 時折、記録になるような大きな魚を釣り上げた、とか、巨大な野菜が取れた、とかでニュースになるが、ああなると美味そうに見えないのは何故だろう。



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