ガリバーは「
しゃこう」。飛んではいるが、東海西部、近畿、北陸といったあたりに一塊があり、九州にも散見される。
次が「
しゃがく」。新潟が多い。
ほかは少数派である。傾向、と言えるほどの数ではない。
強力なのは沖縄で、「れん」は「練習」の「練」らしいのだが、沖縄では「
じれん」で決まりのようだ。昔、「練習所」っていうのは、ほんとうに「練習」するだけのところで、試験場で直接、受験する人が行くところだ、なんて聞いたような記憶があるのだが。
「
じしゃが」はこれに匹敵する強さで秋田を席巻している。
なんで省略されるかと言うと、まず第一に、「若者が行くところだ」というのを挙げて差し支えあるまい。いや別に年配の人が通ってもいいし、実際にいるという話を聞いたこともあるが、圧倒的に 18 歳から二十代前半であろう。
車と言えば、もう彼らの生活に密着している、というよりは、彼らの関心事の上位を占めるものである。会話にはしょっちゅう出てくるはずだ。
そして、自動車学校の通学期間の短さがある。普通は数ヶ月で終わるが、それゆえ、仲間内の誰かが常に通っている、という状況になる。卒業が近くなってきた長期休みなんてまさにそうであろうし、大学生であれば在学している 4 年間がそういう状態になるはず。なおのこと、会話に登場する回数は増える。「じどうしゃきょうしゅうじょ」という長ったらしい単語が、真っ先に省略対象となるのは当然だ。
だがこれでは、地域ごとに形の違う表現が生まれる説明にならない。
上に挙げたどれにしても、「自動車」と「学校/教習所/練習所」の一部をとってきたものだが、「じしょ」「じしゅう」「しゃしょ/しゃじょ」などの形は見当たらなかった。
ちょっと考えれば、「じしょ」にしても「じしゅう」にしても、「辞書」「自習」と学生の生活に関わりのある単語と音が重なっているため、都合が悪い、ということは言える。
そういう目で上の単語を見てみると、そのほとんどが既存の単語と重なることに気づく。
しかも、「自学」は「自習」とペアだし、「車高」「自工」は車関係と、重なってもらっては困る単語が多い。
*1
これが、バラエティ豊富になる原因じゃないかな。決定的な短縮形がない。
そういう意味では、同音異義語のない「
じれん」「
じしゃが」は有利だ。
だが、「
じれん」は「学校」や「教習所」という名前とリンクしないし、「
じしゃが」は前に書いた通り音が汚い。また、漢字で書けないことも欠点になる。これもやはり決定力不足だ。
上に挙がっていない地域では、「教習所」という言い方をすることが多いようだ。
これには、「なんの教習をしているところがわからん」という反論もあろうが、実際問題としてほとんど困らない、ということは言える。「自動車学校」のことを話題にする可能性のある人たち――つまり、高校生や学生、あるいはその辺の年齢層――の間で、自動車以外の教習所が話題になることは、そう多くはないからである。敢えて車以外を話題にする場合は、「英会話教習所」と言えば済む、というくらいのボリュームしかない。
*2
で、ちょっと文体の高い場面では、「自動車教習所」などと言えば長ったらしくてかしこまり過ぎなので、「教習所」と言う。メディアにはこれが載る。
これも、単に前を削っただけであり、「日常会話の表現」という感じが今イチである。別の言い方をすれば、俗語臭に欠ける。仲間内で使う単語っぽくない。
これが、全国共通形がない、もう一つの理由ではないか。
俺、何て言ってたのか記憶にないんだよなぁ。「教習所」かなぁ。
大学生協経由で申し込んだのだが、これは、xx 時間までは追加料金なし、という一種のパックだった。俺はそれを使いきり、何時間分か財布から払ったのを覚えている。あと、在籍期間も限度があったはずで、ギリギリのところだった。仮免の有効期間も危なかった。合格したときは、合格したことよりも、これで解放される、という気持ちの方が強かった。
それくらい、車とは相性が悪い。やっぱ自転車よ。