Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第345夜

日本の夏



 俺がお世話になっている (迷惑をかけている) ピアノの先生は暑いのが苦手だそうである。
 夏に産まれた人は暑さに強い、というのは本当らしい。人間の汗腺は生後、一定期間を過ぎると増加が止まるそうだ。
 という話を、こないだ先生と世間話でしたのだが、嘘を言ってしまった。俺は、数ヶ月、と覚えていたが、2 年半だそうだ。
 いずれ、7 月に産まれた人と、10 月に産まれた人とでは、その後、2 歳半までに経験する夏の回数が違う。ここで暑さに対する耐性が決定するわけだ。
 勿論、その後の生活も重要で、今度は、数は変わらないものの、乳母日傘で穏やかな生活に甘んじていると汗腺の性能が低下する、ということもあるので一概には言えないわけだが。
 俺は 8 月生まれなので比較的、暑さには強いらしく、食欲が失せるということはない。作るのが面倒、ということはある。ここ数年、汗をかくようになったのは、父に言わせれば「太ったから」だそうだが。太った人が汗をかきやすい、というのは、汗腺の数が変わらない、ということを考えれば、単なる印象ではないことがわかる。一つの汗腺が担当する範囲が広いわけだから。
 今年はどうやら転機かもしれない。冷房病になりそうなのである。職場の空調の噴出し口は天井にあるが、俺はその、複数開いている口のほぼ中央部に座らされている。全ての口の風をくらっているのだ。しかも、パーティションが妙な配置になっていて、吹き出した風が回り込んで、足元からブリザードが吹きつける。世間は暑い暑いと言っているのに、室内でフリースを着ているのだから、その寒さを想像していただきたい。
 冷房病ってのは自律神経失調症の一種だそうで、そうなったら責任とってくれるのだろうかな、会社は。証拠を出せ、とかいいそうだな、あそこは。体感温度を測れる温度計ってあるのかな。

「暑い」の俚言形ってあんまり見当たらない。
あづい」「あっち」「あちー」みたいにちょっと音がにごったり形が変わったりしたものくらいだ。
 あとは、秋田弁の「のぎ/ぬぎ」や関西の「ぬくい」を含む「ぬくとい」の変形。
 そんな中で見つけたのが「ほめく」。近畿と九州の例があることがわかる。
 これは、古語辞典にも載っている。「ほ」は「炎」「火照る」「ほとぼり」の「ほ」で、つまり暑いってことなのだが、地域によっては「蒸し暑い」という意味で使うところもあるようだ。ざっと見た範囲では、その方が多いような気もした。
 どこで水分が付加されたんだろう。あるいは、西日本の暑さを形容しているからか?

 東海では「いきる」と言うようだ。
ほかる」が岡山近辺に。「ほ」は一緒だが…。
 熊本・大分に「ほてる」もあった。これを「発熱している」という意味に使う地域もある模様。
うむす」とか「うむれる」とか、「蒸す」系の単語は、福島辺りまで。
「蒸し暑い」という意味の俚言がこれだけあるとは。やはり日本は高温多湿だ、ということか。

 では「熱い」はどうかというと、これも同じだった。どっちも「あつい」で、そもそも同じ単語だからしょうがないのかもしれない。
 九州や四国では、お湯などがとてつもなく熱いことを「いたい」と言うところがある。これは感覚としてわかる。

ねーがんじー」というのが 2 例、見つかったのだが、群馬と静岡。ちと離れている。関係やいかに。

 今年はどうも空梅雨のようで、こないだ、大滝山という、沼のある公園に自転車で行ったら、見事に沼の側面が露出していた。去年は、晩夏から初秋にかけて雨が続いてちと米が心配だったが、今年は今年で心配だ。
 梅雨といえば、この初夏の長雨をなぜ「つゆ」と呼ぶかはわかっていないようである。「つゆ」という単語が使われるようになったのが江戸時代だということはわかっているらしく、比較的、新しい単語だということから、「露」との関係は否定されるらしい。食い物が腐ってしまうことから「ついえる (潰いゆ)」という話もあるそうな。
「梅雨」という字の理由もはっきりしないそうで (梅の実が熟す時期、というのも決定的ではないらしい)、水気が多いのに「水無月」なのは何故*1、とか、なんか、わからないことばっかり。
 はっきりしない季節にふさわしいと言えばふさわしいが。*2




*1
 字がミスリーディングだけで「水の月」なんだ、とか、農作業の前段階が片付いていることから「みな、(し) 尽くした」とか、これも諸説ある。(
)

*2
「はっきりしない」とよく言うが、「曇り」では納得は難しいのだろうか。雨と晴れ、の 0/1 なのか、日本人も。(
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第346夜「役割語の手抜き」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp