Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第339夜

ウタちゃんカホぴょん



 宮城でやる MTB レースって、昔はオニコウベにもあったのだが、それはどうやらなくなってしまったようで、最近は仙台市の泉ケ岳だけである。いや、他にもあるかもしれないが、我々が知っているのはそれだけだった。
 今年、これに歌津町の田束山 (たつがねさん) が加わった。去年の秋にアザラシが現れて「ウタちゃん」とか言って騒いでたのをご記憶の方もあるだろうか。

 アザラシの騒ぎなら首都圏にもあって、ほとんど狂乱というか、のんきだなあんたら、とため息が出てしまうが、この安直ネーミングってどうにかならんか。
 もとをたどれば「ネッシー」なのかもしれないが、アザラシが来た、ウタツチョウだからウタちゃんだ! もう 1 頭現れたらどうすんの。「タツちゃん」か?
 伊里前川 (いさとまえがわ) に現れたんだから、「イサちゃん」でもよかったんじゃないか。これだと「サトちゃん」「トマちゃん」「マエちゃん」と 4 頭まで対処できるぞ。

 ここは MTB のサイトでもないしアザラシのサイトでもないので、この話はこれくらいにしておくが、やっぱり、あんまり方言的特徴は聞けなかった。
 旅館の人は、どうやら標準語っぽい言葉遣いで今イチだったし、レースの主催者たちもそうだった。
 まぁ、俺が耳にするのはほとんどがオフィシャルなアナウンスばっかりなんで、そうならざるを得ない、という面は確かにある。彼らが、友人同士でおしゃべりしているときのイントネーションは、紛れもなく東北方言のそれだった。
 唯一、音調以外の現象としては、促音便が確認できた。
「写真を撮るから集まれ」の「撮るから」を「撮っがら」と言っていた。この「っ」である。
 秋田弁では、ここは音便化しない。「撮るがら」となるだけだ。
 歌津町の特徴かと思っていたが、仙台から来た、という人との会話を聞いていたら、どちらもこうだったので、宮城方言の特徴、ということになるのだろうか。なお、歌津町と仙台市は、道路標識を信用すれば 100km 程度離れている。
 泉が岳のは、もっと規模が大きい大会なのだが、関西風の特徴が確認できる。これは、主催者が長野の本拠地を置いていることも大きい。なお、自転車をやってる人で長野に移住している人は多い。
 かと言って、開催地の関係でやはり東北弁も聞かれる。促音便はここでも耳にした。これは主に観客である。遠隔地からわざわざ見に来る人ってほとんどいないと思われる。

 レースに参加している子供たちや、高速道路の SA で耳にした子供たちの会話。
 方言の衰退というか、社会的言語への変化――家庭という閉鎖空間ではなく、幼稚園なり学校なりの外部社会に接するようになってから初めて習得する言語、というつもり――というのは本当なのだな、と実感した。イントネーションやアクセントは多少、違うものの、文字に直せば立派な全国共通語である。
 そもそも大人たちが方言を使っていない。
 他のスポーツ――「見る」方ではなくて「やる」方――は知らないが、MTB のレースは結構、広い範囲から人が集まってくる。我々が参加するのは東北の大会だけだが、新潟・東京あたりまでは普通に見られる。まれに静岡だの愛知だのがいたりする。
 そういう状況では、やはり方言の使用はためらわれるってことなのだろうか。特に東北者は。
 MTB が個人競技だ、というのは影響しているかもしれない。チーム戦もあるし、応援も含めてチームで参加する人たちもいるが、ほとんどの場合、2〜3人である。1 人というのもかなり多い。地元にいるのではない場合、そういう形で、小さいながらも方言が通じる環境が整わないと使いにくい、というのは事実である。

 SA と言えば、長者原 SA で飯を食っていたら、高校生の団体が入ってきた。うっとうしいことこの上ないのだが、彼らが「豚汁」は「とんじる」か「ぶたじる」かで揉めていた。
 Google にぶちこんでみると、244 件。
 例によって、必ずしも北海道特有ではないのに「北海道方言です」が目立つが、「九州では」というのも少なくない。東西差だ、というページもあり、正確にどの辺が境界線なのかは結局わからず。
 俺は「とんじる」と言っている。俺がそこで食ったのは「豚丼」で、食券を買う時には「ぶたどん」と言った。特に、店員が「あれ?」という顔をした、ということもない。
 揉めていた高校生は岩手の高校生。まだパンツ見せてズボンはいてやがんの。
 なお、何の肉かは明示せずに単に「肉」と言った場合に何を指すのか、というのは東西差があるらしい。関東は豚、関西は牛だそうだが。
 でも、「肉食いに行こうぜ」と言ったら、これはおそらく「焼肉」であろう。牛丼が食いたいのでも、ラム ステーキが食いたいのでもないと思われる。となると種類も限定される。
 考えて見ると、「魚が好きか、肉が好きか」という問いかけはよく耳にするが、妙な言い回しである。「魚肉」って言葉もあるというのに。
 とすると、魚肉ソーセージって肉か魚か。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第340夜「きっちり」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp