Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第318夜

方言字



 TIM (というお笑いコンビ) を初めて見た時は大笑いした。
 自分の体を使って「ネ」と「兄」を作って「祝」、「ネ」を「ロ」にして「呪」…。両腕を斜め下に開いて片足で立って「命」。どっちかっつーと「令」じゃねーのか、とかそういうことを言ってはいかん。
 とんねるずが「モジモジ君」というのをやっていた、という記憶もある。これを言葉で説明するのは難しいが、巨大な剣山を立てたセットがある、と考えて欲しい。その針の上に体を横たえたり、手足を伸ばしたりして、やはり文字を作るのである。これも人気コーナーであった。
 学生の頃、忘年会の芸で、両腕を真横に広げて立ち、手からスニーカーを落として「ホ」というのも見たことがある。
 文字って、割と関心の対象となる、という話。

 日本語学が 12 月号で『文字・表記の現在と課題』という特集をやっていたが、中に、「変わる新聞の表記ルール (福田 亮)」という文章があった。
 俺も嫌いだが、混ぜ書きってやっぱりかっこ悪いし、読みにくい。「わい賂」なんてのもそうだが、「女子学生ら致される」なんて「女子学生ら」が一体、何を「致された」のか、などと妄想がたくましくなってしまう。初出で「賄賂 (わいろ)」と読み方を提示して、それ以降は「賄賂」と書けば済む話だと思うのだが。
 これには、分かりやすい表現を心がける、という習慣が弱くなってしまう、という反論があるのだそうだが、それって漢字のせいじゃないよな。

 さて、字にも方言がある、なんて書いたら驚かれるだろうか。
 今まで散々、字に書くと固定化するの、紙に残れば広く流通するのと書いてきやがったくせに。
 だが、あるのだからしょうがない。
『日本語百科大事典 (第4版、大修館書店)』から例を引っ張る。

 (新潟で「潟」)
 (鹿児島で「鹿」)

 地名に多い、というのはやはり「方言」だから、ということになろう。
 それに、ご当地では頻繁に使われるわけだから、多少、イレギュラーな字であったとしても定着しやすいわけである。

 英語を習い始めた中学生の頃、「なんで、頻繁に使う単語に限って不規則活用するんだ!」と思ったことはないだろうか。“be”とか“come”とか“go”とか。
 これは逆で、滅多に使われない単語が不規則活用なんかしたって誰も覚えていない、というのが正しい。頻繁に使われるからこそ、不規則であっても残るのだ。

「新潟」で思い出すのは、じゃ、高速道路の表示はどうだ、ということ。
 高速道路の、IC、PA、SA の表示は、100km/h を越えるスピードで走っている車からもきちんと読み取れなければならない、ということで、独特の字体になっている。走っているときは確かにそう読むが、落ち着いて見てみると、これって違うよなぁ、と思えてくる。
 車のナンバープレートの、地名の部分も実はそんな感じだったりする。「なにわ」なんて平仮名表記になっているの、そのせいじゃないだろうか。
 パソコンの文字もそうだ。概ね、16×16 の升目で点を入れるかどうか、というところで文字を作っているから、「騒々しい」とか「轟音」「暴走」なんて文字が出てくる。
 これは方言か。違うな。





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