Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第314夜

オイル ヒーター



 オイル ヒーターを買った。
 デロンギとかいう、太古の時代からの侵略者みたいな有名メーカーではなく、国産の \8,000 の奴。*1
 そもそもの需要は、寝ている間につけておきたい、というものであった。流石に北国秋田でもそうしょっちゅうはないが、やはり、いくら布団が暖かくなってもストーブ消したくない、という寒さの夜はある。なにせ寝てて鼻が痛いんだから。安普請なのかもしれないが。

 秋田では使わないが、「しばれる」というのはそういう寒さである。「凍みる (しみる)」と関連のある言葉ではないか、と思い至った。ものが凍る寒さのことだ。
 前から、北海道の人を中心に「『しばれる』ってのは単に『寒い』ってことではない」という声を聞いていたが、その意味がやっとわかった。

 いや、「使わない」と断言はしたが、使うことになっているようだ。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』や『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』に書いてあった。俺、聞いたことないけど。
 後者には、「命にかかわるほどのものすごい寒さ」とある。

 目的がそれだから、石油ストーブは自動的に除外される。やってる人はいると思うが、俺は恐くてとてもその気になれない。それに、寝ている間に石油ストーブって、暑すぎる。強力だから布団から離しておく必要もある。ガスも同様。
 すると電気ストーブということになるのだが、これは真っ赤に光る。実は二度ほどトライしてみた事があるのだが、かなりまぶしい。電気ストーブってパワーに難があるから、自分を向いていないと役に立たないし、自分に向けると眠れないという二律背反で難渋していた。
 そこでオイル ヒーターである。これは密閉した管の中に入っている難燃性オイルを暖め、それによる輻射熱で暖めるものらしい。今イチよくわからんが、2 週間ほど使ってみて、部屋の中全体がふわっと暖かい、というのは実感した。他の暖房器具と違って、それから離れると途端に寒くなる、ということがない。
 しかしまぁ、所詮は 1200W(!) の電気ストーブ、という話はある。寒くない、という程度で、「うわぁあったか〜い」とは言えない。
あずましい」って感じなんだろう、こういうの。そういう「心地よさ」が欠けている。今のところ、許容範囲の温度ではあるが、ずっといたらキツいだろう。
 オイル ヒーターだけの部屋に暫くいると、やはり寒さを感じるようになる。ヒーターの上に足を乗せたりしている。

 目的はもう一つあって、この秋からピアノのお稽古をしている。ピアノは居間 (アパートだから、正確には「普段いることの多い、テレビとパソコンのある、石油ストーブでちゃんと暖房している部屋」) には置けないので、寝室に置いてある。ここは本棚部屋であり、寝るのが主目的の部屋だったので、今まで暖房器具がなかった。電気ストーブは使っていたが、6 畳の部屋を 800W で暖めることはできない。もう一台、必要だったのだ。
 でも、俺は東京にいたころ、ずっと 800W の電気ストーブとコタツだけで乗り切ったんだよなぁ。晴れた日なんか、窓も開けたりしてた。まぁ、氷点下だと騒ぎが起こるような土地だからな。最高気温が氷点下、という「真冬日」の存在を信じない人もいたし。

 それにしても、なぜ「石油ストーブ」なのだろう。使うのは「灯油」なのに。
 勿論、「灯油」は「石油」だから間違いではないのだが、世の中には「重油ストーブ」ってのもあるのだ。あんまり見ないからいいのか。

 世の中にはファン ヒーターというものもある。実は、暖房の話をしたときにも周囲に勧められた。細かい温度調整ができる、タイマーも備えている、炎が露出していない、などなどメリットは多い。*2
 これを買わない理由は只一つ。AC 電源の必要なものをこれ以上、増やしたくないからである。
 居室の方にはコンセントは 2 つづつ 3 セットある。一つはパソコン群、もう一つはテレビ・ビデオ群。残った 1 セットを、暖房類 (夏場の扇風機と冷風扇含む) とピアノ・楽器関係で分け合うことになるわけ。もう限界。

 一つの口に多数のケーブルをつなぐことを、なぜ「イカ足配線」と呼ばないのか、と思う人は多いようである。同時に、「タコ足」の進化したもの、つまりケーブル数の多いものを「イカ足」と呼んでいる人もいる。
 空に揚げる「タコ」だが、あれを「イカ」と呼ぶ地域は多い。歴史的には「イカ」の方が古いらしい。凧の典型例である二本足の奴は、どちらかというと「イカ」を連想させる――というのは、イカの十本足のうち、二本、長いのがあるからなんだが、あれはやはり「足」か。二本あると「手」だと思ってしまうのだが。

 これは何度も書いたが、「のぎ」は「暑い」という意味である。つまり、基本的に気温が高いことを表現する言葉だ。
 が、元となったと思われる「ぬくい」は、もうちょっと温度の低い「暖かい」であるということの他に、物質の気温が低いことを示す「熱い」という意味をも表現しうる。
 懐炉を「ぬくい」ということはあるだろうが、温度が高すぎた場合でも「のぎ」とは言えない。意味の細分化が生じている。*3

 青森には「温湯」と書いて「ぬるゆ」と読ませる温泉がある。温度は低くはないらしい。「ぬるい」という語の意味が変わっている、ということか。
「酸ケ湯」という温泉もある。「すかゆ」と読むのだが、元々は「鹿湯」だったらしい。
「しか」が「すか」になるのは流石、津軽、という感じだが、こういう書き換えは全国にある。
「日光」だって、今でこそおめでたい字で書くが、「ニ荒山 (ふたらさん)」があることでわかる通り、元は「ニ荒」だったのである。これが後に「にっこう」と読まれるようになったのだ。
「白馬」も同様。前に雪形のことを書いたが、春先に農作業の開始時期を知らせる、山肌に現れる馬に見える模様に「代掻き馬」というパターンがある。つまり「しろうま」でこれが「白馬」になったんである。

 オイル ヒーターが、秋田の気候と、俺がいるお世辞にも新しくないアパートと、俺の生活パターンで、どこまで健闘するか、しばらく様子を見ていこうと思う。




*1
「仮面ライダー クウガ」の敵方が「グロンギ」という名前だった。申し訳ない。(
)

*2
 ウルトラマンのストーブもあるというのに。(
)

*3
 懐炉が熱くて暑く感じる、ということはあるだろう。(
)





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