Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第313夜

It's a Sony



 何を隠そう、SONY KIDS である。
 一貫性がないので似非キッズではあるが、なんかその辺の製品を購入しようというときは、まず SONY 製品から検討する。残念ながら、値段の関係で断念することが多い。
 こないだ“SONY CHRONICLE”というムックを見つけ、パラパラと立ち読みしてたら懐かしのスカイセンサー 5800 の写真が載ってたので、\1,900 と高かったが直ちに購入した。
 ところが帰ってゆっくり読んでみると、スカイセンサーってそれだけなんである。子供心にスカイセンサー シリーズに入れるには無理を感じた 6000 はもちろん、10KHz 直読の歴史的名機 5900 なんかも、まったく触れられていない。ラジカセ (という単語が産まれる前の時期だが) の王者である、Studio 1990 や 1980 は陰も形もない。というわけで、俺より SONY 度の高い友人に譲渡した。*1
 知ってる人もいると思うが、「テープコーダー」「カセットコーダー」というのは SONY の登録商標である。「ウォークマン」“Walkman”もそうなのだが、これは一般名称である、って判決が出た国があったな。オーストラリアだっけか。普及しすぎるのも考え物。
「テレコ」って単語があるが、調べた範囲では、これは別に商標ではないらしい。省略形としてはこちらの方が優れている。「テープコーダー」って 1 文字しか減ってないもんね。語呂は悪くないけど。
 カセットテープそのものはどうやら主役の座を譲りつつあるらしく、スーパーで MO や CD-R を扱っている現代においては、種類によっては丁寧に探さないと入手できなかったりすることもある。少なくとも、スーパーでは時間のバリエーションを期待してはいけない、という状態である。
 でも、この単語自体は、ネットで検索してみると結構、ヒットする。やっぱり、一度は普及した単語って強い、ということか。

てれこ」「てれんこ」を、さかさま、という意味で使う地域がある。主に大阪・京都を中心とする近畿だが、四国でも言うところはあるようだ。
 ところが、これをネットで検索してみると、「業界用語だ」という解釈が、「方言である」という解釈より多いということに気づく。

 しかし、この「業界」という単語、「業界」といえば芸能界、という図式も定着したなぁ。いつからかもうわからないくらいだが。

 で、この衝突をどう解釈するか。
 まずは得意の大辞林を引いてみる。
てれこ
(1)歌舞伎で、二つの違った筋を、多少の関連を持たせて交互に展開していくこと。
(2)互い違いにすること。また、食い違うこと。
 両方、並んでいる。
 だが、これで「てれこ」が指す「逆」の意味がはっきりする。右にあるべきものが左にある、という状態を表現するものであって、「熱燗と言ったのに冷酒を持ってきた」という場合には使えないのだろう、と推測することができる (部外者の憶測に過ぎないが)。
 業界用語という解釈は、歌舞伎から芝居一般、芸能界全般、という繋がり方をしたものだろう。
 だが、どちらも、厳密には「逆」ではない。ワンクッションある。「逆」という意味自体が派生的なものである、ということだ。

 また話が逸れるが、「冷酒」と書いて「ひやざけ」と読むか「れいしゅ」と読むか。
 俺の語感では、「ひやざけ」と「れいしゅ」とは別のものだ。「ひやざけ」は常温付近、「れいしゅ」の方は積極的に冷やしたもの、という感じだがどうだろう。

 さて、方言の方の「てれこ」はどうだ。
 意味はいい。どっちも「逆」なのだから。
 だが、なぜこれが関西で使われているのか、という疑問がある。
 真っ先に思いついたのは、こうした芸能は近畿起源だから、ってことだった。「業界用語」の「てれこ」に触れる機会は他の地域よりも多いだろう。
 もう一つは、比較的新しい表現だ、ということ。新しいとは言いながら数百年前、日本の中心である京都で使われて周りに伝わり始めたところ、という考え方。これ、前のとはひょっとしたら衝突する。
 俺としては、前者ではないか、と思う。

てれんこ」は、中国や九州の一部では「もたもたしている様子」を指す。「てれんこぱれんこ」という言い回しもあるらしい。これは、「だらだら」あたりと似ていると言えないこともない。

 実は「業界用語」っていうのも「方言」である。
 前にも書いたが、“dialect”っていうのは、限られた人の間で起こる言語現象を言う。地域的に限られているのが「地域方言」、人の集団によって限られるのが「社会方言」というわけだ。日本では、前者を「方言」と言ってしまっている、ということなのである。

 それにつけても、抽斗一つ分くらいあったカタログ…とっておけばよかったなぁ。*2




*1
「ラジカセ」はパイオニアの商標。外見はモノラルだがステレオ ヘッドホンのジャックがある、というどちらかと言うと高級感のある製品で、「ザ・ラジカセ」というキャッチで売っていた、と記憶している。
 ところで、MD+CD+ラジオ、というセットを「MD ラジカセ」と呼ぶのはそろそろやめた方がいいと思う。(
)

*2
 ここで開陳してもしょうがないのだが、最初に買った (正確には、買って貰った) のは Studio 1775 で、次が CFS-V3 (このころには Studio シリーズはなくなっていた)。
 どちらも、いわゆる LL 機能 (Languate Laboratory の頭字語で、ステレオ録音で使う左右のトラックの一方に後から別の音を録音できるものだが、英会話で、先生の発音を自分の発音を重ねて比較するのに使うので、こう呼ばれている) がついたもの。俺は、ギターなんかを重ね録りするのにしか使わなかったが。
 Studio 1775 は、(英会話の) 先生の声と、後から録音した自分の声のバランスを調整することができた。これ、機構から考えると当然なのだが、ステレオ録音したテープをかけると、モノラル機だが左右のどちらかにウェイトをずらすことができる。ヒアリング用だと思われるが、スピードを調整する機能もあって、実はギター少年が音を拾うのに非常に都合のいいマシンであった。
 70 年代のラジカセ少年は、以下のサイト必見。俺は甘酸っぱい涙に酔いしれながら読んだ。
ラジオ・ラジカセ博物館
初期ラジカセの研究室
 ()





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第314夜“オイル ヒーター”へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp