Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第308夜

Time is money



 って、考えてみるとすごい言い回しである。「時間は、金と同じくらいに貴重なものなのだよ」と言っている。金が上位にあるわけだ。フランクリンは実業家だったらしいから、それもむべなるかな。

 お金の話ってあんまり歓迎されないようである。「金くれ金くれ」と言うのは確かにみっともないだろうが、そこはきちんと決めておかないと後々もめる、というのは皆さんご存知の通り。
 このことと、「金色って悪趣味」という感覚とはやはり繋がっているのだろうか。

 まずはお金持ち。
 大勢力なのは「ぶげんしゃ」系。
 辞書にもあり、「分限者」と書く。意味はそのまま「金持ち」。
 中国・四国・九州で広く使われている。
 四国では「げんしゃ」という言い方もあるようだ。「ぶ」が落ちたのか。

 数は「ぶげんしゃ」に比べれば少ないが似たような広がりをもっているのが「旦那衆」系。
だんなし」という形が多い。
 なんとなくわかるが、意味を改めて調べてみる。
だんな 【檀那・旦那】
〔梵〕
(ア)布施。与えること。(→大辞林)
 なーるほど。人に施しができるほど金を持ってる、ということ。それが転じて「主人」というような意味が生じたのだろう。

 静岡に「おだいさま」という言い方がある。
「お代様」という字をあてているところがあるが、これはなんだろう。まさか、「お代官様」か。
「まさか」とは言うものの、お代官様は、支配される庶民よりは金持ちであろうし、権力は腐敗するとのルールが示す通り、裏側ではあろうが必然的に金は集まってくるであろうし、あながち的外れではないのかもしれない。
 探した範囲では、「おだいさん」もあわせ、静岡以外の例はない。

 兵庫と三重には「しんしょよし」という言い方がある。
 和歌山にもあれば、ごく最近の表現で、周圏分布か? とも思ったりするが。
 恐らく「身上よし」だろう。朝寝朝酒朝湯でつぶれる、あの「しんしょう」である。
 施しをすれば「心証」はよくなると思うが。

 さて、問題の「金」だが。
じぇんこ」という言い方が秋田にはある。言うまでも無く、「銭 (ぜに)」である。指小辞の「こ」がついたわけだが、「じぇん」という形はない (と思う)。
 沖縄の「じん」をはじめ、「銭」の変形は多い。
 ここで注目するべきは、「じぇんこ」が「小銭」を指すこともある、ということである。
 例えば、人に買い物を頼むとする。それが缶ジュースなんかであれば、その代金として「じぇんこ けれ」と言えるが、冷蔵庫とかストーブとか、高額商品の場合は「じぇんこ けれ」とは言えない。日用品の買い物で、総額 \1,643 程度であれば言えるかもしれないが、\5,000 を超えるときついような気がする。
「小銭」という単語はあるが、「大銭」という単語は無いことを考えると、やはり「銭」、ひいては「じぇんこ」は、本来は「小銭」のことを指すのであろう、と考えられる。*1
 それと、紙幣の登場が、歴史的にはごく最近だ、ということも影響しているのだと思われる。

 ただし、「なに、今度はヨーロッパ旅行さ行ったってが」「あれだば独身貴族だもの、じぇんこ あるべせ」という言い方は普通に行われる。
 これには揶揄もしくは嫉妬のニュアンスがあるが、ひょっとして「金持ち」って揶揄される一方? あんまり、プラスの言い方を思いつかないのだけれども。
「お金を貯めて贅沢に暮らすの」は「じぇんこ貯めで」って言えるけど、「お金持ちになって贅沢に暮らすの」とは等価じゃないしねぇ。
 つまり、金持ちってのは、金を持っている、ということではなく、継続的に金が入ってくる仕組みを持っている、ということだと思うのだ。

 吉幾三は、銀座に山、買えたんだろうか。

 小銭のことは「じゃら銭」「ちゃら銭」「ちゃり銭」などと呼ばれる。音からの連想だと思われる。
 北海道では「だら銭」という言い方がある。「じゃら銭」の変形かと思いきや、“doller”だ、という解釈があるらしい。
 でも、ドルには紙幣もある。横浜や神戸ならともかく、なぜ北海道で、という疑問もある。

‘$’記号って、ペソから来てるんだそうな。
 ペソ圏では、‘$’でペソを表現するところもある、ということだから、それは間違いないようだが、なぜペソが‘$’なのかについてはまだ決定的な説はないようだ。
 円の‘\’ってのは、“Yen”の“Y”である。*2

「財布」をなんと言うか、を調べてみると、「きんちゃく」が見つかる。ちょっと違和感があるのだが、イコールなんだろうか。用途だけが残って、形の違いは無視された、ということなんだろうけど。

 マネークリップというものがある。文字通り、札を挟んでおくクリップで、財布の代わりなのだが、あまり使っているのを見かけないのは、やはり金は不浄のものだから簡単に目に触れてはならない、という風土のせいか。
 俺もそう感じる方で、マネークリップで挟んだ札って小さくまとまっててきれいだと思うのだが、自分で使おうという気にはなれない。
 それに、このカード万能のご時世では、そういったものの他にマネークリップを持ち歩くと荷物が増える結果になる、という実利的な理由もある。人目に触れても恥ずかしくない額であることは少ない、というのもあるが。せっかくキレイにまとまってても、千円札 3 枚とかじゃなぁ。





*1
「江戸時代、一枚で一文銭数枚に相当する貨幣の俗称 (
大辞林)」という意味の「大銭」はある。

*2
  1 ペソが 8 レアルって額で、1 ペソがほぼ 1 ドル。その‘8’から来た、という説と、‘||’は‘P’で、背後の‘S’は複数形の‘S’という説を読んだ。
 前者は
エイゴタウンの「英語の語源のはなし」だが、後者はマゴマゴしているうちにホームページが無くなってしまった。
 ‘\’の二本線が何か、というのは不明。





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