さて、涼しくなってきたことでもあるし、難しい話をしてみる。なにせ学者だそうだから。
明確に俚言とは言えないけど、どう見ても全国共通語ではない、という表現を何度か取り上げてきた。古い表現に源を持ち、それほど形が変らない、というもの。個々の構成要素は全国共通語、あるいはそれと同じ形だが、通用範囲や意味が限られているものなどがある。
前者には、キャベツという意味の「
かんらん」、後者には、日照りを解消する雨を、作業を休んで祝う、という「
雨降り正月」などがある。
秋田で寂しいという意味の「
とじぇね」、末っ子の「
ばっち」あたりは形が大分変っているから、「徒然」「末子
(ばっし)」が元なんだよ、と言われないと気づかない。この文章では、こういうのを含め「純然たる俚言」なんて表現してきた。
しかしまぁ、自分でもそう書いてきた通り、方言ってのはアナログな違いであり、「純然たる俚言」もなければ「混血の俚言」もないわけで、その地域で行われている言語現象すべてが「方言」なんである、という認識に立てば、そういう分類そのものが間違っていることになる。
「純然たる俚言」なんて表現はやや好事家的見地からの表現なのかもしれない。
「玉菜」なり「かんらん」なりは、元からあった表現である。「キャベツ」に押されたからかどうかは別として、次第に使われなくなり、一部地域だけに、島のように点在する形で残った。これを仙台の景勝地になぞらえて「松島型
*1」と呼称する。*2
であればやっぱりこれは紛れもない「俚言」なんである。他の地域とは切り離されているわけであるから。
勿論、大辞林の定義:
の (2) の方である。
周圏論的現象かもしれないが、この 2 つについて言えば、違うだろう。使用地域がそうだし、「キャベツ」が入ってきたのは明治期で、「中心」が移動した時期、きれいな周圏分布は期待しにくい。
「
毛もも」なんてのもある。
*3
新潟の一部には「毛もも」という表現がある、と聞いて調べてみたのだが、古くは果物のモモを「毛もも」と呼んでいた、とのこと。由緒正しい呼びかたでは「もも」と言えば花の方を指す。
が、新潟で「スモモ」のことを「モモ」と呼んでいる、となると、これは「松島型」を越える現象ということになる。残念ながら未確認だが。
お役所では今も「毛もも」と呼んでいるらしい。古い表現であるだけに正式名称として残っている、ということなのだろう。
「
雨降り正月」の方はどうか。
「雨降り」も「正月」も全国共通の語である。が、これを組み合わせて「日照り明けの雨を、農作業を休んで祝うこと」という意味で使う地域は偏っている。これを、異種混合型ということで「北海道型」と呼称する。
現象自体は全国的に、というより、世界中どこにでもあるはずだが、こういう表現そのものは地域的に (おそらく職業でも年齢層でも) 限られている。すなわち「俚言」ということになるはずなのである。
「松島型」の特徴は (調べればアレ? と思うものの) 立派に俚言なので、他の現象同様、軽んじられる可能性がある、ということである。逆に、「○○の地域ではこう言う!」という形で、そこからは遠く離れた、他の地域でも行われているのに、特有の現象と思い込まれてしまう、という問題もある。
逆に「北海道型」の特徴は、「気づかない方言」になることが多い、ということである。「
雨降り正月」って堂々と漢字で、送り仮名も振り仮名もなしで書けるとしたら、これが「俚言」だ、と気づくのは難しいであろう。
これは体感で、統計上の裏づけがあるわけではないのだが、「北海道型」は、文字通り北海道と西日本の表現に多い。
北海道に多いのは、北海道の言葉がここ百数十年程度の間にできた新しい言葉だからである。
西日本に多いのは、現在の日本、現在の日本語が西日本を中心に発展してきたからである。「か゜」とか「ぅ」とかいう字を使わずに済むでしょ。まぁ、九州あたりまで行けば別だが。
音の違う「なまり」ばかりが方言ではない、ということである。
にしては、大辞林の定義 (1) はなぁ。