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Shuno の方言千夜一夜
第301夜
MONKEY MAGIC
前から不思議なのだが、あれだけの人気番組『西遊記』のソフト、ビデオなり DVD なりが出ないのはなぜだろう。
堺 正章はじめ大御所が揃っているから権利関係が難しいのだろうか、と勝手に思っている。
80 年頃に、東映が「スパイダーマン」というシリーズを作っているが、これはマーベルと「キャラクターを好きに使っていい」とかいう契約を結んだからなんだそうで、契約の切れてしまった今ではソフトが出せないんだそうな。そういや「バトルフィーバー J」も出てないような気がする。
*1
『西遊記』が放映開始した頃って、俺がオタクに目覚めた直後で、「いつまでも子供番組ばっかり見やがって」という父親の冷たい視線に耐えながら、第一話だけはなんとか見せてもらった。
*2
岩からマチャアキ、いや孫悟空が生まれる瞬間の光は、まぎれもなく円谷プロの光で、非常に感動した、という記憶がある。
さて、その「
さる
」だが。
改めて考え込んでしまった。
前にも書いたが、「自然に、そういうことができるようになる」という意味である。空腹であればいくらでも食べられるから、そういうのは「
食わさる
」「
かさる
」と言う。調子に乗れば仕事がどんどんと捗るが、ああいう感じを言う。
例えば「
書がさる
」という表現がある。これは、非常に書きやすいペンで気持ちよく書け筆が進む、とかいう状況で使える。状況可能と言えるかと思えば、「書く欄が空いている」という場合は「
書がさる
」とは言えないのである。「ペンの調子がいい」「書く人間がノっている」というのでないと使えない。単なる状況可能ではない、ということだ。
別の単語を当てはめてみる。
「
切らさる
」はどうだ。
錆びた鋏ではダメだったので、新しいのに取り替えてみた。「
切らさる
」。これはいい。
ボール紙を糸切りバサミで切ろうとする…これで「
切らさらない
」はちと辛いような気がする。
やっぱり、動く方について使うべき単語なのではないか。
「
蛍光灯が点がさらない
」あたりだと、対象物も一つしかないし、あまり問題がない。でも、自動詞はちょっと問題ありそうな感じ。「
閉まらさらない
」はちょっと変だ。
長い単語だと違和感が出てくる。「
つながらさらない
」なんて、正しいのかどうか自信が持てない。「
接続ささらない
」あたりも変な感じがする。
やめられないとまらない、のお菓子の場合、これは「
食
(か)
さる
」だなぁ。でもえびせんは動かない。
「書がさる」でも、「空欄がある」では使えないが、撥水性の紙に水性ボールペンでは「
書がさらない
」。同様に、プラスチックに水性絵の具では「
塗らさらない
」。
「空欄がある」というのは性質ではなく一時的な状況で、そこに記入してしまえば、空欄は消えてなくなる。が、その用紙が撥水性かどうかは、薬品を使うとか何十年もほったらかしにするとかしない限り、変化がない。
動く方というよりは、対象物の性質か?
用例を集めるべく
Google
へ。
洋服のサイズを直したので「
着らさる
」ようになった、などの例が見つかる。これも、服に手を入れてはいるが、再び手を入れるとか洗濯に失敗するとかしない限りサイズに変化はないわけで、状況ではなく性質と言えるだろう。
ちょっと虚をつかれたのは「
箱にお菓子が入らさってる
」。
意味は単純で文字通り、入りきらない、ということは頭にない。「おやつはそこにあるわよ。箱に入ってるでしょ」という程度の使い方。敢えて言えば、「ちゃんと入ってるでしょ」というニュアンスがあるかな、と言えないこともないが。
前に上げた、「
張り紙に書がさってらべ
」という例もこのグループに入るのだろう。
困ったな。
困ったので目先を変える。
この表現を検索してみると多くの例が見つかるのだが、そのほとんどが方言のページではない。
「この文章は〜というように読み取ることができる」の「
読まさる
」、「(ここをクリックすると色が)
塗らさる
」など、方言とは全く関係のない文章が多数ヒットするのである。
方言の文章ではないだけに、発話者の出身地などが明記されているとは限らず、地域的な偏りがあるのかどうかわからないのだが、これはひょっとしたら「気づかない方言」なのではないか。
「
書がさる
」なら濁点がつくだけに、方言かも、と気づくチャンスはあるが、「
読まさる
」「
塗らさる
」は気づき難いかもしれない。
というわけで、西遊記から意外に深い方向に話が進んでしまった。
こういうの、おそらく「
進まさる
」と言うのだろうが、あんまり使わないような気がするなぁ。
なにはともあれ、DVD BOX あたり発売希望。日本テレビだから、
vap
かな。
*1
ミス・アメリカというキャラクターを使っている。
↑
*2
ほぼ同時期にやっていた「スターウルフ」は見せてもらえなかった。
↑
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」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp