Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第296夜
雨の方言 (後)
第 2 週、まずは強い雨。
最もストレートなのは、長野の「でけぇあめ」か。
雨風しんまつ | 鹿児島 | はげしい雨。「しんまつ」は不明。 |
あらこと | 鳥取 | はげしい雨。「荒事」か |
細引雨 | 新潟 | 強い雨 |
ざらく | 新潟 | 激しい雨を伴う大雨 |
じゃじゃぶり | 関西 |
縦洪水 | 山梨、長野 | 大雨 |
なべ割 | 兵庫 | 徳島など |
大車軸 (おおしゃじく) | 新潟 | 大雨 |
降車軸 (ふるしゃじく) | 長崎 |
「細引」が大雨? という向きもあるかと思うが、「細引き」というのは「麻などをより合わせてつくった細目の縄。細引き縄」のことで、雨のサイズとしては決して「細」くはない。
「ざらく」は、「たくさん、みだれる」らしい。
「縦洪水」「なべ割」も割とストレートか。
「車軸を流す」という慣用表現は辞書にも載っている。
じたじた | 山形 | 雨が激しく降る様子 |
じ降り | 山梨 | 本降り |
野分時化 | 長崎 | 暴風雨 |
どしゃける | 徳島 | やむことなく降る |
一雲荒れ | 新潟 | 一時、雨が強く降ること |
よこちぎり | 富山 | よこなぐりの雨 |
抜降り (ぬけぶり) | 富山、岡山 | 土砂降り |
大抜 | 山形 | 氾濫するほどの雨 |
「
じ降り」は、「地が出る」の「地」か。本来の、というような意味で。
「抜ける」系は、天の底が抜けた、というような発想から来たものだろう。なお、京都では山崩れのことを「
山抜け」と言う。
山崩れからの連想で。
猫まくり 群馬 鉄砲水
これは、鉄砲水が流れる線が、クニっと曲がった猫の手を連想されるから、だそうな。なるほど。
次、強くない雨
こんぶり | 青森 | 小降り |
しおしお | 愛知 | かすかに降る雨 |
しょぼけあめ | 島根 | かすかに降る雨 |
しとぶる | 山形 | 短時間、わずかに降る雨 |
ししらぶる | 大分 | 雨が細かくけむる様子 |
しぶしぶ雨 | 群馬 | 陰気な雨 |
しぽしぽ雨 | 新潟 | 陰気な雨 |
じーら | 愛知 | 細かい雨。語源不祥 |
こまぶる | 愛媛 | 細雨 |
ひげ雨 | 三重 | 細雨 |
ちあめ | 鹿児島 | 霧雨 |
ちりあめ | 秋田 | 霧雨 |
ちらさあめ | 長野 | 霧雨 |
ねこんけあめ | 霧雨 | 宮崎。「猫の毛」から |
梅雨が明ければ、次はこれ。夕立
うれあめ | 静岡 | 「濡れ雨」か |
御雷様雨 (おらいさんあめ) | 宮城 |
婆脅し | 長崎 |
「婆脅し」はユーモラスだが、長崎では、野分のことを「姥おどし (うばおどし)」と言う。
夕立のことを「白雨」と言うらしい。
こっちは、にわか雨
脅し雨 | 八丈島 |
かだち | 岩手 |
竿立て (さおたて) | 宮城 |
端的雨 | 千葉 |
一落し (ひとおとし) | 鹿児島 | ほんの一降りの雨 |
一切雨 (ひときりあめ) | 熊本 | 時雨 |
わいた | 愛媛 |
ざらく | 千葉 | 夏のにわか雨 |
雨は、勿論、雨雲につれられて降るものだが、稀に、その境に出くわすことがある。ある線のこっちは降ってるがあっちは晴れている、という状況である。
かたぶい | 沖縄 |
片降 (かたぶり) | 青森 |
ころどあめ | 岩手 |
「片雨」という単語はあるらしい。「偏雨」とも書く。
「ころど」は「一人で」という意味だそうだ。
「牛脊雨」という単語も紹介されていた。牛の背中の右と左で違う、ということである。沖縄には
「夏の雨は牛の片方には降らない」ということわざがあるらしい。
奈良には「せぶり」という表現がある。意味は「山の奥で降る雨」だろうが、この「背」は稜線のことであろうという記述あり。
暑苦しいので、冬の雨の話。
雪下 (ゆきおろし) | 新潟 |
雪消雨 | 山形 | 晩冬の雨 |
よーず | 三重、岡山 | 同上 |
凍倒 (しみだおれ) | 岐阜 | 晴れた朝の冷え込みが雨になること |
霜流し | 岩手 | 霜が降りた日の雨 |
かえ | 島根 | 冬の冷たい雨 | 語源不祥 |
白雨 | 島根 | 雪混じりの雨 |
大根ずり | 島根 | みぞれ |
水雪 | 新潟 | 霙 |
「雪下」は雪の前触れで、「雪消雨」「よーず」は文字通り (「よーず」はともかく) 雪を溶かす暖かい雨。
「大根ずり」は大根おろしで、キレイだがストレート。
最後。方言といえば音の言葉。
ぐっしゃぐっしゃ | 大分 |
ごずぶり | 岩手 | 土砂降り。「ごずごず」とも。 |
たっこらたっこら | 島根 | 強い雨 |
びしょびしょ | 岡山 | 雨のやまない様子 |
ぴりぴり | 京都 | 小雨が降ること |
というわけで、人の褌で相撲を取ってみた。
本当は、面白い表現がもっとたくさんあるのだが、この辺にしておく。
参照した国語辞典は:
goo の大辞林
『講談社学術文庫 国語辞典 (初版、1979)』
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