Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第295夜

雨の方言 (前)



 まもなく梅雨明けである。
 ちと時機を逸した感があるが、雨に関わる方言。
 出典はズバリ『雨のことば辞典 (講談社)』。監修はあの倉嶋 厚氏。
 出たのは 2000 年の秋だが、俺が買ったのは 2001 年の秋。
 以下で県名を挙げるが、原典では、○○県○○地方と詳しく書いてある。ここでは割愛する。
 まずは梅雨。
梅時雨 鹿児島
田植え雨 島根
田植えさずい 新潟
はえ 三重
くろむ 香川
 時期的に田植えがらみとなる。ただし、秋田では、梅入りする頃には田植えは終わっている。
さずい」は「五月雨」だそうな。*1
さぶい」というところが全国にあるらしいが、俺は聞いたことが無い。Internet で検索してもヒットしなかった。
 三重の「はえ」は、五月雨または梅雨なんだそうだが、辞書で「五月雨」を調べると、「旧暦五月の長雨。梅雨」とある。どないやねん。
「南風」と書いて「はえ」と読む。三重に南から吹く風は海風で、湿気を含んでいるだろう、ということは言える。
 東京弁では「入梅」となる。これは、梅雨に入ることではなく、梅雨そのものを指す。愛知でも言う、という報告を見た。
蝦夷梅雨」なんてのもある。
 一般に、北海道には梅雨は無い、とされているが、7 月頃に雨が降り続くことがある。これが「蝦夷梅雨」。

 福岡では、「猫毛雨」という表現がある。麦の生育に良くない梅雨の雨を指すらしい。猫の毛、もしくは和毛 (にこげ) で、細かくしとしとしとしとと降り続く雨を指したのだろうか、という推測が行われている。
 一方、「ねこんけあめ」という宮崎の表現があって、これは「霧雨」。こっちのほうがストレート。
 というように雨と農作業は切っても切れない関係にある。
きたあらし 千葉 田植え時の寒い雨
たがらーめ 秋田 夏の日照りの後に降る雨。「宝雨」
もぎくらい 高知 麦の収穫気に実りを損なう雨
 秋田の仙北平野付近では、「宝風」という言葉もある。これは、雪を溶かし、豊作をもたらす東風のことである。
山賊雨 群馬
三束雨 (みつかあめ) 群馬
三把稲 茨城
三杯雷 岩手
 これは、「あ、降りそうだ」と思ったらすぐに降りはじめる雨のこと。「ん?」と気づいてから農作業を急いで片付けようと思っても、「三把」刈り取るころには降り出す、という意味。
 最後のは宮沢 賢治の作品にあるそうだ。

 風が出たので、風混じりの雨。
風の実 愛知 風混じりに降る雨
風の戯え (そばえ) 愛知 風と一緒のにわか雨
ぼろ 愛知 風を伴う小雨
かんざさーめ 秋田 風を伴う吹き降り
北降り 新潟 晩秋から初冬にかけて北風を伴って降る雨
風くそ 島根 風がやむ前に置き土産のように降る雨
かんざさーめ」は、「風さ雨 (風に雨)」か。
ぼろ」は、三重では霙を指すとか。

「くそ」が出たのでついでに。
お糞流し (おぐそながし) 岐阜 彼岸の中日に降る雨
高野のお糞流し 奈良 陰暦 3/22 に降る雨。
不浄流し 熊本 祭りの後の雨
御器洗雨 (ごきあらいあめ) 青森 (野辺地町の八幡神社の) 祭りの後の雨
霧の小便 長野 霧のような小糠雨
なごの小便 静岡 霧雨
虹の小便 徳島 天気雨
 祭りの後の雨、というのは、人間が神域に入りこんで生じる穢れを流す、ということ。  千葉では「なーご」で細かい砂のことを言うそうだ。「なご」は「細かい」ということか、という記述あり。
虹の小便」ってキレイなんだかそうでないんだか。

 汚い話になってしまったので流すことにする。
イジュの花洗い雨 沖縄 梅雨
木の芽流し (きのめながし) 長野、鹿児島
木の芽さずい (きのめさずい) 新潟
桜流し 鹿児島
菖蒲流し 宮崎
七夕流し 香川
筍流し 静岡
茅花流し (つばなながし) 九州 梅雨、長雨
「流し」は、一般には雨気を含んだ南風のことで、転じて、長雨や梅雨のことを指すらしい。
 ここに挙げたのは、それぞれ、そんな時期に降る長雨である。

 雨が降り続けば物が腐る。
通草腐らし (あけびくさらし) 新潟 秋の長雨
 俚諺ではないが、春先の長雨は「卯の花腐し (うのはなぐたし)」と言う。
 なお、「木の芽」については、徳島で春先の雨を「木の芽おこし」「木の芽萌やし」と言うらしい。

 長雨。
げんひちあめ 群馬 語源不祥
大時化 新潟

 忘れていた。雨そのもの。
だり 滋賀 降雨
みしげる 山形 降雨
あめっぷり 埼玉 雨が降ること
だり」は「垂れる」。
みしげる」には説明無し。
あめっぷり」は落語なんかでも聞くような気がしないこともない。江戸から追い出された表現ではないか、と思ったりする。

 来週に続く。




 参照した国語辞典は:
goo大辞林
講談社学術文庫 国語辞典 (初版、1979)』

*1
 他の場所では「不明」とある。この本、その辺の一貫性に難がある。(
)





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