Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第291夜

さらばウルトラマン コスモス



 ウルトラマンコスモスに関する騒ぎは皆さんご存知であろう。詳しくは書かないし追う気もないのだが、打ち切りが妥当な選択肢であろう。
 過去に主役や重要な役どころが欠けた (あるいはそれに近い状態になった) 特撮番組は多い。「仮面ライダー」を筆頭に、別の役者で替える、という選択をすることが多いようだ。それらしい交替劇を仕立てることもあるが、メイクや扮装の強烈な悪役なんかだとドラマ中ではアナウンスせずに代役を当てることもある。
 コスモスの場合、優しさを売りにしているだけに、リカバリは難しかろう。魅力的なシリーズであるだけに、役者を替えてこのまま話を続ける、というのも手だとは思うが、ここでバッサリ止める、というのも、逆説的にコスモスらしいと言えるような気はする。
 すべては人間に帰着する、という決着は、あるいはウルトラマン ティガ的な考え方なのかもしれない。
 今回の事件の場合、これから捜査が進んで裁判、ということになるだろうから、ドラマの撮影というのは時間的に無理だろうが、「ドラマって結局は嘘なんだから、役者の不祥事とは関係ないじゃん」という意見はある。確かに、不祥事で引退というルールを作れば、あの世界の就業者人口は相当、減るような気もする。

 ドラマにおいて、方言というのは、「嘘」呼ばわりされることの多い側面である。
 に紹介したATOK監修委員会10周年記念シンポジウムでも方言指導の人の苦労が忍ばれる発言があるが、ある表現を書いたら、十人十色の「それは違う」が帰って来た、というのが印象深い。
 それはつまり、そもそも、標準的な○○弁って存在するのか? という問題なのである。
 そんなもん、ありゃしない。
 前に、字にすると一定の形が定着しやすい、と書いた。これは逆に、音声の言葉である方言に一定の形を要求するのは無理、ということにもなる。
 確かに、秋田市の秋田弁を標準秋田弁とする、というのは考えられる。だが、これは便法である。
 なぜ秋田市なのかといえば、県庁所在地だからに過ぎない。人口が多い、ということは言えるが、それは言葉とは関係が無い。大体、地図がある人は見てもらうとわかるが、秋田市って相当に大きい自治体である。であれば、「秋田市の秋田弁」ってのは、相当にバリエーションがあるのじゃないか、ということは容易に想像できる。
 となると、ドラマに方言を出そうと思ったら、男か女か、年はいくつか、どこの出身でどこで育ったのか、ということを、方言を使わないケースに比べて詳細に設定しなければ正確にはならない、ということになる。
 更に、そういう努力で正確にしたところで、全国の人が相手だ、という壁が立ちはだかる。本当にネイティブっぽくやったら、絶対にわからない。どこかで強烈さを薄めなければならない。
 一方で、そのことは、ネイティブの不快感を呼び起こす。「それは○○弁ではない」と言われてしまうわけだ。
 というわけで、「ま、こんなもんじゃない?」というスタンスを採る人以外には認めてもらえない、「嘘」の方言を使わざるを得ない、ということになる。

 大体、標準ということについて、言語学的な裏づけというのは存在しうるのだろうか。ないと思うのである。
 俺の大嫌いな「って言うか」も、相手の発言を直接的に否定しないのでコミュニケーションをスムーズにすることが期待できる、という点でメリットはある。これを完全に否定することはできない。
 というようなポイントがある限り、標準は確立し得ないわけだ。

 他の嘘は許容されることが多いように思う。
 前に「二千年の恋」というドラマがあった。金城武と中山美穂という大物が出演していた。*1
 金城武はテロリストだ、ということで、建物が爆破されるシーンがあった。
 テレビで爆破シーンを見ることの多い特撮オタクの目から見ると安っぽい火柱が上がった後で、倒れている建物が映った。これが、壁と窓が一体になった、ひらたく言えば、プレハブなんである。
 安いったらありゃしない。
 これ、特撮番組でやったら、一般の人から「所詮、ジャリ番だから」とか言って笑われるのだが、大人向けだと許されるものらしい。*2

 肝は「それっぽい」かどうか、ということになるのだと思う。
 金城武がテロリストだ、ということが描ければいいのであって、そのドラマのメインのターゲットでない特撮オタクがどう評価するか、というのは割とどうでもいいことだったのだと思われる。
 同様に、秋田ネイティブでない人が「あぁ秋田弁だね」と感じてくれればそれで充分なのであって、リアルな秋田弁である必要はない、ということなのである。そこを追求すると、そもそも話が通じなくなり、ドラマがドラマとして成立しなくなってしまうのだ。

 俺は事件の詳細を追わないことにしているのでアレだが、ワールドカップのおかげであんまり叩かれずに済んでいる。WC 様様である。
 そんな中、映画ははやるのじゃないか、という観測が唯一の救いだ。




*1
 普段なら絶対に見ないのだが、この中の出演者と俺の顔が似ている、という話を聞いたので見てみた。確かに似ていた。
 誰かは秘密だが、金城武でも東幹久でもないことは言っておく。 (
)

*2
 視聴率の面では苦戦したと聞く。(
)






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