例年、象潟で泊りがけの新年会をやっている。が、去年、今年と欠席した。
何度も持ち出してアレなのだが、現在、放り込まれているプロジェクトが全く先の読めない代物で、前もっての予約締め切りがある泊りがけの宴会になんかとても参加できないのである。
まさしく先が読めないのであって、必ずしも忙しいわけではない、というのがミソで、案の定、俺はその日は休日だった。フラストレーションがたまりまくっている。
象潟 (
きさがだ、
きさがだ) といえば、芭蕉が来たという蚶満寺だろう。芭蕉はスパイだったという説があるのだが、聞いたことありますか。
昔、象潟は「蚶方」と書いたらしい。それが「蚶万」と誤記され、やがて「蚶満」となったんだそうな。
この辺、由利本荘地区なんて総称されたりするのだが、本荘、金浦、象潟とも港がある。なので肴は魚である。
ことに金浦は鱈である。300 年続く「掛魚
(かけよ) まつり」、別名「たらまつり」というのがある。
さて、鱈と言えば、一般的には「鱈子」であろう。きっとオスよりメスの方が高価なんであろう、と思いきや、今はメスの方が安いそうな。倍以上も違うと言うから驚く。
これはひとえに「
だだみ」のおかげである。
何度も書いたが、これは鱈の白子のこと。場所が場所なので新鮮でないと食べられない。鍋に入れるのが一般的だが、それこそ、金浦、象潟あたりの漁港近くでは刺身が食べられる。旨い。
そんなわけで、最近までは漁港近くで消費されていた。だが、冷凍技術と高速交通体系のおかげで離れた場所でも「
だだみ」を食べられるようになった。珍重される。そのためのオスの高値、ということである。
なんでも、オスとメスは外見では区別できず、腹を押してみて、肛門から出てくるのが何か、で判断するのだとか。
「
だだみ」は、東北方言全般の特徴で、途中に「ん」が聞こえる。「
だんだんみ」というような感じ。
これは、“d”、“m”、“b”、“g”などの音の前で一旦、空気の通り道がふさがれるからである。
例えば「沢田」なんて苗字をゆっくり発音してみて欲しい。「田」で一瞬、舌が軟口蓋 (上あご) に触れる。全国共通語系の発音ではこれは本当に一瞬なのだが、秋田弁ではきっちりとくっつくのである。これを一気に開放するので「ん」が聞こえる、というわけである。「座布団」の「ぶ」、「風間 唯」の「ま」、「仮面ライダー アギト」の「め」と「ぎ」、全て一緒。
昔、柳葉 敏郎が「欽ドン!」に出てた頃、よく「山田だ」を「
やんまんだんだ」とやっていたが、同じ現象。
これ、語源は何だ、と思って調べてみた。
あんまり検索エンジンにひっかかる例は多くないが、どうやら北陸方面では「内臓」全般を指す様である。長岡では白子のようだが。
話は急に変るが、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』というのを手に入れた。
新聞で紹介されていたのだが、自費出版だ、ということなので、出版した会社に電話してみたところ、秋田市内の書店には配本してあるとのこと。
「お近くの書店はどこですか」と聞くので、名前を言ったところ、「あぁ、そこなら配本してありますので」と即座に答えが返ってきた。偉いぞ、
秋田協同書籍。
それですっかり気持ちよくなったので、\12,000 とかなり高いんだが、買った。
元を取らなきゃいかんので、一生懸命使うことにしよう。
で、それによれば、「
だだみ」は「段々実」ではないか、とのこと。確かに、段々になっていると言えば言える…。
他の地域では、北海道では「
たち」「
たつ」「
たつのこ」。これは青森でも言うようだ。これは「精力がつくから」という解釈があるらしい。
仙台では「
きく」だそうだが、「菊子」「雲子
(くもこ)」という呼び方があるそうな。この 2 つは俚言ではなく、それぞれ菊の花、雲に似ているからだとか。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』によれば、「
きぐわだ」という形もあるらしい。
関連では、「
どんがら (あら)」「
あんぶらわだ (肝臓)」というのもあるそうだが、俺は初めて聞いた。
田舎に道路とかで金を落とすのやめようぜ、という議論が起こっている。費用対効果のことを考えれば、それはわからないではない。
でも困るのは我々田舎者だけではない、ということは言っておこう。
コンビニが縮小の憂き目を見る可能性がある。一軒できたな、と思ったら、あちこちに同じ系列の店ができた、という経験をお持ちの方は多いと思うが、ああいうのは、食料品は現地のメーカーと契約するにしても、基本的には、どこかに拠点を作って、そこからトラックで配送するので、新規出店の場合は、何軒か一斉にオープンしないと割に合わないのである。つまり、高速交通体系の存在が前提となっている。
それが確保できないとなると、コンビニ チェーンは規模を維持できない、薄利多売作戦が採れない、ということになるわけ。
勿論、足の速い「
だだみ」とか「イワシの刺身」とかは、現地でないと食えなくなる。
ま、別にいーんですけど。
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第274夜「安定と長期低落」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp