Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第272夜

寿司と豆と餅と




 商売になるんならなんでもやるんだなぁ、と思った。
 2/3 のスーパー店頭の話である。
 巻寿司バイキングってのをやっていた。
 言うまでもない、「恵方巻」である。
 これ、全国展開のコンビニで売ってるんなら別に違和感も持たんのだが、秋田資本のスーパーでやっていたので、アラアラと思ったのである。

 なので調べてみた。
 驚いたことに、これ、海苔業界の販促活動だというではないか。「関西では古くから」と言われているが、ここ数十年のことらしい。
 いや参ったね。ニ月って販促月間かい?
 十日後にはチョコの販促もある。いっそ下旬にも何か設けたらどうか、と思って調べたら、2/28 が「ビスケットの日」なんだそうな。がんばれ、ビスケット業界。でも、サンジョルディの日って知ってるかい。
 だが、2・26 だったり、浅間山荘だったり、谷啓や植木均の誕生日があったりして、ニ月下旬は割と慌しい。

 これを調べていて、これも方言なのか、と思ったのが「かぶる」。
「寿司にかぶりつく」なら見落とすが、「親子でかぶった」と言われるとオヤ?と思う。
 とりいそぎ、得意の大辞林
かぶ・る 【齧る】
(1) かじる。「黒白二つの月の鼠が其の草の根を―・るなる/太平記 33」
 なるほど。
 でも現在、そういう使い方をする地域は限られている。俚言と認定させていただく。「かぶりつく」「かぶりつき」も関西から広がったものだと考えていいだろう。
 TV は依然として「かじりつく」だろうな。

 秋田県民に「恵方巻」がどの程度、浸透しているのかは知らない。昔からの風習だと思ってやってる人には申し訳ないが (本当にそうかもしれないが*1)、丸々一本の巻寿司を家族全員が同じ方向を向いて黙ってかぶっているのは、中々に寒々しい。 『家族ゲーム』じゃあるまいし。笑いながらかぶる、というのもあるらしいが、それはそれで不気味だ。俺にはできん。
 豆まきなら、子供が喜んでやるだろう。イベント性がある。学校で撒き、地域で撒き、家で撒く、というような繰り返しが期待できる。
 だが、巻寿司はどうだ。三本食ったら一日の食事が終わりそうな気がするが。そんなこと知るかい海苔が売れたらえぇねん、というあたり、いかにも大阪っぽい感じと言ったら問題か。一方で沈黙を余儀なくされる。大阪にあるまじき暗さではないか。いや大阪の風習と決まったわけではないが。
 イワシの焼いたのやヒイラギの枝を玄関に飾る、という風習がある。見たことはないけど。どちらも魔よけらしいのだが、「イワシの頭も信心から」ってこれのことだそうな。
 この風習がウケないのは、商売にならないからだろうな。イワシが一軒あたり一匹売れたってなぁ。
 豆まきといえば、でん六の赤塚不二夫の鬼の面。これ、本社が山形なんだが、全国的な知名度はどれくらいなんだろう。でも、天下の赤塚不二夫に依頼できるくらいだからなぁ。えっ山形なの? って人のほうが多いかもな。*2
 土用にウナギをってのも元々は販促だし、我々の風習が商業主義に振り回されるのは、実は伝統的に正しいのかもしれない。

 秋田の節分行事というと、大館のアメッコ市か。呼んで字の如し、飴である。また食い物だ。これを舐めると風邪を引かないらしい。始まったのは 1588 年というから、秀吉の天下統一 (1590) より古い。「っこ」はもちろん、指小辞の「っこ」。
 なまはげ柴灯 (せど) 祭というのもある。男鹿の真山 (しんざん) 神社で行われるのだが、始まったのは 1964 年だとか。古いの新しいのが混じったイベントのようだ。これには、胡麻餅が登場する。

 ちょっと前まで、秋田県内の節分イベントでも、なまはげが鬼の代わりに登場していた。鬼じゃねーぞ、なまはげは。
 なまはげは、「泣く子」「親の言うことを聞かない子」を懲らしめにやってくる、神様なんであるぞ。*3

 話が逸れるが、節分で何を撒くか、という問題がある。
 我が家では落花生であった。
 どうも北日本にそういう傾向があるらしい。検索エンジンで調べると、北海道の人が、あたかも北海道独自の風習であるかのように書いているのが目立つが、そうではない、ということは言っておこう。
 そういう環境で育ったので、俺は「豆を炒る」という光景を目にしたことがない。

「節分餅」ってのもあるようだ。正月に始まり、ボタ餅、桜餅、柏餅、お萩とイベントに餅はつきものだが、節分にもあるとは知らなかった。がんばれ、米業界。

 段々、何の文章だかわからなくなってきたな。
 何で「恵方巻」が引っかかるかと言うと、各地で節分のイベントと、それぞれにちなんだ食い物があるはずだ、と思ったからである。実際に、ちょっと局地的ではあるが、アメッコ市があり柴灯祭がある。そして、飴と餅が出てきた。
 それを無視して「恵方巻」はないだろう、と思うのだが。
 ちょっと牽強付会気味かな、という気もしないことはないが、各地の方言の衰退と、他の土地の大勢力をもった方言の流入と、あながち無関係でもないように思う。



*1
 大阪の花街では江戸時代からあった、という説もある。近畿のみという説も、愛知まで含むという説もある。要するに、ようわからんのである。(
)

*2
 
でん六のサイトに行くと、この鬼の面の歴史を見ることができる。 ()

*3
 大っぴらの夜這いだったという説もある。だから子供は早く寝かせたいわけ。(
)




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