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Shuno の方言千夜一夜
第270夜
雪の降る町で (7)
「日本語学 (
明治書院
)」の 1 月号、特集「冬のことば」の話を続ける。
木部 暢子氏が鹿児島の正月を紹介しているのだが、最初の章のタイトルが「大正月」である。なるほど、「小正月」があるのだから「大正月」もあるわけだ。
7 日には七草粥である。これが「
ナンカンズシ
」である。「
ナンカン
」は「七日の」だろうが、鹿児島ではこれを「寿司」と呼ぶのか? と思ったら、「雑炊」のことであった。
粥に入れる野菜 (?) を切るときに特定の文句を唱える習慣がある。岸江 信介氏が四国の例を取り上げているが、確か東京にもあったはずだ。これがほとんど「唐土の鳥」というフレーズを含んでいるのは興味深い。包丁でまな板をたたくトントンという音から来たものか、それとも民俗学的な何かがあるのか。
*1
この特集は、方言面もさることながら、いろいろなことで驚きを与えてくれる。
佐藤氏の文章では、注連縄を車にくっつけておく習慣について、最近のこととしているが、俺が見る限り、そういう習慣はなくなりはじめているように思われる。
初夢は 1/2 の朝に見たものである。これが不思議だったのだが、1/1 は何もしない日だから、なんだそうである。1/1 に夢を見ても、それは見たことにはならないのだそうな。
俺の今年の初夢は、高校時代に憧れていた女性に言い寄られる夢であった。いかにも夢らしい、と思ったのは、俺は確かにその人だと認識しているのだが、見た目はまったく別の人だった (起きてから気づいたのだが)、という点である。
小野 米一氏の文章では、氷の破壊力について書かれている。確かに凍結による水道管の破裂というのは今でも珍しくはない。俺のアパートでは、水抜き (蛇口を開けたまま元栓を閉めて、屋内の水道管から水を抜くこと) を怠って風呂釜が破損した場合は自己負担、ということになっている。
加藤氏の、北陸の言葉を取り上げた文章では、雪合戦のことを「
ユキナゲ
」と言っていた、と述べられている。これは東北の一部の地域では、雪かきや、雪かきで集まった雪を川などに捨てに行くことを指す。
佐藤氏の文章では、冬季の野菜を保管して置くために穴を掘って埋めておく、という習慣が紹介されている。穴の上に杉の葉を置いておくと鼠が寄ってこないのだそうだが、それを「
鼠がらかんねようによ
」と書いてあった。
これ、お隣のことだというのに意味を了解するのに時間がかかってしまった。「ネズミに食べられないように」であった。「
かんね
」が「食べられない」である。
秋田弁でも似たような形だが「
かいね
」になる。全体としては「
鼠がら かいねいに
」だが、鼠に対する敵意をあらわにすると「
鼠にがって かいねいに
」となる。「
がって
」がポイントである。
「食う」という語があるが、これがそのままカ行で活用するような形になる。「食わない」が「
かね
」、「食われる」の r 音が脱落して「
かいる
」、「食われない」が「
かいね
」である。山形の場合は、その「い」も「ん」になってしまう (あるいは「れ」が「ん」になる)、ということらしい。
いやまったく方言は音の言語である。
志賀 雪湖氏の、アイヌ語を取り上げた文章では、「寒い」に 2 つある事が触れられている。気温が低いことと、人間が寒さを感じる、というのとは別の単語を当てるのだそうだ。だから、前者を寒い-A、後者を寒い-B とするなら、寒い-A が寒くない-B ということがありうる訳だ。
アイヌ語では、月の名称は、その時期をダイレクトに表わしたものだそうで、例えば 10 月は「足の下 (霜柱が立つので足の下で音がする)」、4 月は「達者な月」という具合だそうだが、これは日高地方の言い方で、地域によって違うんだとか。具体的故の差異ということだ。
ルイベとか、カボチャをかつらむきにして干したものとか、旨そうな話題も多かった。
「流れが上がる」という表現があって、凍った川の上を、上流からの水が流れていく様子だそうだ。これなどは、なかなか凄まじい。アマゾン川の「ポロロッカ」を思い出してしまった。
*2
冒頭の佐々木 瑞枝氏の文章は、雪のないマレーシアやバングラデシュからの留学生を蓼科に連れていった話で、中々心暖まる。
中で取り上げられている新沼 謙二氏の「津軽恋女 (久仁 京介氏作詞)」だが、これは伊奈かっぺい氏がよく槍玉に挙げる。
「津軽には七つの雪が降るとか」と歌ってから「こな雪、つぶ雪」と雪の種類が並ぶ、最初はいいが後半になると「ざらめ雪」「みず雪」「かた雪」「氷雪」なんてのが出てくる。これは積もったり凍ったりしたものであって、降らないのである。
*3
ただし「水雪」は、地域によっては「みぞれ」のことを指す場合もある。
正統派雪だるまの作り方が書いてあるが、これは前夜から大きなシートを広げて置くのだそうな。その雪だけを使ってだるまを作る。確かにきれいになるだろう。でも、前準備のいる雪だるまって「正統派」か?
これにも水で濡らしておくと長持ちする、と書いてあるが、かまくらも同様である。これは雪の山を作る過程で何度か水をかける。それによって頑丈なものにする。だから、中でストーブを焚いても大丈夫なのだが、言ってしまえば、厳密には雪の家というより氷の家な訳。
俺のいるアパートは、アパートの前に各自の車を止めることになっているのだが、冬になるとツララと戦わなければいけない。根元の太さが 10cm にもなったツララが車の上に落ちたらどうなるか想像してみて欲しい。
なので、小さいうちに棒で払い落としていくのだが、そのカケラが他の人の車に当たるとまずいので気を使う。夜にやるとチャリチャリと音がして怪しい。力が強すぎると、屋根の雪ごとドサっと落ちてくるので加減も必要。
雪国の暮らしは、かように難しいのである。
*1
これも調べたら色んな説がでてきた。
・中国の伝説にある、病気をまく鳥
・春にやってきて作物を食い荒らす渡り鳥
なんてのが多いようである。
そう言えば、冬季に「鳥追い」の祭りをするところは多い。
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*2
河口に打ち寄せた海の波は、一旦は河口に突入していく。河口がすり鉢状に広がっていれば、河口に入っていく水量は増える。
その際、川幅は上流に向かって急激に狭まっていくので、行き場を失ったエネルギーは垂直方向、実際問題としては上に展開することになる。つまり、津波と同じ状態になる。リアス式海岸での津波被害が大きいのと同じ理屈である。
アマゾン川では、最も大きな満ち潮となる春分と秋分の時期には、そのエネルギーも最大となるので、海水は 200km 以上も逆流する。これが「ポロロッカ」。
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*2
「
神山気象予報士の検索メモ
(岩手放送)」で、それぞれどういう雪かが解説されている。 また、
Sachiko7162
の「
雪の種類
」などでも突っ込まれている。
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