Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第255夜

僕の前に道の駅ができる



 一年ぶりに青森に行って来た。正確に言えば、一年に一回しか用事がないのだが。例によって、西津軽郡平内町の夜越山で行われた、MTB のレースである。レースの結果は問わないでいただきたい。鮭トロおにぎりで腹を壊した (らしい)、とだけ書いておく。
 今回は相方の yo-canoe も一緒であった。普通に R285〜R105〜R7 と入る。高速は使わなかった。彼は、長時間の運転は苦にならないタイプらしい。

 確か夜越山のレースに参加するのはこれで六回目になる。いい加減、このルートにも慣れてきて、最短はわかったし、そろそろ裏道でも探すか、という感じになってきているのだが、yo-canoe 曰く、津軽の人が何を言っているのか、半分くらいしかわからない、とのこと。
 俺はなまじっか津軽にすんでたことがあるせいか、一応わかる。そんなわけで、「半分くらいしかわからない」というのはやや虚をつかれた感じがあった。
 恐らく、外から見れば、秋田弁も津軽弁も同じようなもんであろうと思われる。俺も、佐賀と長崎の言葉を識別することはできない。だから、「わかんないの?」と思う人も少なくないだろう。

 前にも書いたが、秋田市は秋田県の西の端にあり (本当の西端は男鹿市だが)、他県に背を向けたような格好になっているので、隣県の県庁所在地に行くのに四時間もかかる*1。そのせいか、他県との交流があんまり盛んではないような気がする。昔、「秋田モンロー主義」なんて表現を聞いたような記憶もある。
 まぁ、全くないということもないのだが。現に、俺が今いる職場には、青森や岩手から派遣されてきている人もいる。それでも、多くの人が、相手の言っていることの大半を理解できる、という状態にはなっていない。

 話は変わるが、「多い」というのも危ない言葉である。
 例えば「失業者が多い」と言う。これは確かだが、比率としては 5% である。これは多いのかどうか。
 あるアンケートを取って、70% の人が該当することがわかったとする。確かに過半数ではあるが、当てはまらない人が 30% いることを考えれば、これも多いのかどうか。
 つまり、内容による。また、率に着目しているのか、量なのかにもよる。
 というあたりに頓着しないで「多い」を使ったがゆえに生じるトラブル、というのも多いように思う。

 話を戻す。
 別の地域に住んでいる人同士の話が通じる、というのは、それぞれが自分以外の方言に対する理解力が優れているか、それぞれの方言的特徴を殺しているか、のどちらかであると考えられる。両方かもしれない。
 もし後者だとすれば、それは残念ながら「方言の衰退」に向いたベクトルである。地元に帰ったときに方言全開なのであれば影響はあるまいが、方向としては一緒だ。
 ここが、方言の保存というもののウィーク ポイントなのである。
 寧ろ、前者を伸ばすほうが文化的豊かさにつながると思うのだが、それには個々の努力が不可欠なので、中々に難しい。逆に、別の方言の特徴がうつってしまったりすると、純血主義な人にとっては不愉快なことになるであろう。

 今回の青森行では、あんまり言語現象は拾えなかった。
 繰り返しになってしまうが、独特のイントネーションは健在である。道の駅でも、居酒屋でも。
ール」というのが聞かれたが、これはいわゆる「専門家アクセント」ではなく津軽弁の音だろう。単独でも聞いたが、つなげると「ビーいっぽんけねが」となる。
 大鰐あたりで「あづましの宿」という看板を見た。これは「あずましい (心地よい)」であろう。
 あとは「きみ」か。これは浪岡の道の駅で売られていた農産物である。前にも書いたとうもろこし。
 俺はみよりリンの方が好ぎはんで一袋買った。ビニール袋の中に顔を突っ込みたい衝動に駆られるくらい、かぐわしい香りである。

 道の駅だが、雨後の筍のごとくわさわさとできている。
 国土交通省道の駅に関するページを見てみたら、9/7 現在で東北に 90 ヶ所ある。全国で 610 ヶ所なので、14% 強、ほぼ 1/7 を占めていることになる。面積比はともかく、人口比・交通量比から考えたら多くはないだろうか。*2
 今回、通ったルートでは、しょうわ (昭和町)・かみこあに (上小阿仁村)・たかのす (鷹巣町)・やたて峠 (大館市)・なみおか (青森県浪岡町)・ひろさき (弘前市)・浅虫温泉 (青森市) と七ヶ所で遭遇した。運転している時間は五時間くらいだから、45 分に一回の割合になる。この他に、大駐車場のコンビニや昔ながらのドライブインや店舗が集まった場所があり、バイパスならロードサイド店があり、市街地を通れば店はいくらでもある。ちょっと過剰気味だと思うのだが。そのうち、民業圧迫とかいう話が出るんじゃあるまいか。
 人口密集地・交通量の多いところではお役所が動かなくともドライバー用の施設はできる、と考えれば、東北に多いのは当然の結果か。都市生活者で「道の駅」という単語を聞いたことがない人もいるようだ。
 道の駅が地域の拠点という側面を獲得しつつあることを考えれば、道の駅が多いのは「田舎だから」ということになる。こうして、道の駅は方言が話される場所になっていくのだろうか。




*1
 盛岡は「こまち」のおかげで二時間弱で行く。車でも三時間はかからない。(
)

*1
 人口比で言うと一割を切る。つまり、東北六県全体の人口は、東京都の人口よりも少ない。(
)




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