Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第221夜

東京弁の茨城化



 久しぶりに渋谷に行ってきた。にも触れた異業種交流会東京 FORT の勉強会に参加してきたのである。
 勉強会自体が終わった後も熱い話が続いたが、それにしても夜更かしに弱くなった。
 もともと睡魔には弱い方なのだが、最近は、座ったまま眠ってしまいそうになる。ちょっと仕事が落ち着かなくて、基本的に体調がよくないせいもあるのかな、とも思ったりするのだが。今回は 3 時に沈没した。

 言葉の話。
 東京の街中で一番目立つ (耳立つ) のは大阪弁である。絶対量から言ったら多くはあるまいが、周囲のイントネーションと比べると全く異質だから、すぐに気づく。
 大阪もんは声が大きい、などと言われることもあるようだが、これについては数字が無い。

 声が大きいと言えば、そういう家族が山手線に乗っていた。大阪弁。
 停車のたびに子供が「着いた?」と聞く。母親が「まだや」と答える。これが延々繰り返される。
 子供の方はともかく、母親の声が大きい。
 言っちゃなんだが、派手な格好でガラガラ声、「大阪のオバチャン」のステロタイプにぴったりの感じ。
 途中で、そのオバチャンの電話が鳴った。
 驚いたことに、その応対の声のほうが小さいのである。
電車の中で話したないんですわ」と言っていたところを見ると、電車の中で携帯電話を使うのは良くないことだ、と感じているらしい。声が小さいのはそのためだと考えられる。
 しかし、物理的には「着いた?」「まだや」の方が迷惑である。
 なお、その子供の発話がどちらかと言えば関東風であったことを付記しておく。ところどころに大阪風の特徴がありはするのだが。

におってみて (匂いをかいでみて)」と言う人がいた。言ったのは東京の人である。
 ただし、これは関東の表現ではない。長野辺りより西のものだ。「かおってみて」というのもある。
 この表現は、かなり関東に浸透しているのではないか。確かに、「匂いをかぐ」より短いというメリットがある。

 しり上がりの「〜ない?」も、かなり広範囲に耳にした。例の、「わいくない?」「ずくない?」である。「い感じ」も似たパターン。
 先行する形容詞のアクセント型に拘わらずしり上がりになるところを見ると、一型アクセント化、無アクセント化に向けた動きと見なしてもいいように思う。
 ところで、その勉強会の席上で取り上げられた物事について、俺が「これ、どにあるの?」と聞いた。
 この場は俺にとっては文体が低いので、流石に「どごさあるの」ではなかったものの、「さ」を「に」にして、「ご」から濁点を除去しただけで発話した。つまり、イントネーションは秋田弁そのままであった。
 が、「〜ない?」の例もあることだし、現在の東京における会話としては、全く違和感が無い。
 つまり、「専門家アクセント」なども併せて考えると、このレベルに関しては、東京弁のアクセントは崩壊していると考えられる。もはや東京弁とは言いにくいわけである。まぁ、伝統的な東京弁のパターンから逸脱している、というのが正しいところだろうが。
 が、これを東京弁の茨城弁化、などと考える人はいない。逆はあるのにも拘わらず、である。それどころか、この「茨城弁と共通の特徴をもった東京弁」はメディアを通じて全国に広がり、各地で「今の東京の言葉」として受容される。
 同じ現象であっても、かたや「変なアクセント」と言われてしまい、かたや「かっこいいアクセント」と言われるという現実。つまり、言葉の評価は言葉自体の性質によるものではないのだ、ということである。

 久しぶりに「秋田の人なんですか。秋田弁でしゃべってみてください」と言われてしまった。こういう言語行動には場の空気が関わってくる。秋田弁話者一人、他は東京弁話者、場所は東京、って状況じゃ無理だっつーの。
 と、そのときは思ったのだが、“I can't speak English.”みたいなジョークをかませばいいのだ、ということに後から気づいた。つまり、場の空気云々ではなくて、発話者個人の問題である、ということだった。
 ただし、「俺、秋田弁しゃべれねんだ」と字で書いてもわからない。イントネーションは違うのだが、秋田弁固有の俚言が含まれていないので、今一つインパクトに欠ける。
 オヤジ系人種には、性器の名称なんてのが好まれるようだが、それは俺がオヤジに堕落したときのために取っておく。

 実を言えば、飛行機の時間を間違って覚えていたので、「ふるさと日本のことば」の徳島の回を見損なった。19 時帰宅だと思っていたら、19 時着陸だった。というわけで、徳島の回は再放送まで延期である。




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