Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第204夜

永眠



 叔父が他界した。
 前から入院しており、まさに見舞いに行こうとした日のことであった。
 結局、葬式の下足番をするのが関の山で、どうにも親戚に不義理を重ねてばかりである。

 父は末子で、次男である叔父とは 15 歳ほど離れていたので、俺とは 40 も違うことになる。そのせいか、例えば遊んでもらったというような記憶はあんまりない。遊んでくれたのは叔父の子供、俺から見れば従兄弟にあたる人たちである。
 こんなエピソードがある。
 父が故郷に帰った気楽さで酔っ払い、飲みすぎるなと母にたしなめられた。で、気を悪くして、うるせぇとかなんとか言ったのだが、それを見た叔父が「おめ、奥さんさ なんぼ世話なったど思ってらんだ!」と父をこっぴどく叱る、ということがあった。2 回くらいあったような気がする。
 葬式の弔辞でもそんな表現があったが、どちらかといえば豪放磊落というタイプである、と認識していたので、これはいささか意外であった。
 2 度も同じことで怒られる方もどうかと思うが。
 が、それ以降、表現が抑え気味になったのは確かである。

おだや」という表現を初めて耳にした。
「お逮夜」と書く。標準語形では「おたいや」である。「お待夜」と書くこともあるようだ。
 あちこちのサイトで調べてみたが、基本的には没後六日目、初七日の前日を言うらしい。
 偉い人 (俗世での偉さではなく、宗教上の偉さで、なんとか聖人と呼ばれるような人) の場合は、命日の前日をさすようだが、この辺の違いはよくわからない。
 そうした偉い人の命日に祭が行われるようなケースで、開催日が命日ではなくその前日になることがある。これも「お逮夜」。どうも、「お逮夜」イコール「忌み日の前日」という捉え方をしているようである。
 語源としては「お通夜」と一緒で、夜を徹して故人の冥福を祈るための儀式である、というような解説もあった。「逮」「待」…まぁ、わからないことはないが。

 話が仏教から離れるが、「宵宮」というのがある。
 どうやら本祭の、これも前日であるらしい。
 で、これ「よみや」と言ったりする。
 子供の頃は、お参りだのなんだのはどうでもよくて、それよりはお面と射的の方が大事だから、「夜店」と混同していた。「店」のことを「みせや」って言ったりするしな。
「みせや」ってなんか重ね言葉っぽい、と思う人もあるかもしれないが、「おみせやさん」あたりは聞いたことがあるだろう。
「しゃてき」って単語もしばらく詳細不明だったなぁ。

 祭によっては「宵宮」の更に前日というのもあって、これは「宵々宮」となる。「宵」という漢字自体には「前日」というような意味はないようなのだが。

 「忌明け」を「きあげ」という、という話は前にもした。単に濁音になっただけだが。「ぎあげ」ではない、といことは念を押しておく。
 細かく追っていけば、きっと「おだや」クラスの秋田弁が見つかったと思うのだが、仕事がバタついていたおかげで、礼を失しない程度にしか参加していないので、ほとんど拾えていない。
 その代わりというわけではないが、学研の『ひと目で分かる全国方言一覧辞典』で「死ぬ」を調べてみると、東北の「メオドス」系が目に付く。秋田は違うようだが、これはひょっとして「命落とす」か?
 「亡くなる」系も散見されるが、香川の「ナシンナル」は虚を突かれる感じがある。

 ご存知の方も多いと思うが、冠婚葬祭関係には、地域ごとに差がある。
 父の故郷と母の故郷とは車で行ったら 30 分程度の距離なのだが、それでも違う。
 例えば、火葬の重要性の高低が違うらしい。父の生まれ育った地域では、非常に近しい人はともかく、親戚であっても必ずしも参列の必要はないようである。母の方ではそうでなかったため、食い違いによる口論が生じた。宗派も絡むのであろうが。

 こんなのもある。
 葬礼は基本的に親戚が執りしきる。故人に極めて近い人たちは、弔問客の相手に専念するわけである。
 しかし、いくら農村とはいえ、親戚がすぐ近くにいるとは限らない。そういう場合、近所の人たちと親戚になる契約を結ぶらしい。これをなんと呼ぶのだったか、思い出せない。
 近年は段取りは葬儀社に任せることが多いようだが、それであっても、この構図に変化は無いようだ。

 そういう時期にあたってしまったが、故人の孫、俺から見ればまたいとこ (又従弟) にあたる青年が結婚する。
 俺は、彼が新生児だった頃を知っている。それが、結婚である。
 色々と考え込んでしまう年ごろである。
 俺のことだが。




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