Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第166夜

がんこ頑固




 NHK が、方言のキャンペーンをやっている。
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 で、秋田放送局でも、夕方のニュース情報番組の中で、秋田大学の佐藤稔教授を招いて
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「秋田方言講座」というタイトルで定期的にとりあげている。
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 この前の話題が、他の地域で使ってしまう言葉、他の地域の人にも教えたい言葉、であ
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った。
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 それによれば、今年成人を迎えた人の 1/4 が県外に住んでいるんだそうである。ま、
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かっての俺もその一人だったわけだが。というわけで、秋田市で行われた成人式でのイン
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タビューで構成されていた。


 「県外の人に通じなかった秋田弁」として、
しょし、のぎ、はらつえ、ほじね、いす、しったけ、こべ、あべ、なげる、ける、ごしゃぐ、
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さい
 が挙げられている。この中で「こべ」がわからないのだが、なんだろう。「こえ」の誤植か?
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 これを分類してみると、
1) しょし、のぎ、はらつえ、ほじね、ごしゃぐ、さい、しったけ、あべ
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2) なげる
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3) いす
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4) ける (*)
 となるか。1) がとっさに口をついて出る言葉 (*)、2) は気づきにくい方言、3) はア
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クセント、4) がその他、である。
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 このアナウンサーが秋田衆でないことは、「のぎ」を鼻濁音で発音してしまったことで
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わかる (*)。正確には、濁音であって、かつ息が漏れる音である。“ghi”という感じ。


 一方、「他の地域の人に教えたい秋田弁」と「愛着のある秋田弁」である。
んだ、めんこい、はらつえ、さい
 「んだ」「さい」は、どんなに努力したって出てしまうわけだから、相手がこれを理解
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するようにした方が早いわけである。
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 「めんこい」は、「可愛いって感じがあふれている」んだそうで、それは秋田衆である
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がゆえなのだが、まぁ深くは追求しない。
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 「はらつえ」の方は、その新成人の周囲では流行っているのだそうである。


 この辺に、若者故の柔軟さが見られる。
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 彼がどこに住んでいるのかは分からないが、彼の周囲の人間は、たまたま耳にした
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はらつえ」という単語に興味を示し、仲間内の共通コードとしてではあろうが、自分が
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使う表現として採用したのである。
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 構造としては、例の「チョベリバ」と大して変わらない。
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 「チョベリバ」は一定の世代にしか通用しない表現であった。「はらつえ」も彼の仲間
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内 (と秋田衆) にしか通用しない。
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 どちらも非標準形である。
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 しかし、「チョベリバ」は外部の人間のほとんどにとっては不快な表現であったのに対
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して、おそらく「はらつえ」は好意的に迎えられるだろうと思われる。勿論「そんな田舎の
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変な言葉を使って
」と眉をひそめる人もいるだろうが、数えれば (それができればの話
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だが) 差がでると考えられる。
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 逆に、秋田に香川からやってきて「腹がおきる」と言う人がいたとする。学生であれば、
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仲間内で流行る可能性はあるかもしれない。
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 それが大人であったらどうだろう。転勤族の 40 代であったら、その人の周囲は「腹が
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おきる
」を採用するだろうか。


 ノスタルジーは保守的な考えの上に成立するものだ。昔と同じだったらいいなぁ、と感
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覚なわけだから。
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 これと同じライン上に方言擁護派の発想があるように思う。
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 他者の表現を認めつつ、自分の表現を守る、というのでなければ、なかなか支持は得
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られないと思うのだが。
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 一時的な流行語としてでも、他の世界の単語を使ってみるくらいの柔軟性がなければ、
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いきいきとした言葉をはぐくむことはできまい。


 ところで秋田放送局に注文。
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 「キャンパスに持ち込まれた方言」として、
がめる、ささる、ばくる、ねまる、はっかめぐ、わやだ
 を挙げたが、これが「どこから」「どこに」持ち込まれたのだか説明して欲しかった。
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 俺の感覚としては秋田弁だと思うのだが。県外から秋田のキャンパスに、秋田から県外
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のキャンパスに、キャンパスの内外で意味が違う…と色々と考えられるのだが、どれも違
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うような気がするな。
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 ご存じない方のために言うと、学生の使う言葉は、一種の閉鎖社会であることもあり、独
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自性を持っているため、よく「キャンパス言葉」として研究対象になる。その分野の話だと
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は思うのだが、時間の都合とはいえ端折りすぎだ。



題:静岡では「がんこ」は「すごく」という意味だそうだ。したがって、「非常に頑固」は
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 「がんこ頑固」となるらしい。
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*1:これは「蹴る」ではなく、「くれてやる」の方。()
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*2:「いやーん恥ずかしい」「あー暑い」「お腹一杯だー」「馬鹿じゃねーの」「おこら
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 れちゃった…」「しまった」「すっごい」「さ、行こ」というわけで、割と何も考えずに
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 使ってしまう単語と、感情的になったときに使う単語ばかりである。(
)
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*3:あるいは、NHK の教育の成果かもしれない。最近は、鼻濁音を全く使えない
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 (識別すらできない) 人も少なくないそうである。(
)



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第167夜「好きやねん、大阪弁 (上)」

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