せつちゃんのこと     池 田 守 男

一昨年9月の連休の事だった。
Zさんと私とせつちゃんの3人で開田高原から木曾御岳へ1泊2日の予定で出かけた。
私はトレーニング不足のため初日からあごを出しながら歩いた。
開田高原ではこんなキャンプサイドで二、三日のんびりしたいねなどと話し合う。
池のそばの小屋は入口があけられ、入口の天水桶には水がたまっていた。
せつちゃんに食事の仕度をしてもらい、その間に我々は室内の整理やシュラフの用意をする。9時消燈。

明けて23日朝、小雪を見る。初雪だ、初雪だとはしゃぎ、ところきらわずシャッターを切る。
御岳神社に向って進む。8時、3063米の頂上に立つ。神社の附近には一寸位の雪が積もっていた。
視界は雲にさえぎられ、まったくなにも見えない。がっかりして腰をおろす。時折、雲の切目に乗鞍が顔を出すのだが、結局一日中北アを眺めることが出来なかった。

うんざりするような段々を下りながら、せつちゃんは『此れから上高地へ廻つて見ましょーよ』 などといって、Zさんや私をなやませた。
私はふところがバンザイ、仕事や休暇の都合もあるし、どう考えても無理な相談だ。
もうばててしまって行けませんよ、というのが精一ばい。『そら向こうは夕焼けよ、明日はいゝ天気だわ』彼女は残念そうにいっていた。
今となっては、借金しても一緒に行って上げれば良かったと悔やんでいる。

せつちゃんは本当に山を愛していたのだ。





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