苗 場 山 に て    樋 口 清 作


僕達の使命が悲しいものでなければ
この広い山頂で
ぼく達は思いきりうたを歌おうものに
森と池と水草の伝説をたかだかと語ろうものに

 変に暗い夕暮れは鳥も飛ばない
 彼方にただ霧が流れているだけである
霧がながれて
樅や光る無数の池を美しくしたとて何になろう
名も知れぬ水草の花が白いとて何になろう
(流れる霧の奥に
  その人の行方はわからない)

向うの台地の芝生には
楽しげに語り合う人のいるというのに
ぼくたちは疲れて休んでいる
あゝ ほんとうに
僕達の使命が悲しいものでなければ
思いきり楽しいうたを歌おうものに




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