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  薬剤ニュース  HS病院薬剤部 発行 毎月1日、15日発行

抗生物質の皮内テストは、指定の液で

昭和62年6月15日号 No.1 (創刊号)

 ある病院で皮内テストをしたところ、特定の病棟だけ、あるいは特定のドクターに限り連続して、陽性になったとの報告がありました。

 調べてみたところ、テスト液を生食で溶解すべきところをすべて注射用蒸留水で溶解していたためであったことが分かりました。

 このように指定されていた溶解液で使用しないと、浸透圧が低くなり、皮内注射時に痛みと発赤あるいは膨疹ができます、これを陽性反応と見誤ってしまうのです、

 必ず、添付の溶解液を用いて皮内テストすることが肝心です。

*生食で溶解すべき抗生物質〜セファメジン、ヤマテタン、トミポラン、スルペラゾン等

*注射用蒸留水で溶解すべき抗生物質〜モダシン、ハロスポア等


皮内テスト液の無いときは

昭和62年7月1日号 No.2

例)結晶ペニシリンGカリウム

1V(100万E)を生食2mlに溶解し、その0.1mLを生食で100mLに希釈

テスト法:上記調整テスト液を0.02mlを皮内に注射、又、対照として生食0.02mlをテスト液注射部位から十分離れた位置に皮内注射する。


プリックテスト

アレルギー検査法のうちの皮内反応法の1つ。

皮内反応法に火は、被検液を皮内注射する方法(皮内法)、皮表に滴下し皮膚を傷つける方法(スクラッチテスト)、単刺する方法(プリックテスト)があります。

一般的なプリックテスト

 通常、前腕屈側の皮膚をアルコール綿で清拭し、乾燥後被検液1滴を滴下し、その液を通して注射針でわずかに血のにじむ程度に刺します。1〜2分後あるいは反応が出現したら、脱脂綿を軽くあて、液滴を吸い取ります。15分内外で反応の強さ、発赤膨疹の長短径を測定して判定します。

 判定は、単に対照液(生食など)と明瞭な差の見られるときを陽性とするか、発赤15mm、膨疹7mm以上を陽性とします。

 この方法は簡便であるほか、皮内法に比し反応の感度は劣りますが、テスト自体でショックなどの全身反応をおこす危険性はほとんどありません。


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抗生物質の皮内反応は必要か

2004年2月15日号 No.377

 現在、βラクタム系薬剤を中心に皮内反応試験の実施が推奨されていますが、その有用性に関して否定的な意見も多く、画一的な皮内反応の実施よりも的確な問診がより重要で、あるいは実際に副作用に備えて万全な対策の実施がより効果的であるとの指摘もあります。

 皮内反応試験によって、薬剤に再感作される可能性もあり、実際に皮内反応そのものによるアナフィラキシーショックの発現の報告もなされています。

<皮内反応試験を見なおす背景>

 昭和30年代に多発した「ペニシリンショック」は、その原因が不純物(特に重合体)にあったとする推測が主流です。当時ペニシリン製剤は純度の最も高い物でも75%程度で、多くの不純物を含んでいたと考えられています。これに対して、近年のペニシリンGカリウムの純度は99%以上に達しています。

 現在のペニシリン製剤や抗菌薬でのアナフィラキシーショックの発生頻度は他の薬剤と比較して著しく高いものではなく、特別に皮内反応試験を施行する意義は少なくなってきています。

 また、皮内反応陰性例にもアナフィラキシーショックの発現が少なからず発生している現状から偽陰性例も少なからず存在することが示唆されています。

 米国では、抗菌薬の皮内反応試験は、その種類に関わらず一般的に実施されていません。ペニシリン治療を必要とする患者で、過去にペニシリンアレルギーの既往の患者に対しては事前に皮内反応を実施し、陰性であればペニシリンを慎重に行うよう推奨しています。

 さらに皮膚反応試験を実施する際には、まずアナフィラキシーショックの危険性が低いプリックテストを実施し、陰性を確認した後に皮内テストを実施すること、アナフィラキシーショックの既往患者や喘息患者などアナフィラキシーショック発現のハイリスク患者に対しては低濃度の試験液から実施することなどの注意喚起がなされています。

* 皮内反応試験を施行しない抗菌薬のアナフィラキシーショックの発生頻度、抗菌薬に伴うアナフィラキシーショックの発現は薬剤の種類に関わらず、10万例中2例(0.002%)前後です。これに対して、皮内反応試験の陽性率を新規抗菌薬開発時の臨床試験の成績からみると、セフェム系408例中2例(0.48%)、カルバペネム系1,085例中1例(0.009%)、ニューキノロン系517例中45例(8.7%)と極めて高くなっています。こうした偽陽性例では、患者は本来使用可能である適切な抗菌薬の恩恵に浴する機会を失ってしまっています。

 以上のようなことや臨床現場での医師の意識調査を勘案して、現在の抗菌薬皮内反応試験については日本化学療法学会では以下の提言が出されています。

「アナフィラキシーの予知に用いられている注射用のペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、キノロン系、ペプチド系抗菌薬の皮内反応は可及的速やかに中止されることを提言する。ただし、極めて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内開始20〜30分間の患者の観察とショック発現時に対する対処の備えをしておくことが必要である。」

{参考文献}ファルマシア 2004.2
      日本化学療法学会 皮内反応検討特別部会 委員長 斎藤 厚et al

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※ 皮内反応用テスト液の問題点

・ 過去におけるβラクタム系注射剤の皮内反応は,注射用製剤に含有さ
 れていた不純物に起因するアレルギー反応を予知するためのものあっ
 た。ペニシリンショックが頻発した製剤は解明され,既に製造は中止され
 ている。現在の製剤は極めて不純物が少ない。

・ 現在臨床現場に供給されている皮内反応用バイアルには,製剤とは異
 なるロットの薬剤が充填されており,製剤に含有する添加物も添加されて
 いない場合が多い。

・ 現行の皮内反応では用量−反応が未だ確立していない。


医学・薬学用語解説(ろ)


  ロイヤル(ローヤル)ゼリーとTh1/Th2バランスは
こちらです。


<用語辞典>

ショック


<症状>

呼吸困難、全身潮紅、血管浮腫、不快感、口内異常感、喘鳴、便意、耳鳴り等

初期症状:口内異常感、掻痒感、全身特に顔面や上半身の紅斑・熱感、くしゃみ、しびれ感、悪心、嘔吐、尿意、便意、喘鳴など

進行症状:血圧低下、チアノーゼ、眼前暗黒感、痙攣、気道浮腫、呼吸困難 重症時:循環虚脱、呼吸停止

<患者さんへの情報>
顔が赤く熱くなる、皮膚がかゆい、蕁麻疹が出る、くちびるや舌・手足がしびれる、くしゃみ・咳が出る、気分が悪い、心臓がドキドキする、尿意や便意を感じる、のどがつまる、息が苦しい、目の前が暗くなる

<機序>
1)アナフィラキシーショック:?型アレルギー反応であり、ある薬による事前の感作があることが前提となります。

 ある薬(抗原)に対してIgE抗体が作られた後に、再度これ(抗原)に暴露すると、抗原と組織の肥満細胞や血中の好塩基球の膜受容体に結合している特異的IgE抗体との間で、即時型の抗原抗体反応(?型アレルギー)を生じ、その結果、肥満細胞や好塩基球が活性化され、各種化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子:PAFなど)が放出され、血管拡張、血管透過性亢進、喘息様症状、気管支や腸管の攣縮などの全身反応を引き起こします。

2)アナフィラキシー様ショック

 アナフィラキシーショックと全く同じ症状を呈しますが、その成因が特異的IgE抗体の関与する?型アレルギー反応によらないものをいい、ある薬の初回与薬でも起こり得ます。

 補体を活性化し、この過程で生成されるアナフィラトキシンが肥満細胞からの化学伝達物質遊離作用を示したり、薬が直接肥満細胞や好塩基球を刺激し、化学伝達物質を遊離したり、さらにはシクロオキシゲナーゼを阻害し、ロイコトリエンを生成することによるものと考えられます。

 酸性のNSAIDsによるショックや、ヨード造影剤やデキストラン製剤によるものなどがあります。

 1)、2)とも臨床症状からはほとんど区別がつかず、IgEの証明や補体の測定などによって初めて明らかとなります。

<ポイント>

 原因物質となる薬に暴露してから発症までの時間は、主に吸収に要する時間に依存し、静注なら1〜2分で発症し得ますが、内服なら数10分異常を要することもあります。原則として症状の発現が早い場合は重篤で、遅い場合には軽い傾向にありますが、症状は進行性なことも多くみられます。

 症状の進行は急速で、発症後15分間の治療(気道確保、呼吸管理、抗ショック治療)が予後を左右します。アナフィラキシーショックの全過程は2時間以内のことが多く、この間に軽快するか二次的臓器障害(肺水腫、急性腎不全)に移行するか、死亡します(死亡率は5%程度)。

 血圧低下は極めて迅速に起こることが多く、これに伴う循環虚脱と、気管支痙攣・咽頭浮腫による呼吸困難は致命的症状です。

 なお、回復後も24時間は経過を観察する必要があります。

 ショックは、発生頻度は低いのですが初期症状(上記参照)が突然出現し、ひとたび発生するや病状の進行は数分単位といった急速なもので、適切な処置が遅れれば短時間のうちに高度のチアノーゼや循環虚脱、窒息による呼吸停止、昏睡により死に至る緊急事態であることを知らせます。

 しかし、逆に早急に適切な治療を行えば予後は良好な場合が多いため、初期症状を見逃すこと無く、直ちに受診するように指導します。患者・家族には落ち着いて対応することの重要性を併せて説明します。

 また、アレルギー体質の場合にも注意が必要で、特に、以前に薬でアレルギーや過敏症(蕁麻疹など)を起こしたことのある患者では、その薬を再度服用するとショックを発症する可能性が高いため、薬効的あるいは構造的に類似した薬も含めて再度処方されることが無いように、必ず医師や薬剤師にアレルギーなどを起こしたことのある薬の名称を伝えるように指導します。

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薬物ショック

(ボルタレンの添付文書より)

 薬物ショックとは、薬物の投与後短時間内に発生する循環不全(血圧降下)に伴う臓器組織の低酸素状態とされており、

1.IgE抗体を介する抗原抗体反応によって生じる即時型アナフィラキシーショックと、
2.薬剤の持つ固有の作用(解熱等)が強く発現した結果生じるショックとがある。

 ボルタレンは解熱作用を有しており、警告で注意を喚起しているのは、2.のショックです。

 ボルタレンを幼児、小児、高齢者、消耗性疾患(癌や慢性感染性疾患のように全身の強い消耗を伴う慢性疾患)の患者に使用した場合、幼児、小児は体温調節中枢が未熟であり、また高齢者、消耗性疾患の患者は、恒常性維持能が低下していることから、結果的に過量投与の状態となることがあり、過度の体温下降、血圧低下によるショック症状発現の可能性があります。

 これらの患者では可能な限り少量から開始し、患者の状態に十分注意することが必要です。

<症状>

 通常、投与後30分から数時間の間に、四肢冷感、嘔吐、顔面蒼白、虚脱、意識混濁、呼吸困難
チアノーゼ、尿量減少等、過度の体温下降、血圧低下、急性循環不全

<処置>

 酸素吸入や低体温に対して保温(電気毛布等)を行い、必要に応じて、輸液、カテコールアミン、ドパミン等

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