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H2ブロッカーによる精神神経系障害

1998年9月15日号 No.253

 ヒスタミンH2受容体拮抗剤(H2ブロッカー)は、ヒスタミンH1受容体拮抗剤(抗ヒスタミン剤)に比べて、中枢への移行はわずかであり、中枢性の副作用は少なく安全性の高い薬です。しかし、共通の副作用として頭痛、眠気、不眠などといった軽度の副作用が起こる事が知られています
また、タガメット、ザンタック、ガスターでは精神錯乱、意識障害、痙攣、無呼吸など重篤な副作用も起こる事が知られています。

 H2ブロッカーによる重篤な中枢性副作用は睡眠障害、昏睡、幻視、幻聴、見当識障害、全身振戦、幻覚、夢遊病状態、めまい、眠気、譫妄
興奮、苦悶、不眠、好戦的、頭痛などの症状を伴うことが報告されており、ありとあらゆる精神症状が出現すると考えられています。

 精神錯乱や意識障害などの重篤な副作用が出現する際には、ほとんどの症例で、頭痛や眠気、全身倦怠感などの軽度の副作用がみられます。特に痙攣を呈した症例ではいずれも精神錯乱や幻覚などの症状があらわれ、それでも使用を継続した場合に筋痙縮を起こし、痙攣発作や無呼吸に至ります。

 しかし、中枢性の副作用は可逆的であり大部分の場合はH2ブロッカーの中止により、数時間から長くて3日以内には使用前の精神状態に戻ります。

[対処法]

 頭痛や眠気などがみられたら、減量あるいは中止。幻覚、幻視、精神錯乱、痙攣などが出現した場合には、直ちに中止し継続しないこと。
一過性の幻覚や見当識障害ではセレネースの筋注で効果が認められた症例もあります。痙攣に対しては、ジアゼパムやフェニトインなどが用いられますが、通常治療に用いられる抗てんかん剤では改善されず、ラボナの静注で改善した報告もあります。

[発症機序]

 H2ブロッカーは脳内には移行しにくいと考えられていましたが、タガメットでは髄液中に血液中の約1/4の濃度が存在する事が明らかになっています。また精神症状を呈した症例では腎機能障害と肝機能障害を合併しており、正常群に比べて有意に上昇していました。

 このため、クリアランスが低下するような疾病が存在すると血中濃度が上昇し脳内に大量に移行し精神神経系症状を発現するものと考えられています。このようにタガメットによる精神神経系障害は中毒性のものであり、そのH2遮断作用によるものと考えられています。

 タガメットでは脳内濃度と血中濃度が比較的よく検討されていますが、他剤では十分に検討されていません。ザンタック、ガスターは報告数が少なく、精神神経系障害を呈した患者の脳髄液中薬物濃度を測定した例がありません。また、アシノンではこれまで精神錯乱や痙攣の報告は見当たりません。

 中枢作用の機序はまだ明らかになってはおらず、上記に示した機序だけでは証明する事の出来ない精神神経系障害を呈した症例も報告されており、今後更に症例の積み重ねが必要です。

{参考文献}JJSHP 1998.9

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H2ブロッカーによる中枢神経障害の危険因子

1.大量与薬
2.高齢
3.腎機能障害
4.肝機能障害
5.その他の疾病の合併
6.中枢性H2受容体遮断作用のある薬剤との併用

H2ブロッカーは体内動態が複雑なため、低用量から開始する事が勧められています。


精神依存は起こらない?!!

モルヒネ(6)       関連項目 μ受容体とκ受容体

 薬物依存には精神依存と身体依存の2つがあります。
精神依存とはある薬物の摂取により快感を得るため、または不快感を除くためにその薬物を衝動的に求める状態です。身体依存は先週少し触れましたが、薬物摂取の中断により激しい身体症状(禁断症状:不安、不眠、振戦など)が出現する状態の事です。

 モルヒネは、アヘンといった昔から薬物乱用の代表のようにいわれていますから、当然身体依存は無論のこと
精神依存も当然あると思っていたのですが、癌疼痛の場合には、長期間モルヒネを使用しても、薬物乱用の場合とは異なり、精神依存は起こらない事が分かってきました。

 オピオイド受容体には、μ:ミュー、κ:カッパ、σ:シグマ、δ:デルタだという事はこのシリーズの2回目で述べました。モルヒネはμとσ受容体のアゴニスト(刺激剤)です。そしてκ受容体のアゴニストはモルヒネのようなμ受容体のアゴニストの副作用や精神的依存などを抑制するように働いています。

 ところで、内因性リガンドという言葉を覚えておられるでしょうか。かつてこのコーナーでレセプターを考えるシリーズやベンゾジアゼピンレセプターなどで筆者が好んで取り上げていたテーマです。
繰り返しますと、モルヒネとかベンゾジアゼピンというのは、人間の体内に無いものです。外部から意図的に取り入れない限り体内には存在しません。そんなもののレセプターが体内に存在するということは、モルヒネなりベンゾジアゼピンに似た物質が元から人間の体内に存在する筈なのです。それが内因性リガンドです。

 モルヒネの場合、エンケファリンとダイノルフィンという体にある物質がモルヒネの内因性リガンドであるとされています。

 痛みがある時にはダイノルフィンの量が増えるという報告があります。それによりκ神経系が活性化され、モルヒネを与薬しても精神的依存は起きないというだいたいの機構が分かってきました。

 身体的依存でも疼痛下では、普通の状態よりも身体的依存の程度が弱い。これもκオピオイド受容体が関係しているため、ダイノルフィンが身体的依存を抑えるという報告があります。

 身体的依存と耐性の2つは、薬を長い間使っていれば個体のノーマルレスポンスとして起こることです。しかし、対応法が用意されているから問題にはなりません。精神的依存の方は起こらないから心配いりません。
         関連項目 
μ受容体とκ受容体


<医学・薬学用語辞典>

変性アルコール

 エタノールにメタノールやアセトンなどを加えて飲用不能にしたアルコール(消毒用)

 外用薬の成分として「政府所定のメタノール変性アルコール」と「政府所定のベンゾール変性アルコール」の2品目の使用が認められています。

政府所定メタノール変性アルコール
 アルコール 200L
 (日局エタノール)
 メタノール 5Kg
 (JISメタノール)

 政府所定メタノール変性アルコールにイソプロピルアルコールを配合した消毒剤は、誤用防止のために医薬品用タール色素で着色することが義務付けられています。また、イソプロピルアルコールの量は、18W/V%以上と胃呈されています。

*メタノール、ベンゾール以外にも他の工業用として使用可能な変性剤が指定されています。(トルオール、メチルエチルケトンなど)

*エタプラス(消毒用エタプラス)〜エタノールにイソプロパノール、グリセリンを添加したもの。

 消毒用エタノールと同量のエタノールを含有し、殺菌力、安全性は消毒用エタノールとほぼ同等。価格は消毒用エタノールの約1/2 (健栄製薬)

医薬ニュース Vol.11 N0.17 2002 東邦薬品KK 共創未来グループ



術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)〜フリバス錠の副作用として

IFIS:intraoperative floppy iris syndrome

 α1遮断薬を服用中または過去に服用経験のある患者で、α1遮断作用と考えられるIFISの発現を示唆する報告があります。
 IFISとは、白内障等の眼科手術時にみられる合併症(虹彩の異変)で、

1)術中の洗浄液流による虹彩のうねり、2)虹彩の脱出・嵌頓、3)進行性の縮瞳を三徴とします。

<<白内障等の眼科手術を受けられる患者への対応>>

 フリバス錠を服用中の患者さんが白内障等の眼科手術を受けられる際には、手術前に、眼科医へ本剤を服用している旨を伝えるようにして下さい。
 事前にIFISが起きることを予測し、術中に適切な処置を行うことにより、手術時のリスクを回避できると考えられます。
 なお、α1遮断薬の術前の休薬によるIFIS発現への影響については、明らかではありません。
 発現機序は明確ではありませんが、瞳孔散大筋にα1遮断薬が作用することによりIFISが発現する可能性があるとの報告があります。

   出典:旭化成ファーマ資料

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