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1998年5月15日号 245

シベノールによる低血糖

  シベノールは、ジソピラミド(リスモダンR)と同様の電気生理学的作用を有する抗不整脈であり、Ta群に分類されます。しかし構造はジソピラミドと異なっていて、抗コリン作用などの副作用が少ない特徴を有しています。

 リスモダンの副作用として低血糖はよく知られているが、シベノールによる低血糖に関する報告はあまりありません。しかし、最近、当院でもシベノールによると思われる低血糖があらわれています。

{参考文献} 藤沢薬品資料 心臓Vol.22 No.9.1990

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 シベノールはNaチャンネルを抑制することで抗不整脈作用を発揮しますが、Naチャンネルだけでなく、CaチャンネルとKチャンネルの抑制作用も持っています。

 Kチャンネルには細胞内から常時K+を排出して、静止電位を維持する働きがあります。Kチャンネルには現在いろいろなタイプのものが見つけられていますが、最近、シベノールには、細胞内ATP感受性Kチャンネル(KATP)に抑制作用があることが明らかにされました。

 このKATPは心筋梗塞など、心筋細胞が虚血状態になった時活性化され、心筋の活動電位の持続時間を短縮する働きをします。活動電位を短くすることでCaの流入を抑え、心筋虚血によるATPの消費を極力抑えようとする反応を心臓の自己防衛といいます。

 シベノールはこのKATPを抑制して心筋虚血時での活動電位の持続時間(APD)の短縮を抑える作用を持っています。

 このことは臨床上、心筋梗塞時に心筋の収縮力が落ち循環動態の悪化を少しでも防ぐ作用が期待できるかも知れません。(臨床データはありません)

 このように心筋に対してKATPを抑制することはある点ではよい結果が期待できます。しかしこのKATPは、心筋細胞だけでなくインスリンを分泌している膵臓のB細胞にもあります。

 食事などで血糖値が上がると膵臓のKATPが閉じることによりインスリンが放出されます。食事などで血糖値が上昇し細胞内に取り込まれブドウ糖が代謝されてできるATPが増加すると、このKATPチャンネルは閉じます。その結果、B細胞は静止電位が維持できなくなり脱分極する結果、Caチャンネルが開き、細胞内にCaが流入し細胞内Ca濃度の上昇に伴ってインスリンが分泌されます。

 シベノールは、このB細胞のKATPに対してATPを介さず直接閉じる作用を持つため、血糖値が上昇した時と同様インスリン分泌を促し、血糖値が下がるのです。

 シベノールの血糖降下がインスリン分泌促進作用によることは臨床的にも認められています。この作用は通常の血中濃度では起こりにくいと考えられますが、血中濃度との関係の検討データもないことから、血糖値の推移には十分な注意が必要と考えられます。


抗不整脈剤T群

心筋Naチャンネルを遮断(Na電流を抑制)〜局所麻酔薬と作用機序は同じ

1a〜活動電位の持続時間(APD)を延長 上室性、心室性
キニジン、アミサリン、リスモダンR、シベノール

1b〜APDを短縮:心室性

メキシチール、リドカイン、エスモジン、フェニトイン

1c〜APDに影響を及ぼさない。上室性、心室性
タンボコール、プロノン


テロメア

1998年5月15日号 245


シリーズ癌治療を考えるG      

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<医学事典>


経口胆汁酸溶解療法

  出典:医薬ジャーナル 1998.6

 ウルソ錠(ウルソデスオキシコール酸)による経口胆汁酸溶解療法は、副作用がほとんどみられず、最も温和な胆石除去方です。この治療を成功させるためには、溶解可能な胆石の選別と服薬コンプライアンスの維持の2点がポイントとなります。

 経口胆汁酸溶解療法の適応胆石はコレステロール石で、かつ石灰化してないことが条件となります。胆石石灰化の診断はCTと超音波で行います。

 経口胆汁酸溶解療法は、胆石の大きさ・数(体積)などにより、数年にわたる服用が必要となります。

 ウルソ錠600mgを1日1回寝る前が推奨されます。

 胆石の成長はコレステロール飽和度の高まる夜間にみられ、この時間帯に合わせて服用することで、コレステロール飽和指数を下げることができると思われます。

 径5o前後の浮遊胆石(胆嚢造影立位撮影で胆嚢中空に層状に浮遊する胆石)では3〜6ヶ月、10o以下では平均7ヶ月、10〜20oでは平均15ヶ月で完全ないし部分溶解がみられる予想されます。

 胆汁溶解療法やESWL(下記)は胆嚢温存療法であるため、胆石の再発は免がれません。
再発胆石の大多数は胆石発作を認めず、ウルソ錠を再び服用することで再消失が見られています。


<胆石症>

 胆石症は本来良性疾患で、胆石による疝痛発作を有する場合に限り、治療対症療法となるのが基本です。無症状に経過する胆石(胆嚢胆石の6割以上に見られ、silent stoneと呼ばれます。)は原則として治療対症療法とはなりません。

 胆石症の治療には胆石だけを除去する内科的治療(胆嚢温存療法)と胆嚢を切除して胆石を除去する外科的治療に大別されます。内科的治療は、経口胆汁酸溶解療法と体外衝撃波胆石破壊法(ESWL:extracorporeal shock-wave lithotripsy)とが一般的です。外科的治療は胆嚢摘出術が行われ、最近では腹腔鏡下胆嚢摘出術が広く行われています。

 コレステロール石の形成の基本は、肝臓から胆汁中へコレステロールが過剰に分泌されて、コレステロール過飽和胆汁が生じることにあります。つまり、コレステロールを溶解する胆汁酸やリン脂質の持つミセル溶存能を越えた越えたコレステロール過飽和胆汁です。

 胆嚢内に入ったこの胆汁からコレステロールの結晶析出化が起こり、これに胆嚢粘膜から分泌されるムチンや胆嚢収縮能の不全状態などが加わり、コレステロール胆石の形成・成長が生ずると考えられています。

 従って、胆汁酸を服用して胆汁中の胆汁酸濃度をコレステロール溶存能の強い胆汁酸に返ることにより、コレステロール石を溶解できると考えられます。

 胆汁酸による胆石溶解は、ミセル溶解と液晶溶解の2つの機序が考えられています。


* 経口胆汁酸溶解療法は、ESWLでは難渋する多数個(2個以上)の非石灰化コレステロール胆石の治療にその特徴が発揮されます。

 多数個のコレステロール胆石は混合石で、その割面構造は放射と層の組み合わせからなります。この構造の石に衝撃波を照射すると、胆石は粉状より粒状に破砕されます。放射状構造を持つ純コレステロール石は粉状に破砕され易くなっています。

 溶解療法とESWLとの間に消失率の差はありませんが、ESWLの欠点として、粒状に粉砕された胆石片が胆嚢から胆嚢管を通って胆管に出、Oddi括約筋を通過して十二指腸へ出る際に約75%の患者は胆石疝痛に悩まされることになります。

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