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1998年2月15日号 239

患者への情報提供を考える(2)

   平成8年の薬事法・薬剤師法の改正に伴い、昨年の4月より、薬剤師による患者等への調剤した薬剤の適正な使用に関する情報提供努力義務が導入されました。

 具体的には「口頭または文書のいずれかによっても良いが、調剤した薬剤の適正な使用のために、薬剤師としての専門的な、薬剤の名称、保管上・服用上の注意事項、効能効果、副作用等について個々のケースに応じ必要な情報を判断し、それらを適切に患者等に提供するものであること。」とされています。
患者に薬の副作用を伝えるだけでは、恐怖感をあおり、適切な薬物療法を阻害する可能性があります。これは患者の体調に悪影響を及ぼすだけでなく、医師への信頼を裏切ることにもなりかねません。

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(副作用の早期発見)

 患者に対する情報提供が適正使用に有益なものとするには副作用発現を未然に防ぐ、あるいは副作用が発現したらそれを直ちに発見し症状の進行を防ぐことが求められています。このことから、主な副作用の初期症状を患者に伝えておくことが一つのポイントであるといえます。

(患者が忘れない工夫)

 薬の添付文書には、多くの副作用が挙げてありますので、口頭で情報提供するだけでは、患者が家に帰ってから大事な情報を忘れてしまう可能性が十分あります。そこで、なんらかの情報文書を手渡すこと等が有効と考えられ当薬剤部でも、4月から、文書による情報提供を目指して準備中です。

 本年4月から、全患者を対象に配布する文書には、何の薬かの簡単な説明、相互作用(飲みあわせ)、副作用などを記載する予定です。

(副作用の表現)

 患者が自覚できる症状を「できるだけ平易に・具体的に」という趣旨で、表現を考えています。

・うっ血性心不全:体がむくんで息苦しい。
・消化性潰瘍:便が黒くなる、おなかが激しく痛む
・過敏症:発疹など皮膚に症状が現れる。
・偽膜性大腸炎:血の混じった激しい下痢、頻回の下痢
・血小板減少症:出血すると血が止まりにくい。
・歯肉肥厚:歯ぐきがはれる。
・GOT・GPTの上昇:疲れやすくだるい。
・女性化乳房:男性で乳房が張る。
・急性腎不全、腎機能障害:尿が急に出にくくなる。
・皮膚粘膜眼症候群:皮膚や口の中がただれて眼が赤くなる。
・不整脈:脈がとぶ。
・末梢神経炎:手足のしびれや痛みがある。
・中毒性表皮壊死症:皮膚に発疹や水ぶくれがあらわれる。

*『患者への情報提供を考える@』は223号に掲載しました。

◎患者が不安がらない工夫

・副作用は、必ずしも現れるものではない。

・発現頻度は意外と低い。

・個人差がある。

などを説明して、必要以上に心配することのないようにする。


微小管とは シリーズ癌治療を考えるA

      は こちらをご覧下さい。


<<医学・薬学用語辞典>>
SSI
surgical site infection
術創感染予防の抗生物質選択のエビデンス

   出典:医薬ジャーナル 2000.11

* 広域スペクトルではなく、標的とする菌に対して狭域スペクトルの薬剤を選択する。

・創傷感染を起こす最も一般的な病原菌に対して抗菌活性を持つ薬剤を選択する。
 (CDC:米国防疫センター、オーストラリアガイドライン)

・過度な広域抗菌スペクトルを持つ薬剤を使用しても、有効性の増加はなく、耐性菌出現の危険が増加

・整形外科領域で最も一般的な起炎菌は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌です。

・セファゾリン(CEZ:セファメジン)が推奨されています。(The Medical Letter 41,75-80 1999)

・清潔・準清潔手術では第一世代セフェムを選択(今日の治療指針1999)

<SSI予防抗生物質の使用期間のエビデンス>

 原則として術当日のみで、術後は使用しません。(海外では非常に短い)

CDCガイドライン

・術中適切な濃度を維持し、術後は中止する。

・術中の追加を考慮するのは、1.手術時間が抗生物質の半減期を越える場合、2.術中大量出血がある場合、3.病的肥満のある患者 です。

・手術創からのドレーン挿入はSSIの危険性を増します。

・閉鎖式の吸引ドレーンがSSIを減少させます。


抗ウイルス剤の治療法

<<抗ヘルペス薬の開始タイミングからの分類>>

 HSV(単純ヘルペスウイルス):口唇ヘルペス、性器ヘルペス。体調、紫外線、ストレスなどにより、何度も再発することが特徴

 VZV:初感染で水痘を発症し、再活性化として帯状疱疹。帯状疱疹は、免疫不全や加齢により発症し、高齢者では帯状疱疹後神経痛で、長期に疼痛が持続する。

*発症時治療:episodic therapy
 
 現行のように、HSVによる病変が出現して、その診断が行われてから治療を行うという標準的治療法。HSV再発に対しては、治療開始のタイミングとしては遅いと考えられます。

*患者が開始する治療:patient initiated treatment

 あらかじめ抗ヘルペス薬を用意しておき、HSV再発の前駆症状の出現時から治療を開始し、病変の出現阻止、あるいは再発を軽症化する効果があります。

 Episodic therapyに比べ、前駆症状出現時から病変出現までの期間に抗ヘルペス薬を効かせることができるため、前駆症状がある場合には完全に抑えられる。または、軽症化できる。保険適用にはなっていませんが、数回分を予備に持っておき、違和感などの前駆症状出現時に内服を始め、医療機関を受診し、処方をもらうということでこの方法は可能と思われます。

*経験に基づく治療:empirical therapy

 骨髄移植後では、経験的にHSV発症が予測されるので、移植前から移植後35日間抗ヘルペス薬を用い、HSV感染症を抑える方法。非常に有効

*先行した治療:preemptive therapy

  臨床症状はないが、検査で感染が疑われた場合、その感染症の治療を開始する方法。
 (例)移植患者で、CMV(サイトメガロウイスル)抗原血症(末梢血にCMV抗原陽性の白血球が検出される)、またはCMV-DNA血症により、感染症が確認されたら、臨床症状が無くてもACV(ガンシクロビル)による治療を開始。

*抑制療法:suppressive therapy

 年間6回以上性器ヘルペスの再発がある場合、毎日ACVを服用して再発を抑制する療法。ウイルスの再活性化の勢いが強いときは、この抑制療法中にも再発します。その場合は、episodic therapy(上記)を開始します。

 この療法で身体的だけではなく、精神的な苦痛も軽減されます。現在保険適用の要望を行っています。

*曝露後予防:postexposure prophykaxis

 水痘感染の潜伏期後半に、体内での水痘の増殖を抑え、水痘の臨床症状の不顕性化、軽症化を図る方法。感染時期が明瞭で、ワクチンによる緊急接種ができなかった場合に、有効

 不顕性となった場合には、免疫の成立について、皮内反応か抗原上昇で確認する必要があります。感染したが発症が阻止された場合には、免疫が誘導されており、ワクチンによる免疫と同様に長期に持続すると考えられます。

   出典:医薬ジャーナル 2004.11

 

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