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1998年12月1日号 258

高カロリー輸液による真菌性眼内炎

   経中心静脈高カロリー輸液(IVH注参照)は、現在の医療に不可欠であり、難病であったものが在宅医療を行えるようになり、Quality of lifeを向上させることができました。しかしIVHにより真菌性眼内炎が増加し、油断すると失明することもあります。

 進行した場合でも硝子体手術という手段もありますが、IVHを使用する関係者は眼症状に常に注意を払う必要があります。

   IVHという用語は国際的には死後で、現在ではCVC:central venous catheterization,あるいはTPN:total parenteral nutritionと呼んでいます。

{参考文献}医薬ジャーナル 1998.11

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 <内因性真菌性眼内炎とは>

 外傷や手術などによって眼球に創ができ、そこから真菌が眼内に侵入し、眼内炎を起こすようなものを外因性真菌性眼内炎といいます。一方、眼球自体には創がなく、他臓器の病変や、カテーテルなどから真菌が眼球内へ移行し、眼内炎を起こすのを転移性または真菌性眼内炎といいます。

 真菌は血行性に眼球に到達するので、血管が豊富な脈絡膜や網膜で増殖し、硝子体へも播種し、全眼球炎となります。

 真菌は我々の周りにどこにでも存在していますが、健康人には普通感染しません。ところが医療の進歩により、免疫能が落ちた患者が増えておりいわゆるcompromised hostが増加し、病原性が弱い菌にも感染しやすい患者が増えています。

 真菌性眼内炎の危険因子として悪性腫瘍、抗生物質、放射線治療、免疫抑制剤、抗癌剤、消化管出血、皮膚粘膜の真菌、各種の手術、血液透析高カロリー輸液などがあります。この中でもIVHの増加が重要な鍵となっています。

 また在宅医療としてもIVHは行われ、旅行先でさえ交換が可能となり、清潔操作を心がけても真菌に感染することは避けられない状況となっています。

 報告では、IVH患者の2〜3%に発症すると推定されています。(8ヶ月連続200例で6例で発症、また発熱し抜去したIVHカテーテルの13.6%に真菌が証明されています。)

 真菌性眼内炎の起因菌として、カンジダが多く、次いでアスペルギルス、クリプトコックス、フサリウムなどが挙げられています。

 病状が悪化していると視力も障害されてきます他覚的にも外眼部は充血し、前房混濁、前房蓄膿、虹彩後癒着も出現してきます。硝子体混濁は強くなり、雪玉状となったり、網膜上や網膜内に白色浸出斑、出血も認められ、さらに進行すると網膜が剥離し、失明します。

<検査>

 真菌性眼内炎を疑えば、まずカテーテルの先端と動脈血を培養します。この初期検査は極めて重要であり、起因菌を同定すると同時に薬剤感受性検査を行い薬剤の選択に備えます。(これらはいずれも健康保険の適用になっています。

<治療>

 起因菌としてはカンジダがほとんどですので、培養結果が出る前に第1選択の薬剤としてジフルカンを用います。本剤は経口でも使用でき、簡便です。ジフルカンが無効な場合は、ほかの抗真菌剤を選択します。(ファンギゾン、アンコチル、フロリード、イトリゾール等)

 真菌性眼内炎は発病する前に発熱があり、その7〜10日後に「目の前にゴミが見える」症状が出現します。

 これは硝子体混濁による自覚症状であり、眼内の炎症を反映したものであり、真菌性眼内炎の初期症状である。その他に「霧がかかったように見える」とか「物がゆがんで見える」とういう訴えがあれば要注意です。

 この飛蚊症の時期に眼科的な検査を行い適切な薬剤を使用すると、ほとんどの症例が治癒します。


骨休めのススメ〜免疫学の誤り2
口呼吸は万病の元 4

 このシリーズは東京大学医学部口腔外科 講師 西原克成先生が「治療」1997.12〜1998.9に連載されていた文章を参考に再構成したものです。

 今の自己非自己の免疫学では、免疫病が迷宮入りとなります。免疫病とは、従来自己とされていた内在性のほとんど無害な細菌やウイルスを口呼吸などで大量に白血球がかかえて体内をめぐり、睡眠時間が短くて骨休めを怠ったために発症するほぼ人類に特有な疾患です。

 60兆個からなるヒトの個体は、約2ヶ月でほとんどがリモデリング(再構成)されますから、1日に1兆個の細胞ないしその構成成分がリモデリングされます。細胞も構成要素も、リモデリングはすべて局所細胞の遺伝子の発現で遂行されます。

 コピーミスによる変異が、少なく見積もっても百万回に1個生ずるとして、そのうち10万個に1個程度の腫瘍細胞(良性・悪性)ができると想定できます。健康な時には、この細胞を体中の白血球やリンパ球は総がかりで消化してしまいます。

 骨休めしないと白血球造血巣の健全なリモデリングと代謝が障害されます。つまり過労になれば、白血球・リンパ球の細胞レベルの消化力が衰えるのです。

  口呼吸と過労でまずやられるのが副腎と脳下垂体・胸腺などの鰓器とゆかりの深い器官です。それで副腎皮質ホルモンが欠乏して、白血球の消化力が衰えます。白血球はリンパ球その他多様の遊走細胞が集まって細菌や毒物を玉突きの連鎖反応のようにして消化します。

 過労と風邪が昔から万病の元とされましたが、癌も心臓病も脳血管障害も結局免疫病であり、口呼吸と骨休めの怠りの2つが重なった時に起こります。ホルモンが枯れて白血球消化力が衰えることによります。

 インフルエンザの盛んな時には、今やヒトは、一食抜いただけでも、また、寒さに数時間さらされただけでも、睡眠の不足だけでも容易に感染するほどに免疫系を外来の栄養や環境に依存しているのです。それほどの白血球の消化力が弱まっているということです。

 骨休めを怠ると副腎や脳下垂体が疲れてホルモンが十分に分泌されなくなります。1日の疲れを1日の骨休めで回復すれば、腫瘍の芽を摘むことが可能なのです。


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血管内カテーテル関連感染

CRBSI:catheter-related blood stream infection

Intravascular catheter-related infection

2003年10月15日号  No.370

 カテーテル関連血流感染(CRBSI)については、「高カロリー輸液施行中に発熱、白血球増多、核の左方移行、耐糖能の低下等、感染症を疑わしめる症状があって、中心静脈カテーテル抜去によって解熱、その他の臨床所見の改善を見た場合」という定義が一般的に用いられています。

 しかしこの定義ではカテーテル抜去による臨床症状の改善によってカテーテル敗血症を診断することになり、実際の臨床では様々な要因が加わって判断は容易ではありません。特に、予防対策の検討には客観的パラメーターである微生物学的診断基準を加える必要があります。

 米国疾病管理予防センター(CDC)では、カテーテルの定量的培養結果を加味した客観的基準を用いて以下のように感染形式を分類し、その臨床定義を例示しています。

* 局部的なカテーテル細菌定着

 カテーテルの先端、カテーテルの皮下部分、カテーテルハブからの微生物の著しい増殖

* 出口部感染

 随伴する血流感染や化膿のない、カテーテルの皮膚出口部から2cm以内に見られる紅斑または硬結

* 皮下トンネル感染

 皮下トンネル型カテーテルの皮膚出口部から2cm以上離れた皮下トンネルに沿って圧痛、紅斑、硬結がみられるが、血流感染は随伴しない。

* ポケット感染

 完全埋め込み型カテーテルの皮下ポケットに化膿性滲出液を認め、その上の皮膚には自然破裂や排膿または皮膚の壊死がみられたり、みられなかったりするが、血流感染は随伴しない。

* 注入剤関連血流感染

 注入液と血液培養から同一の病原体が増殖しているが、他に明らかな感染源は認められない。

* カテーテル関連血流感染

 血管内カテーテルが留置されている患者で、末梢血液培養が少なくとも1回は陽性で、臨床的な感染徴候(発熱、悪寒、低血圧等)が認められるものの、カテーテル以外には血流感染の原因となる明らかな感染巣が存在しない菌血症/真菌血症で以下のいずれかに該当するもの。

1.培養陽性で、カテーテル切片および末梢血 から同一病原体(種および抗菌剤感受性)が分離される。
2.中心静脈カテーテルと末梢血の同時定量的培養結果の比率が≧5:1である。
3.2時間以上間隔をあけた異なる時期の、中心静脈カテーテル培養と末梢血培養の結果がともに陽性である。

<防止対策>

1.手洗い、手の消毒の励行
2.高度バリアプレコーション〜 帽子、マスク、長袖の滅菌ガウン、滅菌手袋、大型の滅菌覆布を使用
3.カテーテル皮膚刺入部のドレッシング
4.輸液ラインの管理〜クローズドシステム

 患者の血管内にカテーテルを挿入した時点から輸液ライン全体を完全に一体化し、外界に開放されることなく常に回路が閉鎖した状態を保つ事が可能なシステムを採用する。

5.将来的には輸液の無菌管理を目指す。

{参考文献}  日本病院薬剤師会雑誌 2003.9 ファルマシア 2003.4


医学・薬学用語解説(や)

               薬疹と薬物代謝酵素 はこちらです。


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