HS病院薬剤部発行     

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薬剤ニュース 

  1995年

1月15日

NO.168

 

    インデラルと悪夢

               

  ****プロプラノロ−ルによるCNS障害**** 

 

 インデラルは、親油性薬剤であり、脳−血液関門(BBB)を通過しやすいという特徴があります。このことはCNS(Central-Nervous-System:中枢神経系)障害をきたす可能性の高いことを意味し、臨床応用開始当初から抑うつ、不眠、悪夢などが主として欧米を中心に報告されていました。

{参考文献}薬局 12 J.Pr.Ph.,Vol.45 No.12 1994

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{実例}

 夢の内容〜辛いことを体験する。死んだ人が輪になって話しかけてくる。恐ろしい魔物が襲ってくる。死ぬほど働かされる。見知らぬ山間部をただ一人歩いている。

 幻 聴 〜お母さ〜んと呼ぶ声、戸を叩く音、鐘の音など死に関連した音

 悪夢を見る人にとっては、恐い夢を見るたびに、その都度、大声をあげ、家族や友人を起こしてしまう。

 こんな調子では恥ずかしくて旅行にも行けないなど 深刻な状態にあり、疲弊し誰にも相談出来ずに悩んでいる人も多いとの調査報告があります。

 「悪夢」を含むCNS障害の発生機序については、アルコ−ル症患者がアルコ−ル離脱期に示す臨床症状に極めて類似している点が注目されています。いわゆるREMリバウンドと呼ばれる現象で、入眠時のうとうとしたREM睡眠期に、恐ろしい不安感を伴った悪夢がよく起こるとされています。しかしインデラルでは、比較的起床時前後の時間帯に悪夢を見るとのされ ています。

 「幻聴」については、精神分裂病患者のものとは違い自我違和的でなく、雪ダルマ式に拡大していく傾向はないようです。

 昨年の5月より、インデラルの添付文書に「悪夢」の記載がされており、とりわけ高齢者で服用期間が長い場合にはCNS障害が起きている可能性があることに留意する必要があります。

 患者自身が悪夢は薬の副作用であるとの認識の無い場合が多いと考えられますので、長期にインデラルを服用している患者には注意深く問診を行うことが必須となります。悪夢が薬の副作用と分かった時点で、「原因が分かり今までの重みがとれた」、「夢を見ても苦にならなくなった」など説明後では大きな変化が認められています。

 他のβ遮断剤ではこのようなCNS障害は起きておらず、他のβ遮断剤に変更すると「悪夢」ならびに「幻聴」は消失します。


医学用語辞典>

Cofactor病

コファクター(コアクチベーター、コリプレッサー)

 アンドロゲン受容体(AR)をはじめとするステロイドホルモン受容体は、リガンド依存性に標的遺伝子の転写制御を行う転写調節因子です。

 転写調節因子の異常による標的遺伝子の転写活性化異常が起こり、生理作用の異常を来す疾患に対して、転写調節遺伝子病という疾患概念が確立されました。

 転写調節因子から基本転写装置へのシグナル伝達の障害である可能性が考えられ、両者の間に介在する転写共役因子(コファクター)の異常の可能性が推察されています。

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 コファクターには、転写を活性化するコアクチベーターと抑制するコリプレッサーの存在が知られています。

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 ARには異常を認めないアンドロゲン不応症患者で、ARの転写活性化に不可欠な未知のコアクチベーターの異常が原因であることが明らかにされており、他にもコファクター病として確立しているのは、Rubinstein-Taybi症候群があります。

 その他、乳癌、子宮癌、前立腺などのホルモン依存性腫瘍組織で、コファクターの発現の程度やリン酸化が腫瘍の増殖や病態と密接に関係するとの報告や白血病の発症機構でコリプレッサーの関与が関する知見等が集積されつつあり、今後、種々の病態でコファクターの重要性が明らかになってくるものと思われます。

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Rubinstein-Taybi症候群

 低身長、趾(あしゆび)、頭蓋・顔面奇形、心奇形、精神遅滞などを呈する常染色体優性遺伝子形式を示す疾患として報告され、その原因遺伝子がCBP:CREB-binding proteinであることが報告されています。

          出典:日本内科学会雑誌 2003.2 


簡易懸濁法   http://www.sufrh.com

     出典:薬事 2006.1  昭和大学藤が丘リハビリテーション病院
                   薬局長 倉田 なおみ 


 簡易懸濁法とは、錠剤粉砕やカプセルを開封ぜずに、錠剤・カプセル剤をそのまま温湯に崩壊懸濁させて経管投与する方法です。

 1回に服用する薬品全部を約55℃のお湯に入れて最長10分間自然冷却します。
10分間お湯に入れても崩壊しない錠剤の場合には、乳棒で錠剤を軽くたたくなどしてコーティングを破壊して崩壊懸濁させます。

<メリット>
1.粉砕調剤時問題点の解決
2.経管チューブ閉塞の回避
3.配合変化の危険性の減少
  ・粉砕法:粉砕して混合した後、服用日までの期間で配合変化の危険性
  ・簡易懸濁法;水に入れる10分間のみ
4.投与可能薬品の増加
  ・錠剤・カプセル剤全756薬品中
      粉砕法:542薬品(71%)
      簡易懸濁法:631薬品(83%)
   〜粉砕法で投与できない細胞毒性を有する24薬品が投与可能に!
5.投与時に再確認できる。→リスクの回避
6.中止・変更の対応が容易→経済的ロスの削減
7.細いチューブが使用可能や患者のQOLの向上

    詳細は こちら→ http://www.sufrh.com 


<医薬トピックス>

SSRIの抗うつ作用が痛み止めで減弱

 サイトカイン類は、免疫機能を調節する以外に、中枢神経機能に影響を与えることが知られています。
例えば、インターフェロン(IFN)は、抑うつ状態を引き起こします。

 p11と呼ばれる蛋白質は、SSRIにより発現が増加することや、うつ病モデル動物やうつ病患者の脳で減少していることから、抑うつ状態を反映する分子であると考えられています。

 SSRIは脳内のサイトカインの発現増加を介してp11を増加させ、抗うつ作用を発揮すると示唆されています。
 NSAIDsは、SSRIによる大脳皮質でのIFN-γやTFN-α、p11の発現増加を抑制するという試験結果が得られています。
 SSRIによるサイトカイン発現上昇のメカニズムは不明ですが、ヒトによる臨床試験によってもNSAIDsを服用したうつ病患者にはSSRIでなく別の抗うつ薬(三環系抗うつ剤等)を選択すべきことが示唆されています。
    
    出典:ファルマシア 2012.3


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神経因性骨盤臓器症候群

NIS:nuerogenic intrapelvic syndrome

2012年5月1日号 No.566

 これまで肛門の奥の持続する疼痛は、原因が不明なものとされてきましたが、よく診ると仙骨神経に沿って圧痛のある硬結を触れ、これが疼痛の本態であることが近年、分かりました。

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2012.3

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 肛門の奥の慢性に、第1症候の直腸肛門痛、第2症候の括約不全、第3症候の排便障害、第4症候の腹痛・腹部膨満などの腹部症状、第5症候の腰椎症状が高率に合併しており、症候群の様子を呈していました。

 これは共に第2,3,4の仙骨から発生している仙骨神経と骨盤内臓神経の障害と考えられ、神経因性骨盤臓器症候群(NIS)と名づけられました。

 患者の主訴は肛門の奥の鈍痛で、時には前立腺の痛みとして訴え、泌尿器科では慢性前立腺炎とされることもあります。この肛門の鈍痛は排便とは関係なく、長く座る、長時間のドライブなどで増強します。骨盤と椅子との間に神経が挟まれ圧迫されて痛みが発現するからです。

 たまに排便後の痛みとして現れ痔と間違われますが、これは陰部神経の分枝が肛門の周囲に来ていて排便の刺激で痛むもので、痔とは関係ありません。

 このNISの疼痛には慢性と神経因性の2つの特性があり、一般の鎮静剤の効果は少ないのが特徴です。

 第2症候の便・ガス・粘液が漏れる括約不全の症状は、どの病院でも治療の手段がなく、放置されて いることが多く、神経質な人では、たまのわずかの漏れでも非常なストレスとなって、いわゆる自己臭症の人も少なくありません。

 第3症候の排便障害は、便が漏れやすい一方で便が出ない、便が残った感じ(残便感)して、なんどもトイレに行ったり、刺激系下剤の服用で腸が痙攣を起こし便が詰まった状態になり、さらに薬の量を増やす悪循環になります。

 第4症候の腹部症状は、直腸を動かす骨盤内臓神経が障害されると直腸が拡張して便が留まり、口側の結腸にも便が留まり腹痛・腹部膨満感が強まることで出現します。過敏性腸症候群(IBS)に似た症状となりますが、IBSが心因性由来の心身症であるのに反してNISの場合は、主に骨盤内臓神経の障害による神経因性のものです。

 第5症状の腰椎症錠は、当然下部脊髄の障害に由来すると思われますが、NISでの脊髄病変の実態は解明中です。症例の多くでは仙骨神経と骨盤内臓神経が発生する第4・5腰椎間。または第5腰椎・仙骨間に椎間板ヘルニアなどの病変が多発し、ここにNISの本態が存在すると推測されています。

 これらの5症状は一見複雑に見えますが、2神経の支配とその障害ということを理解していれば両神経が支配する臓器の障害として現れていることがわかります。

<治療>

 治療の第一歩は、低下していたQOLを取り戻すための生活指導を、食事療法や排便指導を始めとした保存療法を基本として行います。次に神経、腸・括約筋の機能などの回復を目的に物理療法を行います。

 さらに肛門や腸の運動や感覚を回復させるバイオフィードバック(BF)療法を行います。

 心理療法はまずインテーク面接(初回面談)で、今までの経緯、疾患に対する精神的な対応、仕事・学校・家庭の状況などを詳細に聞き取ります。

 治療は自律神経訓練法や認知行動療法などを組み合わせ、必要に応じ心療内科の治療を行います。


NISの薬物療法

 NISの薬物療法は、主症状である直腸肛門痛に対する鎮痛剤、神経障害に対する末梢神経障害修復剤。排便障害、腹部症状の改善剤が中心になります。

1)直腸肛門痛の薬物療法

・リリカ
 「末梢性神経障害性疼痛」に適応があり、神経ブロック後の鎮痛効果の持続に有効。しかし副作用の眠気が50%、めまいが14%、動悸が7%発生したとの報告があります。
・NSAIDs〜ロキソニン、ボルタレン等
 長期使用では消化管症状などの副作用に注意が必要。
・ノイロトロピン錠
 痛みの下降性抑制系の機能低下を改善する作用が示唆され、副作用が少ないという特徴がある。
・メチコバール錠
 神経の核酸・蛋白合成を促進し、軸索再生、髄鞘形成を促し末梢神経を修復して、しびれ、痛みなどを改善すします。
・その他〜抗うつ剤
 後シナプス受容体を遮断し、鎮痛作用を発現

2)排便障害の薬物療法

・塩類性下剤〜酸化マグネシウム
・刺激性下剤〜プルゼニド錠、ラキソベロン液

 刺激性下剤は、腸内細菌の作用で大腸の蠕動運動を亢進します。刺激性下剤は、連用による耐性のため効果が減弱し、使用量が増えていきます。また、痙攣性便秘を悪化させます。そのためできるだけ塩類性下剤が望ましいとされています。

・消化管運動機能改善剤〜ガスモチン錠
 消化管の運動機能の低下による便秘に有効

3)腹部症状の薬物療法

・トランコロン錠〜腸管の痙攣緩和、腹痛
・セレキノン錠〜消化管の運動亢進を抑制
       〜  〃 運動抑制を亢進 
・グランダキシン錠〜自律神経系の緊張の不均衡を改善
・ガスコン錠〜消化管内のガスに起因する腹部膨満感
・その他、補中益気湯、大建中湯、ビオフェルミン等 

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インテーク面接

クライアント(相談者)に対して最初に行われる面接のこと。
受理面接、初回面接ともいう。 
 
インテーク面接の目的は、クライアントにカウンセリングの趣旨を明確にし、抱える問題の内容を把握してこのクライアントにカウンセリングが可能か否かを判断します。 可能であれば治療の方針を決めたり、問題解決の手がかりを掴んだりすることができます。  

<目的>
主訴を中心としたクライエントの情報を収集すること、治療に関する情報を提供すること。
収集すべき内容は、氏名・年齢・家族構成などと主訴ないしそれに関連する事項などです。
聞くべき内容はある程度決まっていて、必要に応じて他の部分についても質問するという半構造化面接となります。
また、治療時間や料金・治療方針などの情報を提供し、合意を得るというインフォームド・コンセントもインテーク時に行われます。

 インテークを行うもの(インテーカー)としてまず行うべきことは、クライエントとの間にラポールを形成することです。
クライエントにとってはじめての面接であり、緊張していることも多いので、インテーカーは受容的共感的な態度で聴き、何でも話してよいという雰囲気を作ることに努めます。また、クライエント理解において語られる内容のみならず、話し方の特徴・態度・服装などの非言語的な情報も注意深く観察し、クライエントの全体像を描くのに役立てることが大切です。さらに、一方的な質問攻めにするのではなく、情報提供をし、クライエント側からの質問にも答えるようにします。治療方針についてクライエントが十分に理解し、同意することは治療への動機づけを高めます。

 

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