HS病院薬剤部発行     

薬剤ニ ュ ー ス

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  1994年

6月1日号

NO.153

 

    ドプスと悪性症候群  抗パーキンソン剤による悪性症候群

   

  医薬品副作用情報No.126  −厚生省薬務局−

 

 抗パ−キンソン剤であるドプスの与薬により悪性症候群が発現したとする症例が、4例報告されています。報告された症例はいずれも典型例ではないものの、全例に高熱と血清CPKの上昇が認められています。

 

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 悪性症候群は、フェノチアジン系、ブチルフェノン系などの向精神薬による治療中に高熱、意識障害筋強剛、発汗、脱水症状などを呈する重篤な副作用であり、1960年代にフランス語で報告されたことから我が国でもSyndrome Malin(サンドロ-ム・マラン)が用いられています。

 英語では、Neuroleptic Malignant Syndromeですが、「悪性」は放置すると、ときに死に至る重い副作用という意味です。

 最近では、向精神薬だけでなく、抗うつ剤、炭酸リチウム、ドグマチ−ル、プリンペランなどの与薬中や、レボドパ、シンメトレルなどの抗パ−キンソン剤の突然の休薬によって起こることも知られています。

 主な発症の機序としては、脳内のド−パミン受容体の働きが急激に遮断されることによると考えられています。このほかに、麻酔中に起こる悪性高熱症がSyndrome Malinと類似していることから、骨格筋の筋小胞体からのカルシウム遊離が異常に促進されることも関連するという説もあります。(薬剤ニュ−スNo.4、No.143参照)

  典型的な症状及び検査所見としては、体温上昇(40℃を越える場合もあり、通常の解熱剤には反応しない)、血清CPKの上昇(数千から数十万mU/ mlに達する場合もある)、脱水状態、呼吸困難、白血球増多やGOT,GPT,LDHの上昇などがみられます。

[悪性症候群の治療]

 原因薬剤が与薬初期の場合は、与薬中止を、継続与薬中の場合、与薬量変更後、与薬中止後に症状があらわれた場合にはいったん元の与薬量に戻し、その後慎重に減量し、体冷却、水分補給等の対症的な全身管理を行います。

 治療薬としては、筋小胞体のCa遊離抑制剤のダントリウム等があり、近年は本症候群についての知識の普及と治療薬の進歩により死亡例は極めて少なくなっています。

[報告の願い]

 抗うつ剤、ベンザミド系薬剤(プリンペラン、ドグマチ-ル、グラリ-ル)の与薬によっても発症することが知られているので、これまで報告のなかった薬剤によっても悪性症候群がおこる可能性も否定できません。なお、悪性症候群、横紋筋融解症、高CPK血症は病態がかなり重複している概念であり、尿中のミオグロビンの測定法が確立されていなかった頃には、横紋筋融解症や高CPK血症も「悪性症候群」の中に含められていた可能性があると考えられています。

以上のことから、悪性症候群の疑いのある症例を経験した場合には、使用薬剤の種類、与薬量、与薬期間等をできるだけ詳細に記載し報告をお願いします。

 (報告用紙は薬剤部にあります。)


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ドグマチール(スルピリド)による悪性症候群(Syndrome malin)

昭和62年8月1日号   No.4   抗パーキンソン剤による悪性症候群


 医薬品副作用情報 No.85に精神神経疾患患者にドグマチールを服用して発生した悪性症候群(Syndrome malin)について国内5例、海外2例の症例が報告されています。

 悪性症候群(Syndrome malin)とは、抗精神薬、抗うつ薬などの向精神薬の治療中あるいは治療中あるいは抗パーキンソン病薬の中断中に高体温、著しい錐体外路症状、自律神経症状などを主徴として出現する重篤な副作用です。(発現頻度はまれです。)

(典型的な症状)

 著しいの筋硬直、無動・緘黙、発汗、流涎を伴う体温の上昇(この段階で適切な処置をとらないと、1〜2日の内に40℃以上の高体温、意識障害、循環虚脱を来たし死に至ることが多い。)

(その他の症状)

嚥下困難、頻脈、血圧の変動、
高熱、意識障害、、不随意運動、ショック等
白血球の増加、血清CPKの上昇、ミオグロビン尿を伴う腎機能の低下
このような場合には、再与薬後、漸減し、体冷却、水分補給等の適切な処置を行うこと。

<ドグマチール添付文書>

 無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗、高熱等が発現し、それに引き続き発熱がみられる場合は、中止し体冷却、水分補給等の全身管理とともに適切な処置を行うこと。発症時には、白血球の増加、血清CPKの上昇、ミオグロビン尿を伴う腎機能の低下などがみられる。

注)悪性症候群(Syndrome malin)は、すでにクロロプロマジン、ハロペリドール等の向精神薬病薬の副作用として多くの報告があり、使用上の注意にも同様の記載があります。


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悪性症候群とは

2009年10月1日号 No.507     
抗パーキンソン剤による悪性症候群

 抗精神病薬を服用している患者で、高熱、筋緊張亢進、発汗、高クレアチニンキナーゼ(CK)血症を認めた場合、悪性症候群の疑わなければなりません。

 悪性症候群は薬により、筋固縮などの錐体外路症状と、発熱、発汗などの自律神経症状が出現する症候群です。

 高体温、筋剛直と振戦、高CK血症が3大症状で、それ以外に自律神経症状である頻脈、頻呼吸、発汗、血圧異常や意識障害である無動、昏迷、せん妄がみられます。

<悪性症候群のポイント>

1.抗精神病薬の服薬開始数週間以内での発症が多い。あるいは、抗精神病薬を増量した時や抗パーキンソン病薬を急激に減少した時に発症しやすい。

2.低栄養や脱水など身体症状が悪化しているとき、あるいは不穏、興奮など精神症状の悪化を契機に発症しやすい。

3.ドパミンD2受容体遮断の力価が高い抗精神病薬での発症頻度が高い。

<悪性症候群診断の要点>

1.中枢に作用する薬の服用と関連して発症する。
2.錐体外路症状と自律神経症状がある。
3.検査では、CK,LD(LDH),ASTなどの筋原性酵素(逸脱酵素)の上昇、白血球増多が見られます。CK値を測定していない場合は、ASTとALTの比からCKの上昇を推測することができます。

 AST/ALT比が2前後であれば、たとえAST,ALTが正常範囲内でもCKが上昇している可能性があります。

<治療>

 治療の基本は、全身管理で、脱水や電解質の補正を行い、急性循環不全を予防します。血中と尿中のミオグロビンが著しく上昇した症例では、急性腎不全になりやすいので注意を要します。

<機序>

 悪性症候群の原因は未だに完全には解明されていませんが、ドパミンの強固な遮断と関連すると考えられています。(中枢性ドパミン受容体遮断説)

1.悪性症候群の原因薬である抗精神病薬はすべてドパミン遮断作用がある。
2.パーキンソン病でレボドパやアマンタジンなどのドパミン刺激薬を、急に中止すると発症する。
3.ドパミン作動薬であるパーロデル錠(ブロモクリプチン)が悪性症候群の治療に有効である。

<ドパミン遮断と高熱の関係>

 体温中枢は視床下部にあり、ドパミンで制御されています。悪性症候群では、過度のドパミン遮断により視床下部での中枢性の体温調節機構が破綻し、高体温になると推測されています。

 また視床下部付近には自律神経系の神経が多くあり、そのバランスが崩れ、頻脈・発汗などの自律神経症状が起こると考えられています。

* ハイポ・ドパミナージック・ステート
 hypodopaminergic state

 ドパミン受容体遮断によるドパミンの低下した状態のこと。悪性症候群の原因として、ドパミン遮断説以外にも、セロトニン神経の不具合や骨格筋の異常など諸説がありますが、典型的な悪性症候群は、この状態であることに異論はありません

{参考文献}薬局 2009.9  関連項目 
抗パーキンソン剤による悪性症候群

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2009年10月1日号 No.507

非定型抗精神病薬とSSRIの併用は注意!

 新しい抗精神病薬であるリスパダールなどの非定型抗精神病薬は、ドパミン遮断が強固でないため錐体外路が少なく、従来の定型抗精神病薬に比べると悪性症候群のリスクも少ないとされています。

 リスパダールはSDA:セロトニン・ドパミン・拮抗薬で、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を併用した時、その利点が失われる可能性があります。

 ドパミン神経とセロトニン神経は、密接な相互関連作用があります。セロトニンはドパミン神経からのドパミンの遊離を抑制します。

 SDAはドパミンを遮断するだけでなく、セロトニンも遮断します。セロトニンはドパミンの放出を抑えるので、セロトニンが遮断されると、ドパミン遊離の抑制が解除されるためドパミンを放出します。

 そのためSDAは、セロトニン遮断によるドパミン遊離があるので、ドパミン遮断が強固にならず錐体外路症状や悪性症候群が起こりにくいのです。

 一方SSRIは、シナプス間隙に放出されたセロトニンをシナプス前に再吸収することを阻害することで、セロトニンをそのままシナプス間隙にとどまらせ、セロトニン神経のシグナル伝達を促進し、抗うつ効果を発揮します。

 SDAとSSRI(デプロメール錠、パキシル錠等)を併用した場合、理論上では、SSRIによりセロトニンが増えるので、セロトニン神経のシグナル伝達が強くなり、それがドパミン神経に伝わるとドパミンの遊離が抑制されます。

 SDAはドパミン神経を遮断するので、ドパミンの「遮断」と「遊離抑制」が重なり、ドパミン神経のシグナル伝達は低下します。つまりドパミンが低下した状態(ハイポ・ドパミナージック・ステート:表面参照)が起こる可能性があります。

 またSSRIは抗精神病薬が代謝されるのに必要な酵素(CYP)を阻害するので、抗精神病薬の代謝が遅くなり、血中濃度が上昇する危険性もあります。

    {参考文献}薬局 2009.9


<医学用語辞典>

R-CPC
Reversed Clinico-Pathological Cnference

薬事 2007.1

 臨床検査を正しく理解し、効率的に診療に役立たせるための技量を取得するように考え出された教育手法

 臨床検査成績だけを提示し、検査データだけから患者の病態を深く掘り下げて考えようとするもの。
そして、病態を正確に把握するには、さらにどのような検査が必要か、あるいはどのような検査成績ではその病態が否定できるか、さらには必要以上の検査が行われていないか。そして最後に臨床経過、臨床診断、剖検所見などを提示して、臨床検査データからの推測が正しかったかを検討します。
 

 

 

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