ハルシオン錠と一過性健忘
1992年4月1日号 No.105
<<副作用情報 No.113>> 短時間作用型睡眠薬であるハルシオン錠(トリアゾラム)については、医療外使用が、一般紙でも取り上げられるなど不正な使用が問題となっており、また副作用についてもイギリスでは健忘等の精神神経障害の発生率が他のベンゾジアゼピン系薬剤に比べて多いことから一時販売中止となっています。(1991年) 関連記事 健忘(抗不安剤による) |
’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 睡眠導入剤による健忘は、他のベンゾジアゼピン系薬剤でも程度の差はあるものの共通してみられるもので、次のような症状が典型的で、とくに短時間作用型のものに発現頻度が高いと言われています。
1.服薬から就眠までの間の行動を記憶していない。
2.就眠後、睡眠途中で一時的に起床したときの行動を記憶していない。
3.翌朝、覚醒してから一定時間の行動を記憶していない
また、短時間作用型の薬剤は、速やかに血中濃度が低下するため10日程度の服薬によっても、日中に不安等の退薬症状が現れるとの報告もあります。
今回、日本でも改めてハルシオン錠の安全対策を検討した結果を更に徹底するため次の内容の「使用上の注意」の改定等の処置を行うこととなりました。
・反応には個人差があるため出来るだけ少量から始める。
・短期間の使用にとどめること。やむを得ず継続する場合は、定期的に患者の症状等の異常の有無を確認し慎重に行うこと。
・患者用文書等を作成し、患者に次のような注意を徹底すること。
*就寝直前に服用すること。
*就寝後、途中で起床して仕事する可能性のあるときには服用しないこと。
*アルコールとともに服用しないこと。
<ハルシオン錠のその他副作用>
精神神経系:眠気、ふらつき、めまい、不安、いらいら感、協調運動失調、不快感、舌のもつれ、耳鳴り、霧視、転倒多幸、魔夢、鎮静、攻撃性、夢遊病など
高齢者では、運動失調が起こりやすい。最大でも1錠まで
急に中止すると、痙攣、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想などの禁断症状が現れることがある。
中止する場合には、徐々に減量にするなど慎重に行うこと。
なお、アモバン錠、レンドルミン錠など他の睡眠導入剤についても同様の注意が必要です。
<<医学薬学用語辞典>>
カクテル療法
慢性糸球体腎炎で、ステロイド剤・免疫抑制剤に抗血小板剤や抗凝固剤を併用する方法
ホットフラッシュ
Hot flush
一般に閉経前後の婦人ではその卵巣機能が急激に低下し、それに伴うエストロゲン、特にエストラジオールの減少により、ほてりやのぼせ、発汗などの血管運動神経系症状を主訴とするいわゆる更年期障害がみられます。このうち、ほてりやのぼせをホットフラッシュと呼んでいます。
AQOL
喘息専用のQOL質問票
患者の生活に与える直接的・間接的な影響を定量化することができます。
計量心理学的な信頼性と妥当性、および臨床的な感度が十分検証されており、欧米の臨床試験では最も広く用いられている質問票の1つです。
質問項目は4領域、32項目にわたり、生活の質を悪化させる要因を1(最大)〜7(最小)の7段階で評価します。平均で0.5以上の変化を臨床的に意味のある変化とみなします。
アルギニン負荷試験
成長ホルモン分泌刺激試験、下垂体機能検査用
ラジオイムノアッセイの急激な普及に伴い、成長ホルモンの血中濃度測定が可能となり、さらに負荷試験により、正常短躯者と下垂体性小人症の鑑別が可能となりました。
また、成長ホルモン分泌能の低下は各種下垂体ホルモン分泌能の低下のうち最も早く、かつ最も高頻度にみられることから、負荷試験は下垂体機能低下の早期発見、病態解明に不可欠となっています。
アルギニンによる成長ホルモン(GH)分泌刺激は、ヒスタミンが関与しているともいわれ、その機序は複雑で、低血糖あるいはインスリン増加を介するものでないことが明らかにされています。
出典:味の素ファルマ資料
ガラクトース血症
ガラクトースは、グルコース6リン酸を経て解糖系に入り、エネルギー源となります。
ガラクトースからグルコース6リン酸に代謝する酵素が先天的に欠損しているのが、ガラクトース血症で、血中にガラクトースと関連物質が蓄積することで、様々な症状を呈します。
その関連する酵素により以下の3つの型が知られています。
I型:GALK(ガラクトース-1-リン酸・ウリジルトランスフェラーゼ)欠損症
〜哺乳開始後、嘔吐、下痢、体重増加不良となり、黄疸、肝脾腫、肝機能異常、筋緊張低下、白内障などの症状が現れます。
II型:GALT(ガラクトキナーゼ)欠損症
〜白内障
III型:GALE(UPDガラクトース-4-エピメラーゼ)欠損症
〜無症状で治療の必要は無いとされています。
<対策>
ガラクトースを含むものは禁忌。例えば乳糖はグルコースとガラクトースの2種類から構成されていますので禁忌です。
ガラクトースを含まない糖〜ショ糖、マルトース
GALK、GALTではガラクトース、乳糖を終生継続して除去することが治療の原則となり、本症を疑った時点で、直ちに無ガラクトース食にすることで、劇的な症状の改善がみられます。
新生児、乳児期には豆乳あるいは乳糖除去乳を用い、離乳期以降では乳糖を含む全ての食品の摂取を禁止します。
乳糖、牛乳、脱脂粉乳は食品中(パンなど)に広く使用されており、それぞれの食品の乳糖量に注意が必要です。その他、ガラクトースを多く含む食品として、納豆などの発酵食品、トマトなどが知られています。
GALT欠損症では、早期発見と治療により初期症状の改善と精神運動発達遅滞の予防が可能です。しかし年齢の経過とともに精神運動発達遅滞、言語障害、精神症状、卵巣機能不全などの後期症状が現れることが報告されていて、長期的には予後良好とは言えません。
ステロイドカバー
長期ステロイド使用とステロイドカバー
ステロイド剤を連続して服用している患者では、フィードバック抑制によって、間脳-下垂体系からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌が抑制されます。刺激しなくても外因性に副腎皮質ホルモンが多量に血中に存在するためです。
このため、ACTH分泌抑制が一定期間持続する結果、副腎皮質の反応性低下や萎縮が起こり、ACTHに反応するコルチゾール分泌機能が著しく低下することになります。このような分泌機能が低下した状態で、外科手術野外傷などの強いストレスが加わると、生体の恒常性維持のために必要なコルチゾールが不足してしまい、低血糖や意識障害、循環虚脱というような重篤な合併症を来たすことになります。
これが急性副腎不全(副腎クリーゼ)と呼ばれる病態で、放置すれば死に至るため、事前に十分量のステロイドが外部から投与される必要があります。これをステロイドリカバリーと呼びます。
ステロイドリカバリーの一般的なプロトコルとしては、手術直前に1週間以上あるいは、手術前半年以内に1ヶ月以上のステロイドを使用していた患者に対して、手術前と術中、さらに術後もヒドロコルチゾン100mgを静注か点滴静注することが勧められています。
このプロトコルの根拠は、内因性ステロイドの分泌量がストレス時には最大でヒドロコルチゾン300mg相当であることから計算されたものです。ムーンフェイスや中心性肥満などで医原性のクッシング症候群が予想される場合には、副腎も長期の抑制による機能不全に陥っていると考えれ、ステロイドカバーを施行したほうが安全だと思われます。
出典:薬局 2010.4