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漢方薬の副作用

1991年12月1日号 No.98

  副作用情報 N0.111

   漢方薬は、最近一般臨床家の70〜80%が使用経験を持つといわれています。
その成分の大部分が自然界にある草根木皮であるところから、副作用が少ないとされてきました。
しかし漢方医学的基礎概念が十分でない状況での急激な使用の拡大により、最近になって特異な副作用が報告されました。(ここでいう漢方薬はすべてエキス顆粒剤のことです。)

 関連項目 甘草と低カリウム血症 もご覧下さい。

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*これまで報告されてきた副作用

 漢方処方には甘草が含まれているものが多く、これまでも低カリウム血症、血圧上昇、浮腫などの偽アルドステロン症などが使用上の注意に記載されていました。

*最近の注目すべき副作用例

 肝機能障害例に使用された小柴胡湯によって肝機能が増悪したとの報告があり、その因果関係について再試験、肝生検、LST試験の結果「使用上の注意」監視が記載されるようになりました。

 その後、劇症肝炎が小柴胡湯で、柴朴湯、大黄牡丹皮で報告されています。

 間質性肺炎も小柴胡湯で報告されており、その報告では副腎皮質ホルモン剤で軽快しています。

 その他、小柴胡湯でアレルギー性膀胱炎、柴胡桂枝湯で好酸球性膀胱炎が報告されています。

 漢方薬の急速な普及の原因としては、エキス剤が保健医療に組み入れられたこと、高齢化社会を背景として、高齢者特有の、慢性多臓器障害に伴う不定愁訴症状に、特に広く優先的に使用されてきているためだと思われます。


<2000年追記>

小柴胡湯:下記の患者には使用しないこと(禁忌)
肝硬変、肝癌の患者〔間質性肺炎が起こり、死亡等の重篤な転帰に至ることがある。〕
慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万mm3以下の患者〔肝硬変が疑われる。〕


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漢方製剤の現状と問題点

1989年9月15日号 No.51


 高齢者人口の増加に伴い慢性疾患が増加したため、現代医学による薬剤が効かない疾患に対し、漢方製剤が使用されるケースが目立ってきています。また、新しい治療法を開発するために積極的に新薬と漢方製剤を使用する例もあり、当院でも採用される漢方製剤が徐々に増えてきています。

 しかし保険医療状からは、慢性疾患に対してでも14日以上の与薬ができないなどの問題点もあり、今後の検討が待たれています。

 その他、漢方薬は「証」という体質、体力、病期を基にした漢方独特の"ものさし"によって与薬されるため、現代医学の病名と必ずしも一致しない場合もあり、メーカーへ適応症の拡大を呼びかける努力も必要となってきています。

<新薬と漢方薬併用の著効例>

*ネフローゼ症候群:柴苓湯とプレドニン錠

 柴苓湯の併用により、ステロイド剤が減量でき、また、中止しても1年以上再発しなかった。

* 胃癌術後:十全大補湯とMMC、5Fu、OK432

 MFO療法の骨随抑制が軽減され、制癌剤による一過性の肝機能障害の予防、術後の体力回復が促進された。

*その他

・小柴胡湯と強ミノC:ウイルス性肝炎

・八味地黄丸とワンアルファ(活性ビタミンD):閉経後骨粗鬆症


 アリストロキア酸

 アリストロキア酸は、ウマノスズクサ科の植物に含有されている成分で、腎障害を引き起こすことが疑われています。

 日本薬局方に定められた起源の生薬を使用していれば問題がありませんが、生薬の呼称が国によって異なる場合などもあり、また、諸外国では日本薬局方に適合しない製品が流通していることから、生薬・漢方薬の使用に当たっては、アリストロキア酸を含む植物の混入がないように原料の確認などに留意する必要があります。


注意を要するのは次のものです。

サイシン、モクツウ、ボウイ


「未病」

 未病の概念は、二千年以上前の中国で提唱されました。その背景には漢方の一元的健康観があります。漢方の世界では、健康と疾病(病)とを連続的な変化として捉えます。つまり、病気でなければ健康、健康でなければ病気という西洋医学的な二元論ではなく、健康の程度には高い状態から低い状態まであって、それがあるところまで低下してしまうことで病(やまい)の状態に陥ると考えます。

 未病とは健康の程度は低いが、かといって病気にかかっている状態ではない、いわば半健康、または小さなきっかけで病気になってしまう疾病予備軍といえます。

 生活習慣病の場合、未病状対のまま放置する期間が長くなれば成る程隔日に悪化の一途をたどり、病名の付く段階に到達してしまいます。

              出典:薬局 2003.3 田村哲彦(タムラ薬局)


癌治療と漢方薬

     出典:治療 2002.1

◎ 目に見える癌組織はいわば氷山の一角に過ぎず、その基盤にある種々の半健康的状態を漢方製剤のほか、鍼灸、食事療法などによって全人的に対処する必要があります。


・手術侵襲を受けた後の回復〜補中益気湯、十全大補湯、人参栄養湯

   ・特に食欲不振が強い例には、六君子湯、香蘇散
   ・術後に肝障害がみられた場合は柴胡剤
   ・腹部手術後の腸閉塞には、大建中湯

 ・術後の下痢・腹鳴〜半夏瀉心湯、
 ・術後のリンパ管浮腫、放射線療法後の局所的浮腫には桂枝茯苓丸、五苓散、遷延例には真武湯

◎ 悪疫質による顔色不良、皮膚乾燥、脱毛などには、地黄を含む製剤がよいが、食欲不振が強い例には不適

・抗癌剤による脱毛、慢性疼痛、放射線療法による皮膚障害〜十全大補湯
  十全大補湯で胃がもたれる例や、腹痛・便秘には黄耆建中湯

・不眠症、空咳、肺癌の全身状態の改善〜人参栄養湯

・無気力、手足の抜けるような倦怠感、微熱、味覚異常(砂をかむような味気なさ)、熱いお茶をほしがる、寝汗〜補中益気湯

・胃部のもたれ、うつ状態〜六君子湯、

・抑うつ気分が強い例や、下のしびれ・味覚異常〜香蘇散

・冷えや抗病反応の低下した虚症の蕨陰病気〜茯苓四逆湯(漢方最後の切り札)


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漢方治療の有効性と安全性

2009年8月1日号 No.503

 最近、臨床現場で漢方薬が以前にも増して、特に高齢者で使用されるようになって来ました。最近行われたアンケートによると、漢方薬を診療に使う動機については、62.8%の医師が「西洋薬による治療だけでは限界があるから」を理由としており、これが最多でした。

 近年では、エビデンスの入手が容易になり、既存の西洋薬による治療法の限界もたやすく知られるようになったことの反映と思われ
ます。

 また、漢方治療を志す医師の年齢が低下してきており、パソコンなどによるデータ収集による活用がこれらの傾向をいっそう加速するであろうことを示しています。

 高齢者の身体生理に関する一般的な傾向として、予備力の低下があげられます。予備力とは身体内外の環境変化に対して即応して適応する能力です。

 高齢者に治療薬を用いる場合に一般的な安全域が狭いことを意味します。すなわち高齢者を治療する場合には他の世代以上に、治療効果を求めながら、安全性を確保することが求められます。

 近年、漢方治療に対する医師や患者自身の期待が、西洋医学にはない治療効果を求めることに移りつつありますが、その背後には穏やかな効き目で有害作用に乏しいとされる漢方本来の長所への信頼があります。

 しかしながら、漢方薬を使用すべき際にも注意すべき事項がいくつかあります。漢方薬とは、原則として2種類以上の生薬からなる伝統的な約束処方で、その構成生薬の性質を知ることが必要です。

<漢方薬に含まれる注意すべき生薬>

*大黄

 大黄は大黄甘草湯、防風痛聖散、潤腸湯、麻子仁丸などに含まれており、虚弱体質の便秘使用すると腹痛、下痢を起こすことがあります。

*桂皮、当帰

 桂皮、当帰は当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などがあり、皮疹がまれに起こることが知られています。

*附子

 附子はトリカブトの塊根を加工したもので、ヒゲナミンやコリネインなどの強心成分が含まれており、重要な生薬です。臨床効果は鎮痛、強心、末梢神経拡張作用による温補(体を温める)です。難治性の神経痛やしびれ、関節痛、高齢者に多い冷え性などには有用です。しかしトリカブトの毒性は減弱してあるといっても皆無ではないので、毒性の発現には特に注意が必要です。

 毒性の発現には、舌や口腔内のしびれ感、悪心、のぼせ、動機、重症であれば不整脈、血圧低下などがあります。

 トリカブト(附子)を含む漢方薬には。八味地黄丸、牛車腎気丸、桂枝加朮附湯、真武湯などがあります。

*柴胡、当帰

 小柴胡湯による間質性肺炎は広く知られていますが、その原因はまだ解明されていません。

 近年、小柴胡湯などによる間質性肺炎の原因生薬は、柴胡よりも黄岑の可能性が高いという説が有り、含有するバイカレインに対するアレルギー的機序が示唆されています。

 これら生薬を含有する方剤以外をも含めて、間質性肺炎との関連が疑われた事例のある方剤には、乙字湯、大柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯、半夏瀉心湯、黄連解毒湯、麦門湯、清肺湯、柴朴湯、柴苓湯、辛夷清肺湯などがあります。

* 甘草   関連項目 
甘草と低カリウム血症 もご覧下さい。

 甘草は漢方製剤の約70%に含まれ、最も使用頻度の多い生薬です。甘草による偽アルドステロン症は有名で、血圧上昇、低カリウム血症、末梢性浮腫、ミオパチーを伴うとされています。

 近年、複数の漢方製剤の併用が行われるようになり、それぞれに含有される甘草の合計が過量となる場合も少なくありません。

 通常、1日摂取量が2.5gを越えないことが基準となっていますが、漢方製剤の中には、一剤ですでに1日量3gに達するものも有るので、十分な注意が必要です。ただ甘草に対する反応は個人差が大きく、一律には考えられないのも現状です。

 同様にカリウムを低下させる利尿剤との併用時はとくに副作用出現に留意する必要があります。わが国で漢方以外で消費される甘草の95%が食品の矯味料であることを考えると、低カリウム血症と診断した場合には、漢方以外の甘草の摂取の可能性も検討する必要があると思われます。

* 芒硝

 芒硝は天然の含水硫酸ナトリウムです。塩類下剤で、多くは大黄と組み合わせて裏熱(消化管の炎症)を去る目的の承気湯として用いられます。

 医療用漢方製剤は1日量として1g未満で、重篤な下痢を起こすことは稀ですが、万一過剰になった場合には脱水や電解質異常を生じる恐れもあります。

 胃腸が普段弱い人、冷えの強い人、普段から下痢しやすい人には原則として用いないほうが安全です。  大承気湯、調胃承気湯、桃核承気湯、防風通聖散などに含まれます。

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2009.7
慶應義塾大学医学部漢方医学センター 客員教授
あきば伝統医学クリニック 院長 秋葉 哲生 
 

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