薬剤による血液障害
1990年3月1日号 No.61
薬剤の副作用の中でも最近注目されているものの一つとして、血液障害あります。 薬剤による血液障害には、貧血、白血球(好中球)減少、血小板減少、そしてこれらすべ てを伴う汎血球減少症があります。 好中球減少例にみられる感染死は20%以上、血小板減少例の出血死は2〜5%と報告さ {参考文献}厚生省副作用情報 No.100 |
<薬剤による血液障害の発生機序>
1)骨髄における血球の母細胞である幹細胞に対する障害
この機序による血小板減少は、各種抗悪性腫瘍剤、クロラムフェニコール、金製剤、アス
ピリン等が知られています。
2)流血中の免疫性の血球破壊
a.薬剤吸着型:服用された薬剤あるいはその代謝物が大量に血球膜表面に強固に結合し、
薬剤に対する抗体(IgG)が存在すれば、その抗体は膜上の薬剤に結合し、血球は網
内系臓器内のマクロファージにより捕獲、処理される。
ペニシリン系、セフェム系薬剤等 服用後7〜10日目に発現
b.自己抗体産生型:血球膜に結合した薬剤が膜に変化を起こさせ、結果として膜に対す
る自己抗体を生じさせるもので、抗体の付着した血球は網内系で処理される。
アルドメット錠、H2ブロッカー等 服用後3〜6ヶ月で抗体が産生される。
c.免疫複合型:抗原である薬剤と薬剤に対する抗体とが血漿中で免疫複合体を形成し、
それが血液に付着することにより起こる血球の障害。
キニジン、RFP等
<原因薬剤>
抗生物質 :35.8%
NSAIDs :13.9%
抗てんかん剤 :7.3%
抗悪性腫瘍剤 :6.1%
H2ブロッカー:3.5%
抗血小板薬 :3.4%
<メモ> 坐薬の併用
出典:クラヤ三星堂報 2001.7.6
1.作用の異なる2種類の坐薬を併用する場合、最初の坐薬を挿入後、坐薬の排出がないことを確認し、5分程度を目安にして次の坐薬を挿入するのが一般的です。(ただし、坐薬基剤が同じ場合)
2.挿入順序は、熱性痙攣の予防目的である抗痙攣剤、発作を抑制する抗てんかん剤・抗喘息薬・制吐剤などの緊急を要する坐薬を先に挿入し、解熱剤・抗生物質などの坐薬はその後に挿入します。緩下剤は先に挿入した坐薬の主薬の吸収を考慮し、1時間程度間隔をあけ、常に最後に挿入します。
3.坐薬を併用する場合、基剤の物性の相違により主薬の吸収に変化が起こることが報告されています。ジアゼパム(熱性痙攣の治療薬)が、アセトアミノフェン坐薬を併用した場合、直腸内腔液に溶解した脂溶性のジアゼパムが、アセトアミノフェン坐薬の油脂性基剤の一部に取り込まれ、ジアゼパムの吸収が遅延するのではないかとされています。
その場合、解熱剤をを経口にするか、坐薬を併用する場合には、ジアゼパム坐薬を挿入後少なくとも30分異常間隔をあけることが望ましいとされています。
4.油脂性基剤の坐薬と水溶性基剤の坐薬を併用する場合、水溶性基剤の坐薬を先に挿入し、その後少なくとも30分以上経過した後、油脂性基剤を挿入することが必要とされます。
<油脂性基剤>
・主に子供が使うもの
アルピニー坐薬、アストモリジン坐薬、エポセリン坐薬、サリチゾン坐薬
セニラン坐薬、ワコビタール坐薬
・大人用の坐薬
テレミンソフト、ボルタレン坐薬、新レシカルボン坐薬、フェルデンサポジトリ
サラゾピリン坐薬、リンデロン坐薬、フトラフールズボ、 ボラギノールN坐薬
アンペック坐薬
<水溶性基剤>
エスクレ坐薬、ダイアップ坐薬、ナウゼリン坐薬、レペタン坐薬
イノベーション:ある社会で、未だ広く受け入れられていない考え方や品物
技術革新。新機軸。
経済学者シュンペーターの用語で、(経済上の)革新。経済成長の原動力となる生産技術の革新、資源の開発、消費財の導入、特定産業の構造の再組織などきわめて広義な概念。
*任意的イノベーション決定
イノベーションを受け入れるか否かが個人の決定にゆだねられている場合。
例えば、新たに発売された薬が普及するか否かは、臨床医一人一人の判断に任されています。この意思決定システムの特徴は、人によって新しい物好きから頑固者まで、イノベーションの普及に長い時間を要するが、一度受け入れたものは、自分の決定に比較的忠実です。
*権威的イノベーション決定
権力、地位または専門的知識を持つ社会または組織内の少数者により決定が下される場合。
イノベーションが瞬時にして導入される反面、組織の構成員のイノベーションに対するモチベーション(動機付け)が低く、十分に活用されない場合があります。
出典:医薬ジャーナル 2003.7 等
DESIGN分類
褥瘡の重症度分類と状態評価スケール(2002年に日本褥瘡学会によって作成)
D:depth(深さ)
E:exudate(滲出液)
S:size(大きさ)
I:inflammation/infection(炎症/感染)
G:granulstion(肉芽組織)
N:necrosis(壊死組織)
創傷の重症度を上記の6項目で示し、ポケットが存在する場合は−Pを付記します。
PADAM:男性更年期障害
2006年2月1日号 No.422
女性と異なり、男性は加齢に伴い徐々に男性ホルモンが低下するため、臨床症状の出現時期が不明瞭でいつから更年期に入ったのかはっきりしません。臨床的には男性更年期という表現は適切でないとされています。
そこでADAM:androgen decline in the aging male。またはPADAM:partial androgen
deficiency of the aging maleという表現が用いられるようになりました。
ADAM(androgen
decline in aged male)と男性更年期障害との違い。(日本病院薬剤師会雑誌 2008.2)
ADAMは高齢男性でアンドロゲンが欠如したことを意味しています。しかし、男性ホルモンは女性ホルモンのように中年期以降に急激に減少せず、徐々に低下するので欠如(Deficiency)という言葉は不適切で、部分的(Partial)をつけたのがPADAMです。
特に年齢の規定はありませんが、更年期は40歳後半から50歳後半を想定し、PADAMは60歳以上の高齢男性が想定されているようです。日本では、マスコミが先んじて男性更年期を紹介したため、男性更年期障害とPADAMが同じ意味のように解釈され、実際の診療で混乱が生じています。
LOH症候群
加齢によるアンドロゲンの低下に伴う症状を表すために、加齢男性性機能低下症(LOH)の概念が提唱されました。
主な症状は、勃起能の低下に加え、気分変調、睡眠障害、筋肉量の低下、内臓脂肪の増加、体毛や皮膚の変化などテストステロン値が8.5pg/mL以下の場合はART(アンドロゲン補充療法)の適応とされていますが、それでもうつ病などの鑑別は重要です。
LOH症候群 LOH:late onset hypogonadism という呼び方もあるようです。
{参考文献}クリニカルプラクティス 2005.12
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PADAMの定義と原因
PADAMは、男性ホルモンの低下により起こる生化学的異常とそれに伴い出現する症状の症候群です。精巣由来の男性ホルモンばかりでなく、副腎性男性ホルモンや成長ホルモンの低下もその症状に影響を与えています。
精神症状としては、落胆、抑うつ、苛立ち、不安、神経過敏、意気消沈、疲労感。身体症状としては、関節・筋肉症状、発汗、ほてり、睡眠障害、記憶。集中力低下、肉体的消耗感、性機能障害
などがあります。
男性更年期障害を心身医学的に
1.更年期に発症した大うつ病に、男性性機能低下や自律神経失調症状が伴っている場合2.主に加齢によって生じた男性ホルモンの低下を含む生理的バランスの崩れに伴って、自律神経失調症状やうつ状態などが発症した場合
3.加齢、糖尿病、高血圧、動脈硬化、前立腺手術後など様々な原因で更年期に発症した男性性機能異常の結果、二次性・続発性に心気・うつ状態などが発症した場合
の3つに区別する人もいます。
<男性更年期での主要な内分泌変動系と動態>
成長ホルモンの減少→骨密度の減少、筋肉量の減少、内臓脂肪の蓄積
男性ホルモンの減少→うつ状態、健康感の消失、筋肉量の減少、資質の変化、骨密度の減少
副腎性男性ホルモンの減少→健康感の消失、骨密度の減少、分泌の低下(カサカサ感)
<治療>
カウンセリングを行うとともに、男性ホルモンの低下症例にはホルモン補充を行います。
この場合、あらかじめ前立腺癌の無いことを確認する必要があります。
日本で認可されている男性ホルモン薬は注射薬のエナント酸テストステロンだけで、125〜250mgを2〜4週に1回筋注します。副作用として多血症が挙げられているので、5回に1回ほど採血し、男性ホルモンと一緒に血色素濃度を測定します。
3回ほどの注射でも効果が見られない場合は、その後も有効でないことが多く、有効である場合は、まず10回行い、休止して有効性の持続を経過観察することが多いようです。
うつ症状が強い場合は、抗うつ剤を試みます。
医薬トピックス(21) 「弟妹との接触がMS発症を低減」 はこちらです。