不意打ちはこわい『私の身体は頭がいい』というタイトルを見て、すごいパクリだと思った。そこまでやるのかと。あとがきを読んでほっとした。橋本治の了承は得ていた。おまけに甲野善紀に序を書いてもらっている。これは、最強のマーケティングだ。 本書は、内田樹のベスト本ではないかと思う。なぜなら私が読んでも理解できる身体論の入門書になっているからだ。さすが合気道歴の長い大学の先生のことだけはある。身体技法を学んでいない私は、想像力をたくましくして拝聴した。 4部構成になっており、ウェブ日記からの抜粋が主である。語り口は、口当たりのいいカクテルのごとし。 「宇宙の中心を貫くもの」と一体となり、そのコズミック・リズムに同調して脈動するというのは宗教的なヴィジョンではなく、技法の「基本」であり、技法の「術理」なのである。第2部は紀要論文なので文章が少しかたい。そこで、合気道の師である多田宏先生のことばを引用している。 (武道の)もうひとつの道、それは日本の武道を本当に発達させた内在する道(法)です。それはさっき言った、密教と禅、神道の修業によって得られた、精神集中の感覚によって鍛えられた、いわば、精神集中の科学としての心の持ち方と使い方から発した道だ。これからの時代は、これが非常に重要だと思います。(p72)とスピリットのごとく明言している。宗教と武道は密接不離であったと。古くから修験道が発達し、鎌倉時代には坐禅がはやり、神道の修行は連綿と続いてきた。忍者は真言をとなえ、宮本武蔵は禅宗の教えを受け、テキヤも料理人もマタギもそれぞれ固有の信仰を持つ。子どものころからうすぼんやりと感じてきた身体技法と宗教の関係を、きっぱりと語ってくれているのだ。 「初心者がゴルフを始めようと思い立って、とりあえず最寄りの練習場に行ったら、そこではタイガー・ウッズがボランティアでレッスン・プロをしていた」というような出会いをした内田先生の武運が、うらやましくてしかたがない。
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