野の花



 秋には、各局とも力作をそろえて視聴者を待ち受けている。そんな番組の一つに「阿蘇の花物語〜悠久の時を超えて」があった。熊本のローカルテレビ局が開局を記念して制作したもので、テレビ朝日が放送した。ナレーションは、森高千里が担当。どうせ観光案内か、花紀行程度だろうと思って見ていたら、見事に期待を裏切られた。相当しっかりした番組だったのだ。

 番組では、阿蘇に咲いている花のルーツを朝鮮北部に、さらにはモンゴルのホロンバイル草原にまでたどって紹介していた。大昔に大陸と現在の日本列島が陸続きだったので、陸地を伝って花がやって来たのだという。なんともスケールの大きい話だ。

 ホロンバイル草原といえば、当然のことながらノモンハン事件を思い出す。それにモンゴルのオルティン・ドー(長い歌)は、日本の追分にそっくりだ。ユーミンが大好きなホーミーだって、日本人には懐かしくさえ感じる。自分たちを農耕民族だと思い込んでいる日本人だが、どこか奥深いところで草原文化の影響を受けているのではないか。その証拠の一つが阿蘇の野の花なのかもしれない。

 花の好きな人は、『九州の野の花』を手にするいい。これは九州と書いてあっても、本州全域で使える花の事典である。野原で見つけた花の名前を知りたいときに、「花の色」でひけて便利。アマチュアに親切な編集だ。少し高いけど、それだけの価値がある。

(1999-11-15)
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