知らんぷり受賞



「課外授業 ようこそ先輩」の二十歳スペシャルで、河瀬直美を囲み同窓会をやっていた。飛鳥小学校6年の生徒たちが8年前に撮影した“身の回りの大切なもの”をふりかえりつつ、20歳になった元生徒たちが“今の自分に大切なもの”を映像に切り取っていた。

私が期待していたフォローとはだいぶ違う。同窓会など開いても、月並みになってしまった大人を見るだけだから。授業形式ではなく、3人くらいに絞り河瀬を訪問する番組にすればよかった。

そうこうしていると、河瀬直美「殯の森」がカンヌ映画祭でグランプリを受賞したというニュースが飛び込んできた。そんな賞あったかな。審査員特別大賞だとかで、いわば準優勝。

テレビでは、有名監督のチョンマゲ姿やお笑い芸人の舞台あいさつだとかの話題ばかりで、河瀬の映画が出品されていることも知らなかった。10年前「萌の朱雀」でカメラドール(新人監督賞)に選ばれているのだから、無名の監督ではないのに。受賞当日こそ話題にはなったものの、その後NHKを除いてテレビはほぼ黙殺。

さて、「殯の森」は奈良のグループホームが舞台。痴呆のおじさんと介護職になりたてのおねえさんが主役。妻を亡くしても忘れられない老人と子どもを失ったトラウマをかかえた女性が、森に迷い込む。いつものようにストーリーが見えにくいのだが、途中までは前作の「沙羅双樹」よりすっきりした作品に仕上がっている。

ちなみに、「沙羅双樹」は樋口可南子とサラリーマンNEOでおなじみの生瀬勝久が出演し、鷲田清一『「待つ」ということ』にも引用されている。

かつては自分にとってリアルとは何かを追及していた河瀬が、「沙羅双樹」では出産をサブテーマとし、「殯の森」では死をダイレクトに取り上げた。そのあたりの変遷については、いつか文章で読めるだろう。

カンヌではグループホームのことや殯(もがり)の意味をパンフレットのようなもので説明したのだと思う。そうでないと、なんでこのおじさん穴を掘っているんだろう、ポカン、になる。

真千子の「千」を消して真子にする習字のシーン、茶畑での追いかけっこ、迷い込んだ畑で一緒に食べるスイカ。ふたりの距離がだんだん縮まっていく。ここでやめとけば短編映画としてかなり上質。このあと意味不明になる。

スイカ泥棒のシーンは、大島弓子「ジィジィ」を思いつつ見た。呆け老人と世界が終わるまでの7日間を好き勝手に過ごす高校生という違いはあるが、どちらも責任感ゆえに振り回されてしまう。こういうのを見てるのはつらい。

すでにフランスでは多くの映画館での上映が決まっている。自国の映画祭で賞をとった作品なら、それが外国産でしかもわかりにくいものでも客が入るからだろう。テレビに無視される作品が、日本ではどのように受け止められるのだろう。アメリカでも上映されるのなら、アメリカ人を見直してもいいのだが。さて、いかに。

(2007-06-14)