真剣勝負



 NHKの「ようこそ先輩」をときどき見る。著名人が母校へ出かけて、小学生に講義するという番組である。綾戸智絵をはじめて見たのもこの番組だった。

 通常、あらかじめ課題を出しておいて、それにもとづき授業を行う。さらに宿題を出して、2日目の授業でまとめに入るという形式をとる。子どもたちが宿題を持ち帰って悪戦苦闘する姿をカメラが追う。そして予期せぬハプニングに遭遇しながらも、なんとか発表会にたどりつくのを見るとほっとする。見ているほうはいつしか保護者の気分になってしまうのだ。

 たまに作業を通して、大きく変わっていく子がいる。そんなときお決まりの番組つくりをせずに、その子をずっとフォローして欲しいことがある。その子の内面に起こっているドラマのほうが、本題である授業よりもずっとすごいと思うからだ。私がディレクターなら、上司に怒られてでもカメラを回す。プロデューサーなら、そういう子をたくさん取り上げて、特番を組む。

 さて、あるとき番組を途中から見たら、子どもたちがやけに熱中していた。講師は見城徹だった。各班をまわり、子どもたちがこねくり回している作品に対して、即座にコメントしていく。ぜんぜん手加減していない。うわさには聞いていたけど、こりゃ本物だ。しかし授業の前半を見ていないので、その後ずっと気になっていた。

 『見城徹編集者 魂の戦士』では、授業の全容をまとめている。残念ながら、子どもたちがわいわいガヤガヤやっているときの熱気までは伝わってこない。

 編集者と作者との濃密なかかわりが、この人の特色である。感動した人に直接会えるのが、編集者冥利だともいっている。しかし「今でも本を読んでいますか?」という子どもの質問に、「読んでいるには読んでるんだけど、楽しんで読むっていうのはなくなっちゃうんだよ」と答えている。やっぱり一番楽しいことは、仕事にはしたくないな。

 授業を通して、人と人がぶつかり合うことが編集なんだということを、子どもたちは体験した。一方見城は、「本当に疲れた。やっぱり子どもとはいえ、精神でどこかでつながろうとするわけだから、体の芯から疲れましたね。(中略)今はひたすら寝たい」。お疲れさまでした。

 このクラスの中から、将来表現者が生まれてくるかもしれない。そういう石を投げかけたことだけは間違いない。彼らの10年後をだれかフォローしてほしい。
(2003-09-27)