かもめ食堂



かねてから見たかった「かもめ食堂」(05年)は、ヤマなし・オチなしのゆったりした雰囲気の、スローライフを地でいくような作品だ。まずフィンランドありきで、映画用に原作が書かれたそうだ。企画ものだね。

原作の群ようこ荻上直子が監督・脚本、主役の3人も合わせて、みんな女ばかり。しかも若い人が皆無のおばさん映画だ。

小林聡美(サチコ)はいい役もらった。彼女を見てるだけで、「転校生」(82年)が大きくなって「てなもんや商社」(98年)に就職し、その後「かもめ食堂」を開いたのだろうと連想が働く。もたいまさこ(マサコ)、片桐はいり(ミドリ)というくさい役者を相手に、けっしてぶっきらぼうにならず、ていねいなことば遣い。最後は、3人の性格を明示するシーンで幕を閉じる。

映像を見て、小津安二郎、アキ・カウリスマキ「浮き雲」(96年)の路線だなと思っていたら、「過去のない男」のマルック・ペルトラまで出てきた。小林・もたいのコンビゆえ、「やっぱり猫が好き」が企画のベースにあるのは明らか。

サチコやミドリは、食堂の食材を仕入れに市場に出かける。ヘルシンキ南港の「マーケット広場」が写ったときは、懐かしかったなあ。私もヘルシンキへ着いたとき、ここで買出しして久々の自炊を楽しんだ。

なぜフィンランド人はこんなにゆったりしているのかという疑問を投げかけると、常連くんが「森」と答える。さっそくマサコさんは森へきのこ狩りに出かける。これはヌークシオ国立公園でロケしたそうだ。私が行ったのは、ハメーンリンナ市内のアウランコ公園。すれ違いざま"Hellow, Baby"と声をかけて行く一団があった。自転車に乗って行進する兵隊さんたちだ。

マリメッコへ行って、テキスタイルを見たっけ。恥ずかしながら、そのときはただの生地屋さんかと思ってた。マサコさんが買った洋服もマリメッコ製のよう。

雰囲気を味わうだけの、短い滞在だったけど、そのときに感じた魅力はこの映画でも味わえる。旅行でおぼえたただひとつのフィンランド語は、「キートス」(ありがとう)。

(2007-10-01)