フラガール



「フラガール」(2006)を泣きながら見た。李相日監督は、ツボをこころえている。まだ33歳なのに。育成系ゆえ「スウィングガールズ」みたいなもんだが、シリアスになりすぎす、感情移入もできる1ランク上の映画だった。

蒼井優(紀美子)が母親の前で踊るシーンは、「花とアリス」(2004)のバレエをなぞっている。ラストの本番シーンは、本人が気に入らなくて観客なしで撮りなおした。「吾輩は主婦である」の池津祥子も所を得ていた。いろんな賞を取っただけのことはある。

物語のはじまりは、昭和40年。「ALWAYS 三丁目の夕日」の昭和33年のころ、東京はマジックワードだった。田舎の人にとって東京は神話だった。それから高度成長を駆け上がり、東京オリンピックを経て経済成長も中休みに入った。その年にフラガールたちの練習がはじまる。

常磐ハワイアンセンターのオープンとともに、高度成長の後期に入る。炭鉱に未来はなくても、日本の経済も彼女たちの未来も明るかった。そんな時代の節目にあった日本の、常磐炭鉱という狭い場所を舞台とする映画だった。

紀美子は親友の早苗(徳永えり)にフラダンスをやろうとボタ山の上で誘われる。せっかく一所懸命練習したのに、早苗は北海道へ引っ越すことになる。その話をするところもボタ山の上。もう涙腺がゆるみっぱなし。徳永が芸能人に見えず、すっかり田舎の女の子になっていた。

カットしたいエピソードもあったけど、もともと3時間の映画を2時間に縮めたそうだ。もう一度見るなら、ロングバージョンがいい。それにしてもラストのダンスシーンはやはり圧巻だった。蒼井優のブルーリボン賞主演女優賞はあたりまえ。こういう作品なら、日本映画復権と騒ぐのも許せる。

できれば常磐炭坑節を踊るシーンを加えてほしかった。いくら廃鉱寸前でも、ヤマのパワーの発露だったろうから。フラガールのデビューの10年後に常磐炭鉱は閉山された。転業を余儀なくされた人は、慣れない仕事で大変だったろうなあ。

(2007-10-08)