リカちゃん



 リカちゃんとは言っても、リカちゃん人形のことではない。魔女の中の魔女、魔女リカ(「ひょっこりひょうたん島」)でもなく、梨木香歩の『りかさん』でもない。香山リカのことである。

 本を量産する香山だが、『結婚がこわい』では手際のよさがめだつ。

 出会いの機会がないから晩婚化・非婚化する。そういう前提で実施されている地方自治体のイベントがある。2500人のうち5組がゴールインし、成婚率は4%だった。予算と人手をかけてもこの実績だ。香山は突っ込む。そういうイベントに参加しても、「いい人」がいないからではないかと。
それでも“ヨン様”という格好の“いい人”にハマれた主婦は、まだ幸せだろう。彼女たちは“ヨン様”に夢中になることで、愛する喜びや自分を解放する楽しさを知り、かと言って現実生活を捨てて韓国に移住したところで実際に何かが始まるわけじゃなし、とわかってもいるので“いい人”ではない夫との生活を続けていける。(p38)
 こんな人目を引きそうな話題から、そんな“いい人”に出会えなかった既婚者の憂鬱へと筆を進めていく。そしてシングルに対しては、三砂ちづる『オニババ化する女たち』(集英社新書)とか酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社)とかを引き合いに出して、読者を引っ張り込んでいく。みごとなお手並み。

 山田昌弘によれば、「パラサイト・シングルの不良債権化」が起こっている。女性は自分よりも収入の低い男性との結婚をためらい、男性は女性の期待に気づき結婚をあきらめる。それに対する香山の処方箋は、
彼らに必要なことは、収入を上げることや収入の高い相手を見つけることではなく、むしろひとまず自分の収入を下げるなどして、生活のレベルダウンを図ることなのではないだろうか。(p131)
 香山は、カウンセリングを通して、こういう考え方に到達したようだ。

 しかし現実は、「女と男の関係をよくするためにどうすればいいかと尋ねられても答えはない。しかし一つだけはっきりしているのは、生産の縮小なしには何も始まらないということだ」(イヴァン・イリイチ)なんてことを、7年も前から書いてるけど、耳を傾ける人はいない。
(2005-10-02)